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夏祭り会場の近くにある神社で、炎露は着付けしてもらった紺色の浴衣を着て、なかなか集合場所に来ない女子3人を待っている。
手には絣の生地でできた巾着を持っている。
今回、炎露は愛華の弟の炎帝に着付けしてもらったらしく、この一式は炎帝やその弟の炎海、空炎のお下がりだ。
炎露はこの時思った。矢張り、女子の準備と言うのは、時間がかかる物なのだと。
彼もまた、多くの弟妹を持っているからこそ出てくる考えだろう。
「お、お待たせアル」
そんな静寂を打ち砕くように愛華や鈴華、陸華とこの姉妹達ににこやかに、キャーキャー言われつつも応援されながら着付けされた中華が恥ずかしそうに声を発した。
中華は、浴衣の生地は深紅で、裾と襟に金の龍が丁寧に刺繍されており、黄色の帯が片蝶結びで、とても可愛らしい。また、かんざしは、愛華のセンスで蓮の花モチーフの物のようだ。
そんな中華は、恥ずかしそうに金の牡丹を刺繍されている巾着の紐をいじっていた。
そんな中華を目前に、炎露は石化したかのように固まった。
一時的に炎露の脳内は、緊急会議を開催している。
議題は、中華が可愛すぎるのでどうにかする対処法。だ。ところどころ日本語がおかしいのは炎露が相当心の中では慌てふためいている証拠だ。
「炎露!なんか反応したげなよ!」
自分が可愛くなかったのか、なんて不安になっている中華を見てられず、南華は炎露に怒りだす。
「センパイ?黙ってるだけじゃ分からないですよ!それに、先輩が可愛そうじゃないですか!」
北華までもが炎露を責めだした。
普段彼女は、炎露の事を“センパイ”と慕っているのでこれは、超絶稀な事なのだ。
そこで、炎露はようやく我に返ったようだ。
「その、中華……。…綺麗だ…」
少し顔を赤くして炎露がそっぽを向きながらそう言うと、中華の顔はたちまち紅色に染まっていった。
そんな2人の様子に満足したのか、互いに浴衣を褒め合い、シスコンは皆そうなのかと思わせるほど、北華が南華の浴衣姿を激写している。
南華の浴衣は、白地に赤や青といったカラフルな花火が描かれており、帯は薄いグレーで涼し気な雰囲気だ。
普段はおろし髮なのだが、今日はアップにして、音符モチーフのかんざしをつけている。
北華の浴衣は、黒地に赤や青といったカラフルな花火が描かれ、帯は、統一感のある黒だ。
普段は三つ編みにすることも多いが、今日はハーフアップにして、赤く淡く光る星のついたかんざしをつけている。
「あ、先輩!イチャついてるとこ申し訳無いんですけど、写真を1枚良いですか?」
スマホのカメラ機能を起動したまま、北華が中華の元へ駆け寄る。
「?別にいいアルヨ」
不思議に思いつつも中華は快く承諾した。
「じゃあ、ちょっと動かないで下さいね」
そう言って北華は、普段自身の姉を撮影しているスマホのカメラ技術で中華を撮影していた。
「撮った写真を湾華に送らないと…」
撮影し終えると、何やら北華が呟いている。
どうやら、中華の妹の湾華(北華と同じ3大シスコンの1人)に中華の写真を渡すようだ。
勿論、タダという訳では無いらしく、「500円ね」と言った様子で、しっかり商売していた。
まぁ、「その程度、端金だ。姉貴が最高に良い感じに撮れてるから1000円くれてやる!」と湾華からLI〇Eが来ていたのだが……。
「じゃ、カップルは2人でイチャイチャしなよ〜!」
そう言って南華は、北華の手を掴んで颯爽と中華と炎露を置いて駆けて行った。
北華は、大好きな姉と手繋ぎするのが相当嬉しいらしいが、先輩2人に「センパイ!しっかり先輩をリードして下さいね〜!」と叫んでいた。
「…お、おう…」
北華達が爆速で消えていったのを見送ってから炎露はそう呟いた。
とうの中華は、「い、イチャイチャ…」とか、「ふ、二人っきりって事は……こ、これは、もう、で、で、で、デートっ!」などなど、1人で戸惑っているようだ。
「じゃあ、中華、はぐれんなよ」
そう言いながら炎露は、不器用に革手袋をはめた手を中華に差し伸べた。
「…………ぅん」
小さく返ってきた返事と、たしかに繋がれたその手に、鉄仮面とまで揶揄される炎露が、小さく、愛おしそうに笑った。
と言ってもやはり、炎露の無口さ加減は変わらないらしく、中華が照れや緊張から1言もまだ話せていないために、2人の間には沈黙が流れていた。
何か話した方が良いかと、中華は話題を必死に探しているが、炎露は何1つ気にも留めていない様子だ。
「ぁっ!……、ぁの、さ……。炎露の手……、冷たい、ネ……?」
何とか振り絞って中華が出した答えは、それしかなかった。
「……悪い……。革手袋着けてきたし、マシかと思ったんだが…………」
そっと繋いだ手とは反対の手で、中華の顔にかかった髪を払い除けて、炎露は呟くようにそう言った。
中華は炎露に、謝ってほしかったわけではなかった。
炎露の表情は相変わらずピクともしてないし、声も平坦なまま。それでも、炎露は驚くほどに繊細な心を持っているのだ。
