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勇者を埋葬して、『暁』が今後の方針を決めてから半年の月日が流れた。
海賊衆はロメオを残して三度目の貿易を済ませて再び莫大な利益を挙げ、四度目の航海へと旅立った。そして帝国にも冬が訪れたのである。
十六番街。かつて『エルダス・ファミリー』が支配して、暴力と恐怖を元に犯罪の絶えないシェルドハーフェンで最も治安の悪かった区画。
それが今では。
「いらっしゃいいらっしゃいー!今朝揚がったばっかりの魚だよー!」
「新鮮な『黄昏』の野菜!いつもより値引きした特別価格だぁ!こんなチャンスは二度とないぞー!」
「『黄昏』工房の鍋は如何かなぁ!?包丁なんかもあるぞー!」
「今日の運はどうだい!?ひとつ盛大な夢を見てみないか!?『オータムリゾート』直営カジノ、本日オープンだぁ!」
かつての廃墟が嘘のようにメインストリートは活気に溢れ、家屋は真新しいコンクリート製の頑丈な作りに生まれ変わり、道路もしっかりと舗装され大勢の人々が行き交っていた。
『エルダス・ファミリー』を壊滅させて十六番街を支配下に置いた『オータムリゾート』は、資金を惜しみ無く投資して十六番街の抜本的な復興を推し進めたのである。
それに『暁』も全力で支援を行い、倒壊したりボロボロだった家屋は一旦撤去されて大々的な区画整理が行われ、道路もしっかりと舗装し、コンクリートブロックを組み上げた家屋を瞬く間に建設していったのだ。
もちろん見返りとして莫大な資金が『オータムリゾート』から『暁』へ、それを率いる少女の元へ流れたのは言うまでもない。
その結果、かつての面影はなくなり、十六番街は活気ある町へと生まれ変わりつつあった。
商業の活性化は莫大な税収を『オータムリゾート』にもたらし、またもや『ギャンブルの女王』はその賭けに勝ちつつあった。
~六番街『オータムリゾート』カジノ本店執務室~
「あっはっはっはっ!見たかよ!今回も勝ったぜ、私はよぉ!」
『オータムリゾート』を率いる総支配人リースリットは机に座り、『黄昏』農園産の果実水を上機嫌に飲んでいた。
「今回ばっかりはボスの勘を疑ったんだがな。今は小さなものだが、この調子でいけば二年以内に投資分を回収できそうだ」
幹部であるジーベックは収益報告書を読みながら、改めて自分達のボスであるリースリットの幸運ぶりに呆れる。
「十六番街は港湾区画に最も近いんです。しっかりと腰を据えて開発に勤しめば莫大な利益を叩き出すポテンシャルはありました。それをリースさんは活かして、エルダスは理解できていなかった。それだけの話です」
そして幹部であるレイミは『エルダス・ファミリー』による失敗を指摘した。
「エルダスのバカにそんな頭があるもんか。あはははっ!まだまだ稼ぐよ!その為にも、『暁』には頑張って貰わないとなぁ」
「お姉さまにも伝えておきます」
『暁』はコンクリートを初めとした建材等の技術を惜しみ無く投じて、更に農作物の中で需要が少ないものや交易に適さないものを十六番街で売り払った。またその利益も全て『オータムリゾート』に献上したのである。
代わりに莫大な支援金を要請し、リースは気前良くシャーリィに莫大な金を惜しみ無く注ぎ続けた。
「おう、対価はちゃんと用意するから張り切るように伝えてくれ」
「ボス、良いのか?確かに支援には助けられてるが、益々『暁』が強くなるぞ」
「それの何が困るんだ?荒事は『暁』に丸投げ。私は金をガンガン稼ぐ。で、手間賃を払う。それだけだよ。なにより、シャーリィは私の妹分だ。気にしなくて良い」
「ジーベックさん、お姉さまは敵対者には容赦がありませんが身内にはとにかく甘いんです。この支援だって長い目で見れば『暁』の損です」
「そりゃそうだが……」
「安心してください。そうですね、リースさんを初めとした『オータムリゾート』のメンバーが私を傷付けるなんて事がない限り、お姉さまは味方ですよ」
「そりゃまた分かりやすいな」
「で、私はシャーリィと敵対するつもりはないしレイミを傷付けるなんてとんでもない話だ」
「ありがとうございます。それで、実はお姉さまからお願いがあるのですが」
「なんだ?言ってみな」
「はい、更なる協力の対価として『カイザーバンク』に対する口利きをお願いしたいと」
「『カイザーバンク』だぁ?あの陰湿ネクラ野郎共に目をつけられたってのか?」
「『暁』が密かに販売している紙の存在を知られたみたいなんです。半年前に接触はありましたが、羊皮紙ギルドに黙っている代わりに半額以下の値段で寄越せと言われているらしく」
「『カイザーバンク』らしい、仁義もないやり方だな。ボス、どうする?」
「口利きくらいはしてやるさ。可愛いシャーリィを困らせるなんて、見過ごせねぇ。ついでに、私はあいつらが気に入らねぇんだ。計算だけで成り上がった奴らなんてな」
「金融だからな、間違いじゃない。金貸しは嫌われるもんさ」
「レイミ、シャーリィちゃんには安心するように伝えな。私から一言脅しといてやるからさ」
「ありがとうございます、リースさん」
一方『ターラン商会』は完全に分裂。大半はマーサの下を去って、彼女は劣勢に立たされていた。
そんな最中、『ターラン商会』本店をカテリナが訪れた。
「半年粘ったけど、無理みたいね。エルフは信用できないんですって」
ソファーに座るマーサは、疲労の色が濃かった。
「そうですか。私は下手な柵なんか持たないエルフの方が信用できると思いますけどね」
「ありがとう。シャーリィには大見得張ったのにこの様よ。あの子も呆れてるでしょう?」
「むしろ、喜んでいますよ。忘れないでください、マーサ。あの娘は貴女が欲しいんです」
「今さら私なんか加えても利益なんてないでしょうに」
「貴女は既に身内と判断されているのですよ。あの娘の言葉を借りるなら、大切なものになってしまったんです。諦めなさい」
「そう……本当に面白い娘ね」
「これ以上引き伸ばしては、貴女の死体をシャーリィに届けることになります。『黄昏』に専用の店舗を用意しました。そこからやり直しなさい。もちろん貴女を慕っているものは全員受け入れますし、当面の生活も面倒を見ます」
「『黄昏』……シャーリィが作ってた町よね。今どんな規模になったの?」
「既に住人は千人を軽く越えましたよ。二千人近くは居ます」
「あはははっ!本当に町じゃない!あの娘はどこまで常識外れなのかしら?」
マーサは楽しげに笑う。
「それがシャーリィです。それで、答えは?」
マーサは姿勢を正す。
「……お世話になるわ。私と従業員百人の受け入れをお願い」
「引き受けました。ようやくシャーリィに良い知らせが出来ます」
マーサと彼女を含む従業員百名は、『暁』に加わることとなった。
それはシャーリィが待ちわびた出来事であり、『ターラン商会』は完全に敵対することとなる。