それは小学三年生の夏の日だった。
俺、住吉 奏樹は昔、一条という苗字だった。
父は強くてかっこいい刑事で偉い人だった。
そんな父に夏休みのとある日別荘に連れて行ってもらった。
そこは海の見える場所で、水平線がとても綺麗で海がキラキラしていた。
俺は父が大好きだったから父と何処か出掛けるのが好きだった。
その一方母はあまり好きでは無かった。
母は俺の望まないことを押し付ける。
行きたくもない塾に無理やり行かされ、つまらない小説を買ってこられ、読めと言われる。
きっと母は俺が頭のいい人間になることを望んでいる。
でも俺は父とサッカーやキャッチボールをすることが好き。
だけど、父が刑事という忙しい仕事で俺には味方がいなかった。
だからあの夏の日はすごく好きだった。
父が海で遊んできてもいいと言うから俺は砂浜まで走った。
海は綺麗で空気も美味しい。
心穏やかになりここで暮らしたいと思うほど。
その時だった、女の子が俺に話しかけた。
「ねぇ、何してるの?」
その子はすごく可愛かった。ボブカットの髪型に花柄のワンピース、麦わら帽子を被っていた。
その子の名前は、川辺 唯菜といった。
ゆいなは優しくておっとりしてて話しやすい子だった。
だから俺は母親が嫌いなことをゆいなに打ち明けた。
するとゆいなは「私はねパパが嫌いなの。」と言った。
理由を聞くとすぐ怒鳴るし、叩くし怖い人みたいだ。
俺の母親は精神的に傷つけてくるけどゆいなの父親は体を傷つけてくるような人。
どっちも同じ辛いことを経験していることから更に仲が良くなった。
そこから一週間ほど滞在していた。その間毎日ゆいなに会いに行った。
毎日沢山のことを話して、その時に俺は初めて恋というものをした。初恋だ。
あんなに魅力的で可愛い子はいないと思う。
ゆいなは俺が家に帰ると言ったら綺麗な貝殻のネックレスをくれた。
「いつかまた会えたら、一目で分かるようにこれ、持っててね」
そう言ってゆいなは小さく手を振って俺を見送ってくれた。
それから七年後。俺は高校生になった。
その頃にはもう母の浮気で父と離婚していた。
父は俺を引き取ろうとしてくれたけど母に親権が渡ってしまい俺は母親とその浮気相手と暮らすことになった。
浮気相手の苗字が住吉で俺は住吉 奏樹となった。
俺の名前は父親がつけてくれたらしい。
だから俺は自分の名前を大切にしている。だからこそあまり苗字で呼んで欲しくない。
校舎に入った時俺の目の前をとある女の子が横切った。それは紛れもない川辺 唯菜だった。
あの頃と変わらないボブカット。
背が高くなり顔つきも変わっていたけど雰囲気はそのままだ。
まさか高校で会えるなんて考えもしなかった。
クラス表を見たがゆいなの名前はなく、俺は三組、ゆいなは二組だった。
だが唯菜は川辺という苗字から東堂という苗字に変わっていた。きっと親が離婚したのだろう。
俺は比較的頭のいい方だからテスト勉強に追われることも無く普通に生活をしていた。
廊下でたまにゆいなとすれ違う。
ゆいなは七瀬 彩というクラスの中心的人物と一緒にいた。
ゆいなの友達を否定する訳では無いがなんだか彼女には釣り合わない気がしてならなかった。
ただの俺の勝手な言い草だけど。
二年生に無事進級した時俺はゆいなと同じ三組になった。
委員会決めで委員長が決まり、続々と決まっていくと、最後図書委員会が残った。
ゆいなは予想外に図書委員に立候補した。
俺は咄嗟に手をあげてしまった。ゆいなが手をあげたから。
その日、緊張しつつ一言も話さず委員会が進んだ。
その後委員会が終わる時間ゆいなは委員会が終わるから帰ろうと言った。
一緒に帰るという意味だったのかは知らないが、そんなの緊張するから俺は本を読むふりをして、漫画を開く。
ゆいなが校舎を出る頃に俺がここを出ればいい。
そんなこと考えていたら、ゆいなの鞄のストラップが揺れた。
そのストラップは俺の好きな、『僕と君の花』というアニメの笠井 まひろだった。
そこからアニメの話に膨れた。
楽しかった、だけど、ゆいなは前みたいにそうきとは呼んでくれなかった。
覚えていないからだろう。
俺は前みたいに読んで欲しくて、名前を読んで欲しいと頼んだ。
ゆいなは驚きつつ戸惑いながら俺に「そうきくん」と呼んでくれた。
嬉しかった。だから俺は前みたいにゆいなって呼んだ。
嬉しかったけど、ゆいなは柊 輝の話をしはじめた。
本気で好きなんだろうな。
悔しかった。ゆいなが俺に向いてくれないのが悲しかった。
一緒に帰れたのは、嬉しいけど…。
次の日駅のホームでゆいなを見つけた。声をかけたら嬉しそうに「おはよう!」と言ってくれた。
可愛いし、嬉しかった。俺にもそんな笑顔を見せてくれるんだなって。
その時七瀬 彩がきた。
それは別にいいけど、二人で行きたかったのに邪魔されたらめんどくさい。
だから俺はゆいなを連れて他の場所に移動した。
ゆいなは満面の笑みで「そうきくんと行きたかった!」って…。
破壊力が強すぎて赤面しちゃったけど。
電車の中では俺の眼鏡外した方がかっこいいって、好きだって言ってくれた。
でもゆいなは私以外の前では見せないでって…。
片思いなのは分かってる。
だけど、期待していたい。
ゆいなはその日柊に傷つけられた。好きな人にあんな酷いをことを言われたら、しんどいだけじゃない。
あの日から俺はゆいなを守ってやりたいと思った。
ゆいな、大好きだ。
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