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月曜日。
本来ならば、また長い一週間が始まってしまったと肩を落とす朝だ。
しかし優奈は、ネット検索で見つけた例文。
それを見よう見まねで完成させた退職願を手に朝一番、まだ事務所にいる社長である村野と恭子の前に立っていた。
「おはようございます、朝のお忙しい時間帯に申し訳ありませんが……こ、これをよろしくお願いします」
優奈が村野のデスク上に置いた封筒を、二人はジッと見つめる。
特に恭子は目を丸くして、まさかこの子がこんなものを出してくるなんて……と、恐らくそんな顔なんだろうと思う。
そもそもこの小さな会社なのでこういった形式自体必要ではないのかもしれないが、話を切り出すには手っ取り早いと思った。
「やぁね。最近の子って、少し厳しくしたらすぐこうなんですもの」
恭子は呆れたように大袈裟なため息をつき、頬に手を当て白い封筒を村野に手渡した。
彼は厄介だなと言わんばかりに後頭部をカリカリと掻きむしり、優奈を見上げる。
「次の子が見つかるまではいてくれるんだろう?」
「……はい。ただ、前任の方と私も入れ替わりでしたし朝子さんもいらっしゃるので」
「で?」
「あまり、体調も良くなくてなるべく早く辞めさせていただきたいと思ってます」
言ってやったぞ。
優奈は、頑張り続ける心の奥で何度も繰り返していたセリフをようやく口にすることができた。
緊張で声が震えてしまっていたが、安堵感からか身体は熱く熱を持ち始めていた。
「朝子がいるからって……あの子は暇じゃないのよ? 何にも考えてないのね、無責任にも程があるわ。ねえ?」
「……まあなぁ。一ヶ月はいてもらわんと」
(……仕方ないか。次の人が困るもんね)
朝子が忙しいという、その言い分には文句の一つもつけたいところだが。
優奈は、引き継ぎという引き継ぎがなく恭子に面倒臭そうに仕事を教えられた。
それはとても辛かったし、教えられてもいないことに対して何度も『流れでこれくらいわかるでしょう』と睨まれたものだ。
しかし、だから次の人も、とは、もちろん思わない。そんなことを思う自分にも成り下がりたくない……。
の、だが。
正直に本音を言ってしまえば、辞めると伝えてしまった後にこの会社に通い続けることが恐ろしい。そうでなかった時の扱いが扱いだったのだから、去っていく人間に対してどんな対応をするかなど容易に想像できるから。
「……わかりました、では、一ヶ月……」
しかし優奈とて社会人だ、一応。
これも退職時のマナーだろう、と。優奈が頷き、村野の言葉を受け入れようとした時だ。カランカラン、と通りに面した表口のドアが開く音がした。
そこからの出入りは滅多にないので、驚いた優奈は振り向き、
「え!?」
同時に驚きの声を上げた。
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