アリィ「…とりあえず、ノアとジーク…というかテオスの話は分かったよ。どちらも、フィヌノア国に行く訳には行かないから、これから要警戒しなきゃいけない。それと悪魔は今まで通り。2人にそれぞれ、質問があるの。まずジーク。なんで黙ってたの?あ、怒ってる訳じゃなくて…」
ジーク「その時は憶測でしかなくて、確証がなかったんだ。…後単純に自分が特別〜とか言うのが恥ずかしくて…」
アリィ「こら、そこで照れちゃダメでしょ。」
ジーク「絶対変なやつ扱い受けると思って…」
アリィ「次にノア。忖度無しで真剣に答えて欲しいんだけど…」
アリィの気迫にノアは息を飲む。
アリィ「何気に迷ってたんだけど…ごめん、ポルポルとノア、どっちで呼ばれたい?」
ノア&ジーク「えっそこ!?」
アリィ「私にとっては重要だもん!」
ノア「ポルポルって名前も可愛くて気に入ってるし…どっちでも大丈夫だよ。」
アリィ「じゃぁその都度呼ぶよ。」
アリィ(良かった。気になったことは聞けたし、重苦しい雰囲気も無くなった。)
アリィ「私は暫く休まなくちゃね。でも正直…じっとするのは苦手なんだよね。」
ノア「分かる。」
ジーク「やたら、ポルポルが周りを回ることがあったけど、そういう理由だったのか…。ならアマラとまた買い物に行ったらどうだ?」
アリィ「いいの?」
ジーク「いいよ。なんか好きなものを買ってきてもいい。 」
アリィ「やったー!」
ジーク「ノアは…買い物とか興味…」
ノア「興味はあるけど、別の事がしたいな。」
ジーク「…ジハードに会いたいからって城に忍び込んだりは…」
ノア「しないよ!?ボクのことなんだと思ってるの…。」
アリィ「結構ノア、信用ないよ?」
ノア「嘘!?」
ジーク「覚えてないんだろうけど、お前悪魔の目の前に、自ら近づいたことあったんだぞ。 」
ノア「えっ!?なんにも覚えてない!」
ジーク「…やっぱり。じゃあ…」
ノア「ボク、ちょっとジークに付いていきたい。」
ジーク「俺に?いいけど…」
アリィ「今日はもう遅いし寝よ。おやすみ。 」
ジーク「そうだな。おやすみ。」
ノア「…ボク見張り?」
ジーク「んや、寝ていい。なにかあったら多分ルスベスタンが俺を叩き起しに来る。」
ノア「じゃあ…おやすみ。」
アリィ「アマラー!」
アマラ「朝から元気だな。どうした?」
アリィ「今日も一緒に買い物に行かない?
ジークに好きなものを買っていいって言われたんだ。」
アマラ「え、禁止されてんの?」
アリィ「そういう訳じゃないけど…共有だから…。」
アマラ「あぁなるほど。構わないぜ、アタシも気分転換がしたかったし。」
アリィ「…寝てないの?」
アマラ「いや、3時間は寝た。」
アリィ「それ寝たって言わないよ…。本当に大丈夫?」
アマラ「大丈夫大丈夫。折角誘ってくれたんだ。行かなきゃ損だ。今日は何を見たい?」
アリィ「服!」
アマラ「おっいいね。それじゃあ善は急げ!今すぐにだ!」
アリィ「やたー!」
ジーク「今大丈夫だったか?」
ルスベスタン「あ、ジークさん。明確な時間を伝えてなくてすみません…。今なら大丈夫ですよ。」
ジーク「いや…なんとなく事情は分かるから…今日も城からの呼び出しはあるか?」
ルスベスタン「まだないです。まだね。…1回で話終わらせてくれないですかね…。ところで彼はどうして? 」
そう言い、ルスベスタンはノアを指さす。
ジーク「ついてきたいって。」
ノア「ダメ?」
ルスベスタン「ダメじゃないですけど…あっ、そうだ!ノアさん。」
ノア「うん?」
ルスベスタン「アマラさんは多分大丈夫でしょうけど、貴方うっかり言いそうなんで釘刺しときますね。絶ッ対に本名で呼ばないでくださいね…!」
ノア「もちろん。」
ジーク「気になってたんだけどそれなんで?偽名とか使う必要…」
ルスベスタン「いや…あるんです…。あの、自分有名すぎて、警戒されて逃げられやすいんです。今回の目的は追い出すことじゃなくて掃除。だから油断させないといけないんです。」
ジーク「そりゃ難儀で…」
