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#夢
凪川 彩絵
(晴永さんの許嫁さんは……晴永さんとのこと、どう思ってるのかな?)
もし瑠璃香と同じように、彼女が晴永のことを好きになってしまったら……と思うと、キュウッと胃の辺りが痛んだ。
「瑠璃香?」
自然無口になったうえ、眉根が寄ってしまっていたんだろう。
悦子に心配そうに呼び掛けられて、瑠璃香は慌てて笑顔を作った。
「ごめん。一気に食べ過ぎて、お腹苦しくなっちゃった」
「えっ? 瑠璃香、大盛りにしたっけ?」
「そんなわけないじゃん」
悦子と顔を見合わせてくすくす笑っていたら、ちょっとだけ気持ちが軽くなった。
食事を終えて、二人で街を歩く。
ショーウィンドウを覗いたり、気になる店へ立ち寄ってみたり。
(悦子を誘ってよかった……)
穏やかな時間に、そんな風に思う。
きっと一人で家にいたならば、晴永と行くはずだった動物園のことばかり考えて、気持ちがふさぎ込んでいただろう。
――そのときだった。
「……あれ?」
瑠璃香の隣を並んで歩いていた悦子がふと足を止めた。
「ねえ、あそこの二人……」
つられるように視線を向けて――瑠璃香の呼吸が止まる。
通りの向こう。
イタリアンレストランの前で、ひと組の男女が話していた。
背の高い男。
見慣れた横顔。
けれど、どこか――ほんの少しだけ雰囲気が違う気もする。
(……晴永さん?)
そんな彼の隣にいるのは、黒髪が美しい、上品な雰囲気の女性だった。
テレビで見たことがある顔。
報道で何度か取り上げられていた、あの――。
「あれ、藤井田……千紗、だよね?」
悦子が小さく呟く。
「ほら、例の許嫁って噂の藤井田ホールディングスの御令嬢……」
悦子の言葉が、ゆっくりと頭の中に沈んでいく。
「……一緒にいるの、新沼課長……じゃなくて、社長補佐、だよね?」
確かめるような声音。
その一言で、瑠璃香の中の曖昧さが、ぐらりと揺れた。
(違う……かもしれない)
そう思う。
服装が、少し違う気がする。
雰囲気も、ほんのわずかに。
でも――。
「はーくん! 私の希望、ちゃんと通してね!?」
「分かってる。その件なら母さんにちゃんとお願いしといたって言っただろ?」
「信用していい?」
「ほんと疑り深いな、千紗さんは」
「おかげさまで!」
柔らかな声が、風に乗って届いた。
聞き慣れた声が、それに応える。
胸の奥が、ぎゅっと締めつけられる。
隣で悦子が「はーくん、千紗さんだって。めっちゃ親密じゃん」とつぶやいた。
悦子は瑠璃香と晴永の関係を知らない。
食事に無頓着な上司へ、ついでに作った弁当を渡していたこともあった。――あくまでそれくらいの関係だと、思っているはずだ。
だからこそ、言葉に容赦がない。
逃げたかった。
違うと思いたかった。
けれど――。
(晴永さんは会ったことないって言ってたけど……きっと私が思ってたよりずっと仲良しなんだ。……だって許嫁、だもんね)
自分で自分を納得させるように、そう思う。
足が、動かない。
視線も、逸らせない。
「……瑠璃香?」
悦子の声で、はっと我に返る。
「……あ、ごめん。ちょっと、びっくりしてぼーっとしてた」
何でもないふりをして、無理やり笑う。
心臓の音が、うるさいくらいに鳴っているのに。
コメント
1件
ええええ!? 嘘でしょ、はるまさくん!