テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
海底遺跡の再起動から数日後
『スカイ・アクア・パラダイス』としての産声を上げたこの島に、静寂を切り裂く重厚な鐘の音が響き渡った。
雲海を割って現れたのは、巨大な浮遊機関を唸らせるアステリア王国の空中軍艦だ。
その船体に刻まれた王家の紋章を見た瞬間、俺の胸に冷ややかな感情が宿る。
それは、かつて俺を「ゴミ」と吐き捨て、泥水の中に放り出した、実の父と兄が率いる外交使節団だった。
「カイリ! どこだ、カイリ! 貴様のその力、王国の……いや、我ら家族のために役立てるがいい!」
「貴様の不手際は、この島を差し出すことで帳消しにしてやろう!」
甲板から身を乗り出し、喉を震わせて傲慢に叫ぶ父。
その後ろには、かつて俺を「無能の烙印」と共に嘲笑った騎士や魔導師たちの姿もあった。
彼らの瞳は、魔毒が消え失せコバルトブルーに輝く美しい海と
空に浮かぶこの奇跡の都市を、卑しい独占欲でギラつかせている。
俺はテラスの肘掛け椅子に深く腰掛けたまま
氷のように冷めた目で、雲の下から見上げてくる彼らを見下ろした。
「……悪いが、ここはアステリア王国の領土じゃない。そして俺には、君たちという『不純物』をこの清浄な島に招き入れる予定はないんだ」
俺が指先を軽く、優雅に鳴らす。
瞬間
島を覆う魔導バリアが超高密度の斥力を放ち、重厚な軍艦の艦首を紙細工のように強引に押し戻した。
「なっ、何だと!? 親に向かってその態度は──貴様、自分が誰のおかげで生きていると思って──」
「固有スキル『水質浄化(モレキュラー・フィルタリング)』───不純物排除(デリート)」
罵声を遮るように、俺の魔力が空間そのものを震わせた。
俺の視界には、軍艦の動力源である魔石の中に含まれる、微細な「ノイズ」が明確に映っている。
その不純物だけを分子レベルで完全に消滅させた。
完璧すぎる浄化は、時に破壊を意味する。
安定を失った魔石の出力は完全に停止し、轟音を立てていた機関が静まり返った。
制御を失い、ゆっくりと高度を下げて下降していく軍艦。
さっきまでの威勢はどこへやら、慌てふためき
醜く叫ぶ父たちの悲鳴が、遥か下の雲海へと遠ざかっていく。
「……もう、過去に囚われるのは終わりだ。俺の人生を濁らせる不純物は、すべて取り除いた」
俺の隣でその様子を静かに見守っていたアクアが、そっと、確かな熱を持って俺の手を握りしめた。
「はい。わたくしたちの国には、あんなに怖くて悲しい音は必要ありません。ここには、もっと素敵な音が溢れていますから」
◆◇◆◇
嵐のような来訪者が去った後
島には再び、穏やかで甘やかなスローライフが戻ってきた。
俺は真珠の力を使い、残っていた開拓リソースのすべてを投じて
この楽園を完成させるための「最終工程」に着手した。
「アクア、仕上げだ。君がいつでも地上を散歩できるように、そして君の故郷である海の中を、俺に自慢できるように」
俺は島の中央に、広大な『空中お花畑』を作り出した。
それはただの庭園ではない。
海水を分子レベルで浄化して得た希少なミネラルと、真珠の魔力を結晶化させたものだ。
太陽を浴びて輝き、夜になれば七色に発光する
「魔導花」の絨毯が、風に揺れて幻想的な旋律を奏でる。
さらに、島の真下───
海中へと続く透明な水路の先には、アクアの王家としての記憶を断片的に読み取り
現代の建築美を融合させて再現した『海底回廊庭園』を完成させた。
特殊な強化ガラス越しに、陸の鮮やかな草花と、海の極彩色なサンゴが混ざり合う。
世界中でここにしかない、境界線が消えた幻想的な景色が眼前に広がる。
「わぁ……っ!! カイリ様、見てください! お花が、波に合わせて踊っているみたいです!」
アクアはリビングのラグーンから、滑らかな動きで海底回廊へと泳ぎ込み
その美しく長大な尾びれで光るサンゴの間を軽やかにすり抜けていく。
俺は最新の魔導ダイビングスーツを身に纏って彼女の隣に並び、水中でも思考を直接伝える会話魔法を共有した。
「……ねぇ、カイリ様。わたし、あのとき『負担になるから、魔女に足を貰って人間になりたい』なんて思ったのが、バカでした」
「え?」
アクアは不意に泳ぎを止め、色鮮やかな魚たちが万華鏡のように舞う中で、俺の目をまっすぐに見つめた。
「人魚のままだからこそ、こうしてカイリ様と一緒に、海と空の両方を最高な形で楽しめるんですもの」
「アクア…」
「ですから、今のままの自分が……カイリ様の隣にいる今の姿が、一番好きです」
その告白にも似た言葉に、俺はこれ以上ないほどの充足感を覚えた。
追放されたあの日。
絶望と魔毒の中で辿り着いた、死の島。
「無能」と蔑まれた俺のスキルは、今や一人の少女の笑顔を
そして自分自身の人生を最高に輝かせるための「全能」へと昇華したのだ。
「俺もだよ、アクア。君がいてくれるから、この景色が何百倍も、何千倍も綺麗に見えるんだ」
俺たちは海底で繋いだ手を離さないまま、光り輝く回廊の奥へと泳いでいく。
ふと上を見上げれば、透き通った水面とバリアの層を通り越し
俺たちが創り上げた白亜の空中都市が、太陽の光を浴びて神々しく輝いている。
下を見れば、どこまでも深く
吸い込まれるような優しい蒼の世界が、俺たちの帰る場所として広がっている。
「カイリ様、次は何を作りましょうか? まだまだこの島には、空いている場所がありますし」
「そうだな……。世界一甘い、頬が落ちるような果実が実る果樹園でも作ろうか。アクアの歌声があれば、最高の味になるはずだ」
「ふふっ、楽しみです!歌なら、いくらでも歌いますわ!」
空飛ぶ島に咲き誇る七色の花と、蒼き海に結ばれた世界一強い絆。
俺たちの贅沢すぎるスローライフは、まだ始まったばかりだ。
𝐅𝐢𝐧.
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!