ルスベスタン「じゃあ始めますか。ノアさんは危ないので離れてください。」
ジーク「…やっぱり耳栓外した方がいいよな?」
ルスベスタン「…いや。聞こえます?自分の心臓の音。」
ジーク「聞こえるが…」
ルスベスタン「昨日考えてたんですよ。多分貴方は、自分よりも聴力が高い。だから耳栓をしたままで問題ないです。かなり集中力は要りますけど…問題ないでしょう。 」
ルスベスタンはジークの弓を一目見て、そう結論づけた。
ジーク「確かに弓は扱うのに集中力がいるが…これも扱ったことがあったのか。」
ルスベスタン「なんでも手を出したくなっちゃう性分なんです。最近は料理も挑戦してます。」
ノア「チャレンジ精神旺盛ー。いいね、そういうの好き。」
ルスベスタン「じゃあまずは…なんでもいいので、自分に攻撃を1回でも当ててみてください。」
ジーク「分かった。」
ルスベスタン「心配しないんですね…。 」
ジーク「お前ならどうにかすると思って。」
アリィ「…どれも高いな…うーん…。」
アマラ「髪飾り?服は?」
アリィ「それはそれで買いたいんだけど…」
アマラ「…んー、これとかどうだ?アリィによく似合うと思うぜ。 」
アリィ「これ…本で見たことある。サンクシャの花だ。」
アマラ「実際には見たこと無かったか?」
アリィ「うん。」
アマラ「面白いんだぜ。みーんな太陽が登る方に花が咲いてるんだ。不思議だろ?」
アリィ「見たことあるんだ。いいなぁ。」
アマラ「ああ。いつか見れるといいな。…ジークの好みなんて分かりやすいだろ。アリィが似合うものはなんだって好きだと思うぜ。 」
アリィ「ちっ、ちがっ…そんなんじゃないから!…ちょ、ちょっと思ったけど…」
アマラ「 へー?」
アリィ「ニヤニヤしない!」
アマラ「はいはい。」
アリィ「2人きりになるとすぐからかうんだから…。 」
アマラ「可愛くってつい。」
アリィ「可愛い?そんな冗談ばっか言ってるといつか、誰かに刺されるよ。」
アマラ「…気をつけるよ。」
(…本気で言ったんだがな。)
アリィ「…ちょっと失礼かもしれないけど…そうやってすぐからかうの、私のお母さんに似てる。」
アマラ「失礼?褒め言葉だろ。数百歳行ってるのに、そんな若く見られるなんて最高だ。…でもアタシがお母さんに似てるってお母さん大丈夫か…?」
アリィ「大丈夫だよ。アマラってば、どんな自己評価してるの?」
そう言い、アリィはくすくす笑う。
アマラ「…アタシにとってはアレだな。」
アリィ「?」
アマラ「昔仲の良かった幼なじみにアリィは似てる。」
アリィ「そう?」
アマラ「声も目も髪も全然似てないけど、そうやって口を手で抑えてくすくす小さく笑う仕草がそっくりだ。 」
アリィ「それ、似てるかなぁ?」
アマラ「似てる似てる。…アリィ。」
アリィ「何?」
アマラ「…アタシはあの数日前に、魔法を受けていない。全て覚えてる側のヒトだ。お前は覚えていないだろうが…抱えすぎない方がいい。ジークに言うのが難しいなら、アタシでもいい。…誰かを頼れよ。」
そう言い、アマラはアリィの頭を撫でる。
アリィ「わっ、急になに!?」
アリィが問うが、それ以上アマラは先程の発言について言及しない。代わりに紡いだのは知らない誰かの訃報だった。
アマラ「…アタシの幼なじみは死んだ。身体が弱くって外に出ることを許されなかったお嬢様。そのただでさえ、短い余生を他でもないアタシが縮めてしまった。アタシは知り合ったヒトがこれ以上死ぬのはゴメンだ。押しつけになってしまうが…無理だけはするなよ。」
アリィ「アマラ…。」
(ああやっぱり似てる。そうやって無理に踏み込みすぎないのも、なんにも知らなくても心配だけするのも。)
アリィ「心配してくれてありがとう。でも大丈夫。そうだ、何か飲みたい飲み物はある?」
アマラ「飲み物?果物系…甘水の実汁かな。」
アリィ「じゃあ果物屋に行こう。 」
アマラ「え!?髪飾り買わねぇの!?」
ジーク「な、なんにも当たらないが…!?」
ルスベスタン「早く当ててくださいよ。このままじゃ寝てしまいますよ。」
