コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
《バルの待つ場所へ》
「兵隊さんたち、姫様を頼みまさぁ!!!!!」
気合いを入れるために、慣れない大声を
張り上げたナイト•クラウン。
そんなナイト•クラウンに応えるべく、
ギャンビット軍の兵士二人は無言で頷き、
ロカを担架で運んだ。
ルークは驚いたように目を見開いた。
そして、すぐに
「…….問題ない、計算の範囲内だ。」
……と言って、ルークに剣を向けた。
「……..ゼェ…….ゼェ…….ゴボッ……ヒュー」
肺や腹部を貫かれたロカが痛みでショック死
しなかったのにはとある理由があった。
それは今朝、ロカがビショップ•マカロンに
口移しで毒を飲ませたさいほんの少し、本当にほんの少しだけマカロンの唾液を接種したためである。
それは、奇しくもマカロンの体液の薬用効果の見込めるギリギリの接種量だったのだ。
マカロンの体液の効能は、《代謝の促進》
だけではなかったのである。
《異常オキシトシン過剰分泌障害》。
マカロンは自らの血液を分析し、自らが持つ
病気に、このような病名をつけた。
探偵ナイト•クラウンの推理は完全に正解では なかった。
彼女は薬でオキシトシンを増やしていたわけではなかった。
彼女は生まれつきか、幼少期の過酷な飢えの苦しみから身を守るためか、血液に含まれるオキシトシンの量が人よりもはるかに多かった。
彼女が子供を産めない体であったのも そのためだ。過剰なオキシトシンの分泌は 子宮の縮小を促してしまうためである。
さて、オキシトシンは「愛情ホルモン」、
「幸せホルモン」と呼ばれるホルモン。
偶然か、神のイタズラか。マカロンの唾液は
ロカの血液中を駆け巡り、奇跡的に痛み止めとして 機能したのである。
それはさながら母親から娘に送る、
最後のギフトのようだった。
(いってらっしゃいませ。)
朦朧とし、混濁した意識の中で、ロカは
マカロンの声を思い出していた。
そして、今ロカを運ぶ軍人は、ギャンビットの 輸血によって命を救われていた。
それを決してロカは知ることはない。
だがギャンビットは、 ギャンビットが残したものは確かにそこにあった。
ギャンビットの心臓が止まってもなお
《シトラス王国の心臓》は確かに脈動していた。
(……ほんと、お前ら夫婦はどうしようもねぇなー。)
若かりし頃のギャンビットの声を、何故か
ロカは思い出していた。
軍人達はナイト•クラウンが見つけ出した王宮からの脱出経路へと向かっていた。
しかし、ロカは脱出経路には向かわなかった。
「…….いいわ、ここで止めて頂戴。」
うわ言のようにロカは言った。そこは、ロカの寝室だった。
「しかし……..。」
兵士達は顔を見合わせた。
「いい….,から……,さっさと、行きなさい. ….. 処….刑す….るわ…..よ。」
女王ロカの声と目から何かを感じとった。
軍人達はロカを担架からそっと降ろした。
そして、
「「ご武運を!!!!!!!!!」」
と言い残し、ロカの寝室に誰も入らないよう
剣を抜いた。
いよいよ、『悪逆のロカ』最後の復讐劇が
始まる。