きっと傷付いてしまったに違いない。
「そう言うわけじゃなくて……!……我は、体温高いから……、炎露の手……、気持ちいい、アル……」
顔を赤くしながらも、中華は炎露の手を自身の頬にピタッとひっつけて、炎露の顔を見る。
幾ら中華が下駄を履いて身長をかさ増ししようが、169,7cmの身長だろうが、217.5cmの身長で下駄も履いている炎露の顔を見ようとすれば、それはもう当然見上げる事となる。
そしてそれは、完全なる上目遣い(バリ可愛い)を炎露にする事になるのだ。
炎露はそれに沈黙した。いや、脳内がシャットアウトしただけだ。
そして、中華は気付いてしまった。凄く恥ずかしい事をしている。と。
幸いな事に、周囲の人々は祭りに夢中で、2人の甘い雰囲気には気が付いていない。
既に赤くなっていた顔をさらに紅くして、中華は手を繋いだまま。……ちゃっかり、恋人繋ぎにし直して、手を下におろした。
「…………ん……。なら、良かった」
それだけ言って、炎露はまた話さなくなってしまったが、中華の手を握る手の力は少しだけ強くなっていた。
「……ぁ……。あれ、食うか?」
照れ隠しか、気遣いか。炎露はたまたま近くにあった。そして、事前にインターネットで女性人気のある屋台と調べて出てきたものの1つ。
ベビーカステラの屋台を指さした。
「あっ……。あれ、我が好きなやつアル!炎露、知ってたアルカ?」
嬉しそうに満面の笑みを咲かせた中華に、炎露はまた不器用に「偶然だ」とだけ答えた。
甘い雰囲気で胃もたれしそうなこの2人とは真逆に、南華と北華は人気の無い、近くの小さな神社の境内にいた。
小さなベンチに座り込んだ北華は、酷く落ち込んでいた。
それは単に、北華が人混みに酔ってしまったために、最愛の姉・南華と屋台巡りを謳歌できなかったからである。
先程まで居た屋台近くの騒動とは対照的に、ここは北華の醸し出すどんよりとした空気が漂っていた。
励ましの言葉を贈るわけでもなく、ただ南華は北華の隣に腰を下ろして、両腕をぐっと広げると、北華を力いっぱい抱きしめた。
「私がここにいるから大丈夫だよ。ね?」
南華は優しく微笑みながら、北華の髪を撫で下ろした。
「……ぅッ……、姉さん……っ!……あいし゛て゛る……」
こみ上げてきた涙で、北華の声は濁点混じりになっていた。
そこでちゃっかりスマホを取り出してシャッターを切るのが、何とも言えない空気をまた作り出していた。
同時刻、炎露と中華はまだ恋人繋ぎをしたまま、そろそろ花火の場所取りをしようかと移動していた。
だがやはり、真夏の夜の、人混みの中を歩くというのは大変なものだ。
いくら手を繋いでいるとは言え、炎露は中華がはぐれてしまわないか、ほんの少し心配で、中華の手を引いて自分の方へもっと近付けた。
炎露の腕の中にスッポリと埋まる形で引き寄せられた中華は、恥ずかしさで顔を赤らめていたが、拒絶する事はなく、むしろ炎露の低い体温を全身で感じているようだった。
そうやって歩いている内に、2人は花火が綺麗に見えると人気のスポットに着いた。
と、同時に、花火の打ち上げられるヒュ〜と言った音が聞こえた。
ハッと2人が顔を上げた先のその濃紺の夜空に、大輪の赤い花が咲いた。
ただ少し、中華はたまたま前にいる子供を肩車した父親であろう人によって、花火の端しか見えていないようだが……。
色とりどりの花火が打ち上がる中、中華は何とか花火を見ようと背伸びをし、炎露はその様子を眺めていた。
が、ようやく炎露が動き出した。
「……中華」
たった一言、炎露は中華の耳元で声をかけると、グッと中華を抱き寄せて、自身の片腕に座らせた。
「……ぇっ……ちょっ、炎露っ…………。……謝謝……」
驚きと照れと羞恥心で、中華は炎露の腕の上でバランスを崩しかけたが、そこは勿論炎露がちゃんと支えていたので大丈夫だった。
「……ん」
炎露の返答は相変わらずたが、花火を幸せそうに見上げる中華を、花火には目もくれずに見つめていた事は、一生中華は知り得ないだろう。
__意外な穴場スポットの人気の無い神社の境内から、たまたまその光景を目にした南華と北華が何も言わなければ。
コメント
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もう…この2人、尊すぎて心臓が持たないんだけど!(笑) 浴衣姿の中華に「綺麗だ」って言う炎露の不器用な優しさと、それに照れる中華の反応が最高すぎる。特に手を繋ぐシーン、恋人繋ぎに直しちゃうところとか、もうニヤニヤが止まらないよ。それにしても、身長差217.5cmと169.7cmって、まさに“お姫様抱っこ”ならぬ“腕に座らせる”が成立する絶妙な設定だね。この世界観の作り込み、本当に好き。南華と北華のシーンも、シスコン姉妹の関係性がよく描けてて微笑ましかった。次は花火、どうなるんだろう…楽しみにしてる!
ただのあまとう
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