ジーク「煽ってくるんだけど!」
ノア「ボ、ボクに訴えられても…」
ザックス「お取り込み中申し訳ございません。」
ジークが悔しそうにノアに訴えていると、ザックスが近づいてくる。
ジーク「え誰…?」
ノア「このヒトは、恒陽国の兵団長だよ。」
ザックス「お知り合いの方々にお聞きしておりませんか?砂漠で転がってたものです。」
ジーク「ああ!アマラとアリィが言ってたヒト!」
ザックス「その節は多大なるご迷惑をおかけして申し訳ございません。」
ルスベスタン「自分ザックスさんに何があったかそんなに説明してないはずですよ?」
ザックス「ゲティアにお話したかと思います。それで…少々し、指導が入りまして…」
ルスベスタン「あ…。」
ジーク「…アリィから聞いた感じと全然違うな。」
ザックス「あれは素ではございますが…私の失態は恒陽国の失態。これ以上の恥は晒せません。」
ノア「自分を戒めてる…。もしかしてお呼ばれ?」
そう言い、ノアはルスベスタンを指で指す。
ザックス「はい。何度も申し訳ございません。」
ルスベスタン「…いや、仕事なので。」
ぐうぅ〜と誰かの腹が鳴る。
ザックス「…誰か殺してくれ…。」
ルスベスタン「まぁまぁ落ち着いてくださいよ。もうこんな時間ですか。今すぐじゃないとダメです?」
ザックス「…いえ。時間が時間ですので、先にお伝えに来ました。」
ルスベスタン「そうでしたか、ありがとうございます。…ところで永夜国に来て大丈夫なんです?ヘイト向けられてるんじゃ…」
ザックス「こっちに昔から、定期的にサボりに来てるから大丈夫だ。 」
ノア「ちょっと待ってこのヒト反省してるフリしてるだけなんだけど。」
ジーク「もう1回怒られた方がいいと思う。」
ルスベスタン「まぁまぁ。一緒に食事に行きませんか? 」
ジーク「俺も腹が減ったし…高くないものなら食べたい。ノアは…」
ジークは憂いげにノアに問う。
ノア「んーボクは、パス。その辺お散歩してる。」
ジーク「分かった。勝手に買い食いしていいからな。」
そう言い、ジークはノアにいくつかお金を持たせる。
ノア「はーい。」
アリィ「甘水の実を1つ下さいな。」
店主「小銀貨3枚だけど大丈夫かい?」
アリィ「そういやこの国高いんだった…でも大丈夫。買うよ。」
店主「羽振りがいいねぇお嬢ちゃん。」
アマラ「なぁ。これは飲み物じゃなくて原材料だぞ?」
アリィ「いいのこれで。宿に戻って厨房を借りよう。よいしょ…」
アマラ「な、何が何だか…ああ、ああ、そんなちっこい体で甘水の実を持つなんて無理だからアタシに渡せ。危ないぞ。」
アリィが甘水の実を持とうとすると、アマラは疎か店主までもがアリィと、甘水の実を傷つけまいと構えていた。
アリィ「じゃあお願い。」
(変なの。)
アマラ「ああ。任せておけ。」
店主「全く…ヒヤヒヤしたわい…挑戦が悪いこととは思わんが、もうちっと安全な挑戦にしてくれ。 」
アリィ「あはは、ごめんごめん。それじゃあ行こう。」
アリィ「すんなり厨房を借りられてよかった。」
アマラ「すんなり…?気のせいか、宿屋のヒトがお前に怯えてた気がするんだが??一体何したんだお前…」
アリィ「さぁ一体なにしたんでしょうねー。」
宿屋の店主「あのぅ。夜ご飯の仕込みがありますので、なるべく早くしてくれると…」
アマラ「アリィ達の宿は3食付いてくるのは聞いてたが、こんな早くから仕込みを始めるのか。」
宿屋の店主「夕方頃にお召し上がりになられる方もいらっしゃいますので…」
アリィが宿屋の店主の方をむくと、店主は肩をビクッと震わせる。
宿屋の店主「ああぁ…!お願いですからなんでも貸しますので、他の宿屋には行かないでくださいぃ…!」
アリィ「なんにも言ってないよ…分かった。なるべく早く終わらせるね。」
アマラ「あー…そういうことか。しかし3食か…。 」
アリィ「揺らいでるの?」
アマラ「少し。」
宿屋の店主「是非ともこちらに!!」
アリィ「商魂逞しいね…。でもサボってていいの?」
