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ゆうき あきや
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第193話:四畳半に届いた100万の絵〜極貧アパートと極彩色のコントラスト〜
「……おいおい、マジかよ。こんなにデカいのか……!」
ノールビバン社の展示会で、美しきエウリアンの甘い罠に落ちてから数週間後。
北海道、帯広市。
築三十年、家賃四万円のボロアパートに、とんでもないモノが運び込まれた。
「ふぅ……。お客様、こちらで全部です。受領印をお願いします」
汗だくの宅配業者の兄ちゃんが、四畳半の部屋に次々と運び込んできたのは、俺の身長ほどもある巨大な平たい段ボール、計【3箱】。
「あ、ああ、ご苦労様。ありがとう」
俺——株式会社インフィニティ・ワン代表取締役社長、秋谷雪(40歳)は、印鑑を押しながら、部屋の面積の半分を物理的に制圧してしまった巨大な段ボールの壁を見上げた。
業者が帰り、静寂が戻った四畳半。
そこには、俺の一日一食の主食である袋麺の空き袋と、ヘタりきった三万円のゲーミングチェア、そして……異様な存在感を放つ3つの巨大段ボールが鎮座していた。
「ふっ……。ついに来たか。俺を年収三億円のプロデューサーへと導く、最強のメディアミックスの象徴が!」
俺は鼻息を荒くしながら、ハサミを手に取り、一つ目の段ボールのガムテープに刃を入れた。
ビリビリッ! と慎重に梱包材を剥がしていく。
分厚いプチプチの奥から姿を現したのは、重厚で高級感あふれる金色の額縁。
そして、特殊なアクリル板の奥で神々しい光を放つ——ファン〇ジ〇文庫で大人気の某有名ライトノベルの絵師が描いた、圧倒的なクオリティの版画だった。
「おおおっ……!! す、すげえ!!」
俺は、あまりの美しさに後ずさりした。
極彩色で描かれた、桜舞う中で微笑む美少女のイラスト。
特殊な印刷技術によって、髪の毛の一本一本、瞳のハイライトが立体的に浮かび上がっている。
続けて二箱目、三箱目も開封する。
幻想的な夜空の下の美少女。
そして、緻密なサイバーパンク風の世界観で描かれた美少女。
合計300万円。エウリアンの極悪ローン(120回払い・ボーナス月18万円加算)を組んで手に入れた、紛れもない【本物のアート】だ。
だが、問題はその【環境】だった。
カビ臭い畳。
壁には雨漏りの茶色いシミ。
色褪せたカーテンに、無造作に転がる猫のトイレ。
そんな限界貧困生活を煮詰めたような四畳半の空間に、一枚100万円の極彩色のアートが3枚も並んでいるのだ。
それはもう、「不釣り合い」という言葉では生ぬるい。
まるでスラム街のゴミ捨て場に、ルーブル美術館のモナ・リザを飾っているかのような、脳がバグるほどの異常なコントラストだった。
「(まあいい! 芸術ってのは環境を選ぶもんじゃない! むしろ、この泥臭い四畳半から世界を目指す俺たちのハングリー精神を象徴する、最高のアートじゃないか!)」
極限まで自尊心がバグっている俺は、その絶望的な違和感を強引にポジティブ変換した。
俺はPCの電源を入れ、ディスコードを立ち上げ、さらに海外向けの配信テスト用画面もオンにした。
モニターの中には、うちの冷徹秘書である結愛(ゆあ)のアイコンと、現在『待機画面』として映し出されている自社IPの稼ぎ頭——怠惰な猫耳娘VTuber『ヨモ』の3Dアバター。
そして足元には、本物の飼い猫であるヨモが、巨大な段ボールの切れ端をクンクンと嗅いでいる。
俺は、PCのWEBカメラの角度を調整し、背後に3枚の100万円版画がバッチリ映り込むようにセッティングした。
そして、四十歳のドヤ顔を限界まで作り、マイクに向かって高らかに宣言したのである。
「結愛、ヨモ!……と、猫じゃない海外向け配信のヨモも見ろ! これが一流の芸術だ。全部会社の経費で落ちるから安心しろ!」
四畳半の底辺社長による、勝利の雄叫び。
自分は今、一流のクリエイターに投資し、メディアミックスの第一歩を踏み出した最強の経営者なのだと、心の底から信じ切った、純度100%のドヤ顔だった。
『ニャア』
足元で、リアルのヨモが「バカな人間だ」と言わんばかりに欠伸をする。
そして、PCモニターの向こう側から。
我が社の冷酷無比な経理担当、結愛の、地獄の底から響くような絶対零度の声が返ってきた。
『……ルシフェル様。今、なんとおっしゃいましたか?』
「ん? だから、この300万円の版画は、会社の社長室(※四畳半)に飾る備品として、全額会社の経費で落とすって……」
『寝言は、一生寝てから言ってください』
「……え?」
結愛のタイピング音が、まるで機関銃のように激しく鳴り響いた。
『先日も申し上げましたが、その版画のローン契約は【秋谷雪という個人の名義】で結ばれています。さらに、その絵画は事業との直接的な関連性が証明できず、税務調査が入れば一発で「社長個人の趣味」として否認されます』
「な、なんだって……?」
『つまり、会社の経費としては1円も落ちません。社長が個人的に借金を背負って、ただのポスターの豪華版を買っただけです』
俺の顔面から、一瞬にして血の気が引いていく。
「ま、待てよ! でも、個人で払うにしても、会社から俺の口座にお金を回せば……!」
『不可能です。社長の役員報酬は【月給10万円】で来期まで固定されています。会社にいくら利益があろうと、社長個人の口座には毎月10万円しか振り込めません』
「あ……」
『そして、私が信販会社に問い合わせて調べた、社長の個人ローンの返済スケジュールを発表します。……月々の支払いは約1万1千円ですが、夏と冬の年2回、【ボーナス月加算として18万円】が強制的に引き落とされます』
結愛の無慈悲な宣告が、四畳半にこだまする。
『月給10万円の社長が、どうやってボーナス月に18万円を払うのですか? 完全に【詰み】です。おめでとうございます、社長。貴方は晴れて、自己破産への特急券を自腹で手に入れました』
「ぎゃああああああああああああああああああああああああっ!?」
帯広の四畳半アパートに、40歳社長の断末魔の悲鳴が響き渡った。
背後で神々しく微笑む3枚の美少女たち。
それはまさに、スーパーボトム社長の命を刈り取る、美しき死神の肖像画であった。
コメント
1件
あー、もうめちゃくちゃ笑ったし、ちょっと胸も痛かったです(笑)。四畳半のボロアパートに100万円の極彩色アートが3枚って、ビジュアルのコントラストが強烈すぎます。『スラム街にモナ・リザ』って表現、まさにそれだなと膝を叩きました。結愛さんの「自己破産への特急券」の宣告、冷酷だけど理路整然としていて、この作品の「笑えるけど現実は厳しい」バランスが本当に絶妙ですね。次、この借金どうなるのか心配で仕方ないです……!