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翌日、『暁』幹部は聖堂に集まりそこでシスターカテリナによる勇者の葬儀が厳かに執り行われた。
「汝の魂は、大いなる母の祝福を受け、安らぎの旅路を進まん。汝の肉体は大いなる父に誘われ大地に眠らん」
かつて人類のために戦った英雄に対する葬儀としては極めて質素ではあったが、参加者は皆非業の死を遂げた英雄に心からの祈りを捧げた。
そして勇者の遺骸は『大樹』の、ルミの眠る反対側へ静かに埋葬された。その瞬間大樹から感じられる魔力が増大し、アーキハクト姉妹は内心驚くもそれを表に出さず静かに勇者を弔った。
「ふふっ、一体なにが生まれてくるのかしらね?」
サリアの囁きは誰にも聞こえることはなかった。
その後、大樹の前でシャーリィは建設中の町の名前を宣言した。
「町の名前は、『黄昏』とします」
「そりゃどんな意味なんだ?お嬢」
ベルモンドが口を開く。
「東方の言葉で、日暮れを意味するそうです。『暁』が夜明けを意味する言葉なので、それに合わせてみました。私達は夜明けと共に活躍して、日暮れを『黄昏』の我が家で過ごすと」
「日暮れねぇ」
「反対意見は取り入れます。安直な部分があるのは間違いありませんから」
「シャーリィがそう決めたなら、俺達は反対しねぇよ。なぁ?」
ルイスがそれに答えて皆を見渡す。
「まあな、お嬢が決めたならそれで良いさ」
「お嬢様にご提案したのは爺めにございます。否やがあろうはずもございません」
「ロウめも、お嬢様の名付けに賛成します。良い名前ではありませんか」
「私もお嬢様に賛成します。『黄昏』の町、響きが素敵じゃないですか」
ベルモンド、セレスティン、ロウ、エーリカも賛成を表明する。
「『黄昏』か。なら、ワシの工房も黄昏の工房となるな」
「良いお名前かと。護るべきものがあれば皆も奮起するでしょう」
ドルマン、マクベスも賛成する。
「シャーリィちゃんが考えた名前だ、ケチを付ける奴は海に沈めてやるから安心しな。シスターはどうだい?」
エレノアがカテリナを見る。
「……シャーリィ、貴女が決めたことに反対はしません。ですが、町を作る以上更に注目を集めることになります。覚悟はありますね?」
「はい、その為に一年間力を蓄えるのです」
「それなら良いのです。貴女のやりたいようにやってみなさい」
「はい、シスター。ありがとうございます」
「……皆の家?」
アスカが首をかしげる。
「そうですよ、アスカ。アスカの帰る場所でもあります」
「……ん」
何処か嬉しそうに頷くアスカの頭を優しく撫でるシャーリィ。
「レイミ」
「リースさんにもお伝えしておきます。お姉さま、良い名前かと」
斯くして『暁』の本拠地となる町は『黄昏』と名付けられた。
「更なる軍備拡張と組織拡大には莫大な資金が必要です。引き続きエレノアさん達には貿易に励んで貰うとして、農作物や薬草はもちろん。他の品目も量産を開始します」
「遂に表だって売るんだな?お嬢」
「はい。具体的には紙、石鹸、そして砂糖です。ロウ」
「はい、お嬢様。サトウキビについては育成も順調です。今回大規模な増員をしていただけましたので、加工についても専門の人員を割り当てることが出来ました。製紙と石鹸作りも同じように専門の人員を配置して、量産化を計ってございます」
「ありがとう。セレスティン」
「はっ。販売ルートですが、紙については『オータムリゾート』、『海狼の牙』、『ターラン商会』から大量の注文が継続しています。羊皮紙ギルドもシェルドハーフェンにおける商売には口を挟めない様子でございます」
「それとな、シャーリィ。ちょっと良い知らせがあるんだ」
「何ですか?ルイ」
「ほら、紙は最初俺に売り捌くのを任せてくれたよな?」
「ええ、銀行などに卸してくれましたよね」
「それで、少しずつ売り捌いてたんだけどよ……大物が釣れたんだ。『カイザーバンク』から連絡が来たんだ」
「カイザーバンク?」
「帝国最大の銀行グループですよ、シャーリィ。名前の通り、最初は皇帝直属の金融組織でしたが、今は本拠地をシェルドハーフェンに移して金融業界をほぼ独占しています。ボスは『金融王』と呼ばれていますね」
首を傾げたシャーリィにカテリナが解説する。
「金融王、強そうですね」
「『カイザーバンク』といや、一番街を中心に支配してる奴らだな。『エルダス・ファミリー』なんか目じゃないくらいの巨大組織だよ」
「そう、シェルドハーフェンの銀行やら闇金は全部『カイザーバンク』の手下なのさ。だから、あの紙が出回って気になったみたいなんだ」
ベルモンド、ルイスが情報を付き加える。
「資金力で『オータムリゾート』と張り合える唯一の組織だと、リースさんから聞いたことがあります」
「お義姉様と張り合える資金力ですか」
「はい、お姉さま」
「『カイザーバンク』といや、『会合』の組織の一つじゃないか」
エレノアの呟きにシャーリィが反応する。
「またまた聞き慣れない言葉ですね。『会合』とは?」
それに答えたのは、長椅子に座って傍観していたサリアだった。
「『会合』って言うのは通称よ。正式な名前なんて存在しないわ。シェルドハーフェンにある、ある一定以上の規模を持った組織の集まり。要は、町が廃墟に為らないようお互いに気を付けましょうって事を話し合う場ね」
「やり過ぎないように調整する集まりと認識して構いませんか?」
「そうよ。ちなみに、うちも……『海狼の牙』も『会合』のメンバーよ。そして、『オータムリゾート』もね」
「確かに、リースさんも『会合』参加しています」
「『エルダス・ファミリー』は『会合』入りを狙ってた。それが逆に『暁』に返り討ちにされて、しかも『オータムリゾート』の名を上げる結果になったんだから面白い結末よね」
「となると、私達はその『会合』に属する組織から接触を受けたと言うことですか」
「そうなるわね。気を付けなさい、『金融王』は私やリースみたいに甘くはないわよ。確かな利益を提示しないと、潰される」
「敵対するなら殲滅するまでです」
さらっと答えるシャーリィ。
「ふふっ、そう言うと思ったわ。うちや『オータムリゾート』の名前を使いなさい。『金融王』も少しは配慮してくれるわ」
「ありがとうございます、サリアさん。ルイ、慎重に交渉を。必要なら私が出向きます」
「おう、取引の用意があるって伝えとくわ」
「遂に『会合』の連中が接触するまでになりましたか。頭が痛い」
カテリナが頭を抱える。
「ではロメオ君に薬草を煎じて貰いましょう」
原因は首をかしげながら提案し、カテリナの頭痛を助長するのだった。