宿屋の店主「はっ、そうでした…!では、ご用件が終わりましたらお教えいただけると幸いです。」
そう言い、宿屋の店主は急ぎ早に厨房を出ていく。
アリィ「…これでゆっくり話せるね。アマラ、甘水の実をここに置いて。」
アリィは何やら大きなボウルを取り出すと、アマラにボウルの中に甘水の実を置くように指示する。
アマラ「あいよ。置いたぞ。それで?次はどうすれば…」
アリィ「危ないかもだから少し離れて。」
アマラ「分かった。」
アマラが離れたのを見届け、アリィは甘水の実に片手を置く。そして見えない誰かと会話をし始める。
アリィ「…いいの。…心配してくれてありがとう。…でも決めたことだから大丈夫。…そんなの……お願い。 」
やがて見えない誰かとの会話を終えたアリィは改めて、甘水の実に手を置こうとする。恐る恐る触れようとする。やがて、人差し指が甘水の実に、ほんの少し触れる。
アマラ「……。 」
人差し指が触れたのとほとんど同時だった。甘水の実が、砕けるように割れたのは。アマラの目が見開く。
アマラ「…アタシでも切るのに時間がかかるくらい硬い果物なのに…」
アリィ「……。」
アリィは何も答えない。
アマラ(…これ以上聞くな。ってことか。でも。そんな自己嫌悪に満ちた目をしてる子供を放っておくほど、まだ腐っちゃいないんでね。)
アマラ「なるほどな。化け物みたいな自分が嫌で悩んでるってとこか。」
アリィ「…みたい?違うよ。私は化け物なんだ。人間だと思ってたけど…」
アマラ「これはフェニックスとしてとかじゃなくて、アタシの個人的な感想だけどよ。今お前の力、アタシはいいなと思ったぜ。確かにちょっとした事故が怖いが…ほんの少しの体力を削るだけで、果物から飲み物を作って安上がりにできたり、倒れてる誰かを担ぐことも出来るんだ。世間は悪魔の力をおぞましいというが…アタシは超羨ましい。」
アリィ「羨ましい…」
アマラ「差別がなけりゃ、だけどな。まぁアタシの場合差別なんて意味ないんだが。なぁ、携帯暖火って知ってるか?」
アリィ「知ってるよ。私達もいくつか持ってる。」
アマラ「防寒対策として有名だよな。雪原地域で遭難した時にヒトの命を助ける代物。でもな、携帯暖火って、ヒトを殺す道具にもなれんだぜ?」
アリィ「…え?」
アマラ「アレは空気中にある酸素をより多く取り込み、より長く強く燃えようとする。だからこそ、密室で使えば本末転倒なことに、ヒトに必要な酸素分まで取り込んじまって結果死ぬ。 」
アリィ「何が…」
アマラ「何が言いたいのか、だろ?アタシが言いたいのはたった1つだ。魔法も携帯暖火も使用者次第。かつて人々が恐れた文明の証、火と同じように。 」
アリィ「…私は…」
(これをそんな風に使いこなせない。)
アリィ「貴方に…もっと早く会えたら…貴方が、あの村にいてくれたら…よかったのに。」
アリィ(私はもう後戻り出来ない。 )
アマラ「…アタシもそう思うよ。」
(アタシじゃ、ダメだったらしい。)
アマラ「アリィ、馬鹿なことは考えるなよ。」
アリィ「…気をつけるよ。さてお安くジュースも作れたし…飲む?」
アマラ「飲みたい。 」
アリィ「はいどうぞ。ジークは…まぁ部屋に置いておけばいいか。美味しい?」
アマラ「めっちゃ美味い。」
アリィ「それはよかった。本当は砂糖とか入れたのがジュースなんだけど…入れたらお金がね…」
アマラ「砂糖はどこの国でも高級品だからな…。悪い、小便に行ってくる。 」
アリィ「女性がそんな言葉使っちゃダメだよ。」
アマラ「へいへーい。」
アリィ「……。」
アリィは壁に寄りかかり、暫し考え込む。
アリィ(…酷くされたらどれだけ楽だったんだろう。皆嫌ってくれたら…分かってる。本気で心配して気にかけてくれてるのは。でも、誰かに優しくされる度に、ありもしない希望に縋ってしまう。大人しく私に諦めさせて。貴方達の優しさが私には、毒としか受け取れない。 )
アリィ「…なんてね。」
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