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ただのあまとう
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今日は夏祭り3日目。
くじで決められたと言うよりも、予定が合うのがこのメンバーしかいなかったと言う理由で作られた第3グループは、全員愛華と鈴華の弟妹だった。
長男の炎帝が、愛華からずっしりとした財布を手渡されて手汗をかいているなんて露知らず、三女の陸華は兄弟の服装に目を光らせた。
その視線に背筋が凍り、互いに目を合わせた双子の炎海と空炎は、次の瞬間には、避難経路を確認していた。
「ねぇ……、兄さん、炎海、空炎」
普段の何倍も低い陸華の声が、一室に響く。
逃げ出そうと部屋を飛び出しかけた、炎海と空炎は見事に陸華に服の襟を捕まってしまっていた。
「なんで……、なんで……っ!……なんで!?なんで夏祭りなのにみんな私服なの?!!」
「まだ普段の軍服の方がマシなのに!?流石に目立つかぁ…ってなってなんでTシャツと短パンなんだよ?!」
陸華、過去一のご乱心であった。
「まだ炎海と空炎は、シンプルな白黒で色違いでまだマシだとしましょう!けど兄さん!!何そのダッサイTシャツ!?!」
陸華の怒鳴り声、炎帝に効果はテキメンだった。
「……いや、その……、最近貰った、一番新しい服でして……」
そんな風に炎帝が言い訳を述べようとしたが、陸華がその声を掻き消すように怒鳴る。
「背中にデカデカと“夏祭り”なんて書かれたTシャツ貰うなよ!!」
この陸華の言葉で、炎帝は完全にオーバーキルだ。
「……チッ。着物をお下がりとして炎露の為に丈を伸ばしたりして渡してたから不思議だったんだよ」
陸は珍しく舌打ちをしながら、正座をして目前に並べた兄弟達を背に、タンスの中を漁りだした。
あーでもない、こーでもないと言いながら、陸華はタンスの中から大量の掘り出し物を後にいる炎海と空炎に投げつけ、キャッチさせる。
「ほら!速くこれ着て!」
3人に漁り出した小物や羽織を押し付けて、陸華は玄関へパタパタと足音を鳴らしながら向かった。
何故だが無言で、「速く来いよ」と言われている気がして、男3人はいそいそと押し付けられたものを羽織ったり身に付けたりした。
5分足らずで付け足しで渡されたものを着終えた3人は、陸華の逆鱗に触れる前に、玄関へと早々に向かった。
玄関で仁王立ちする陸華の前には、下駄が1つと、白と黒の雪駄が1つづつ置かれていた。
「下駄は兄さんの。白の雪駄は炎海、黒の雪駄は空炎のだから。……まさか、スニーカーで行こうだなんて、考えてないよね?」
そう淡々と説明する陸華の目が一切笑っていないのが本当に怖い。
下駄や雪駄を前に、男共はようやく合点が言ったような顔をしていた。
(この為に足袋を履かされたのか!)
((この為に靴下脱がされたのか!))
そう言いたげな顔をしていた。
無事に履物も履かせて満足気な陸華は、深緑色の生地に白百合の刺繍の入った浴衣を白磁色の帯で締め、白と水色の摘み細工の花の髪飾りを三つ編みにして、頭のしたあたりで団子にした髪につけていた。
因みに髪型と髪飾りは、長女の愛華にお任せにするとこうなったのだ。
炎帝は先程のダサTに加えて、黒の法被をはおり、短パンの下に黒レギンスを履かされ、紺と白の市松模様の手拭いを肩にかけ、深緑の信玄袋を腰に着けている。
炎海も白Tに加えて、深緑のリネンの長羽織と、シルバーの細身のチェーンネックレスを首にかけている。
空炎も、さっきの黒Tの上から白磁色のリネンの長羽織をはおり、超薄手の水色のストールを首にかけている。
如何せんこの兄弟、顔も体型もいいのだ。
それ相応に仕立ててやれば、想定以上の出来になるのだ。
「よし、じゃあ〜、しゅっぱーつ!!」
そうこうして機嫌良く陸華は歩き出す。
その後ろを炎帝はシゲシゲと、双子は何かをずっと話しながらついて行く。
「目指せ、屋台全制覇」
「ヒッ」
小さく陸華が呟いた一言に、炎帝の喉から小さな悲鳴が聞こえてきたのは気の所為だろう。
そうしてやっと炎帝は後悔した。
今日は胃薬持ってきてないな。と。
早速キリキリと痛む胃をさすりながら、炎帝は静かに覚悟をするしかなかった。
さて、炎帝の胃が痛む中であれ、1、2分程歩くと一行はとうとう夏祭り会場に着いてしまった。
その時に、陸華は気が付いてしまった。
