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亮介は、恐る恐るではあったが部屋へ戻っていった。ブツへの恐怖は日が昇ると多少薄れるらしい。

 

未央は自分も身支度を整えて、自転車に乗って出発した。

 

コラボメニュー開発は、担当させてもらえるかはまだ不透明だ。でもやらせてほしいと立候補したい。そうでないとしても、プレゼンで意見くらいは言いたい。言えるかな。どうだろう。できるのかな。

 

言いたいことが言えない。そんな自分がもどかしいと思ってどのくらい経つだろう。物心のつく頃から、流される方が楽だった。

 

それがここ数年で急に苦しくなった。もっとこうしたい、こうだったらもっと良くなるのに。それが言い出せないままでいることが、喉の奥に石でもつっかえたみたいに苦しくなる。

 

自分の意見が言える。そんな自分になれる日がくるのだろうか。そう考えながら電車に乗り込んだ。「篠田先生、おはよう。きのうのmuseさんとのコラボ企画の件なんだけど、今回は新田先生に頼もうと思ってるの」

 

チーフの先生にそう言われて、未央は、えっ? と聞き返した。

 

「篠田先生は、スタジオ限定レッスンのメニューも考えてるでしょ? それにこっちもっていうと、ちょっと負担かなと思ってるの。新田先生はこういうの初めてだからいい経験にもなるだろうし。もちろん、試食はみんなでして意見を出し合うから。いいかしら?」

 

いいもなにも、そう言われたら言い返すことなどできない。

 

「わかりました」

 

「せっかくだったのに、ごめんなさいね。スタジオ限定レッスンのメニューは、週末には考えておいてね。来週試食会やりましょう」

 

「はい……」

 

|新田奈緒《にったなお》先生は25歳で、もともとは有名な読者モデルだったという、とてもかわいらしい人。こんな人が彼女で美味しいご飯作ってくれたら幸せだなと思うくらい完璧。

 

たぶんそう言われるかなと思っていたけれど、いざとなるとやっぱり残念だ。

 

やらせてほしい。いまの自分にはそう言う勇気もない。もういやだな、こんな自分。

 

一日中、うつうつとした気持ちが抜けなかったうえに、夜のレッスン担当の先生が体調不良で休んだので代わりにやることになり、スタジオを出たのは22時半。最寄り駅に着いたときには23時半になっていた。

 

さすがに12時間勤務はキツいな。そう思いながら自転車をこいで家に向かう。

 

未央は亮介の連絡先を聞いていなかったので、連絡ができなかった。せっかくきょうは話をするつもりだったのに。クタクタになって、ドアをあける。コンビニで買ったおにぎりとおかずをちゃぶ台に置いてザッとシャワーを浴びた。

 

明日は休みだから、ビール飲むか。縁側の窓を開けて、あぐらをかいて座り、缶ビールを開けた。くーっ!! 仕事のあとのビールはやっぱり最高だよね。

 

サクラをなでながら、月を眺める。きょうは疲れたな。郡司くん、もう寝たのかな?そう思いながら亮介の部屋を覗きこむと、電気がまだついていた。

 

まだ起きてるんだ。ちょっと声かけてみようかな。すると、縁側の窓があいて、亮介が出てきた。

 

「郡司くん、ごめんねきょう約束してたのに……」

 

何もこたえず、亮介は外用サンダルをはいて、フェンスを飛び越え、未央の前までやってくると、ひざまづいて頭を下げた。

 

「未央さま、きょうはお疲れでした。本日、シュークリームのデザートをご用意しておりますが、いかがいたしますか?」

 

ビシッと丁寧な言葉遣い。きょうはなんだ? 執事か? 極道のマンガはどした?

 

「はっ、……あ、デザートね。うん。いただこうかな」

 

「御意」

 

ぎょ……御意。いったいいつの時代の本を読んでこうなったんだ? とんでもないイケメンが、風呂上りの気だるい雰囲気の執事になるのはついていけないような、至極どきっとするような……。

 

亮介は、サッと家に戻るとコンビニのシュークリームの袋を持って戻ってきた。

さっきと同様ひざまづいて、シュークリームを差し出す。ありがとう、と受け取ると少し下がって止まった。

 

控えている……って感じかな?

 

「郡司くん、こっちきて座りなよ。ビールまだあるから持ってくるね」

 

「明日も早いゆえ、酒は控えとうございます。となり、よろしいですか?」

 

「う……うん。どうぞ」

 

亮介は深く息を吐いて未央の隣に座った。「きょうはごめんね、連絡できなくて。連絡先教えてくれる?」

 

「至極感激です」

 

そう言って連絡先の交換をした。郡司くんの透明で綺麗な声は、いつもより低め。お風呂あがりの少し濡れた髪が色っぽい。

 

すき、ぜんぶ好き。

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