「兄さんたちのコーディネートとしてたから、時間が足りなくなってる……!!」
その心からの絶叫は、後半声にもならずに祭りの騒動に消された。
「じゃあ早速回らなきゃじゃん!!」
「速く、行く!!」
そう言いながら、直ぐ様人混みの隙間を走って行こうとする炎海と空炎を、炎帝は何とか羽織の襟を掴んで引きずり戻した。
ついでに我関せずと言った顔で屋台へと足を進めです陸華の手を掴んで、引き寄せた。
「三人共、良いですか?私から離れない事。勝手な行動はしない事。行きたい屋台があるならまず私に声をかける事。この三つを守れなければ、引きずってでも家に連れ帰りますからね」
グイッと3人に顔を近づけて、炎帝は3人によく言い聞かせる。
こう言う時はやはり、長男でしっかり者なんだなと、感じさせる。
「あ、後、ナンパ野郎が毎年5人は必ず来るのですが、その時はちゃ〜んと、私に言ってくださいね?潰しに行きますから」
黒い笑顔で、さらっと怖い事を言うのは、長女の愛華譲りだろうか。
静かに、けれど高速で頷く3人に満足したのか、炎帝は掴んでいた襟や手をパッと離した。
「ハイハイハイハイ!!俺はまず焼きそばが食べたい!!」
「イカ焼き、先に、食べる!」
「そんなのより、私はフランクフルトが食べたい!」
早速始まった妹弟による食べたいもの争い。
炎海は元気よく挙手し、空炎は控えめだがしっかりと自己主張をし、陸華はその2人を押さえつけて主張する。
「陸ねぇ!痛いってばぁ!」
「イカ焼き、絶対……!」
「フランクフルトが良いでしょ……!?」
そうやって争う妹弟を前に、炎帝はさっそく胃薬を自室の机の上に置いてきた事に、2度目の後悔をしている。
「一番近くにあるのが、フランクフルトですし、まずはそこにいきましょう。その次は、焼きそばとイカ焼きです。たぶん隣同士でしょうし……」
もう、炎帝は家に帰りたくなってきてしまったが、ここは大切な妹弟の為。炎帝も珍しく兄としての、男としての意地で道順を決めて、すぐにでも走り出してしまいそうな3人と共に屋台へと向かった。
そうこうして、あちこちの屋台(たこ焼き、唐揚げ、フライドポテト、かき氷、綿あめ、チョコバナナ、りんご飴、ジャガバター……。などなど)を巡り、次は射的にでも行こうかと歩き出した時の事だ。
やはり来た。今回は想定よりも遅かったが、来た。
ナンパ男が。
「ねぇ、そこのお姉さん。いやぁ〜、すっごくタイプで思わず声かけちゃった〜!」
いかにもチャラそうな男が2人。
そして、陸華の後で不機嫌を表に出しているのは、双子。
いかにもテンプレの台詞を吐く男の声に、陸華よりも先にキレたのがいた。
「お前、邪魔なんだよ。陸華姉さんと僕たちの邪魔すんなボケ。陸華姉さんはお前なんかタイプでも何でもないんだよ。分かる?ってかお前ら、そこらの男より顔面ブスなんだから大人しく家でねんねしとけ。あぁ〜あ、これから射的楽しみにしてたのに、お前らのせいで萎えたんだけど。どう責任取るつもりなんだよ?」
空炎だ。そう、これを早口で、しかも一息で、この文章量を空炎が話した。
その勢いに気圧されたナンパ男らに畳み掛けるように、炎海はわざとらしく舌打ちをしてから、空炎に後ろから抱きついて、ナンパ男らに小さく囁いた。
「次俺らの視界に入ったら……、殺す」
それはもう、完全な殺害予告であったが、陸華も、炎帝ですら諌めはしなかった。
「……ほら、炎海、空炎、陸華。射的でしたっけ?行きましょうか」
何事もなかったかのように、炎帝は陸華の手を引き、双子に視線を送る。
ナンパ男らの隣を通り過ぎる時に、炎帝が静かに真っ黒な笑顔だナンパ男足を踏んでいたのは、本人しか知らない。
「僕、熊のぬいぐるみ、取る……!」
静かに、何時も通りの表情で空炎が決意していた。
この兄妹の夏祭りは、まだまだ騒がしく続いていきそうだ。
コメント
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ゆめかだよ〜🌸 第4話読んだよ! 陸華ちゃんのコーディネート力と怒涛の服装チェック、兄弟たちのビビり方がめっちゃ面白かった😂💕 しかもナンパ男に空炎&炎海がブチギレで「♡♡♡」連発するところ、ヤバすぎて笑ったww 炎帝の胃薬忘れエピソードも含めて、この兄妹のワチャワチャした空気感がたまらないね〜!射的でぬいぐるみ取る空炎くんの決意にも注目⋆♡ 続きも楽しみにしてるよ!