コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「神様のいじわる……」
カーテンの隙間から外を眺める千歳から、なにやら呟き声が聞こえてくる。
「上沼笑◯子が、どうしたって?」
「うるさいっ! アンタは黙って、おしゃべりクッキングでも観てろっ!」
個人的には好きな番組だったが、このたび27年間の歴史に幕を下したちゃったわ。
オレはそんな事をおもいながらテーブルの上のたこ焼きを摘み、汐留タワー前を映すテレビへと目を向けた。
『本日気象庁は、関東全域の梅雨入りを発表しました。え~、ご覧の通り、汐留タワー前でも朝から大粒の雨が降っていて時折、突風も吹いています』
「お天気お姉さんと着ぐるみのバイトも、この雨の中たいへんだねぇ――あぐっ」
テレビに映るレインコートを着たお天気お姉さんと空ジローに同情しつつ、もう一つたこ焼きを頬張るオレ。
「まっ、大自然の脅威には勝てねぇよな。はむっ」
「ってアンタッ、いくつ食べる気よっ!? それって、私への差し入れじゃないのっ!? てゆうか、女性作家の差し入れといえばケーキとかシュークリームみたいなスイーツ系でしょ、フツーはっ!?」
「嫌いなら別に食わんでもいいぞ、オレが食うから」
「食べるわよっ、たこ焼き好きだしっ!」
そう言って、ドカドカと足音を立てながらやって来たかと思えば、不機嫌そうに対面へ座り、たこ焼きを口へ放り込む千歳。
ってか、好きなら文句言わずに食えっ!
オレはスーツの内ポケットから平べったい瓶を取り出すと、フタを開けて口を着けた。
喉を焼く様な感覚と共に胃が熱くなり、身体か火照ってくる。
「アンタ……ヒトん家に来て、ナニ朝から酒飲んでるのよ……?」
そう、オレが取り出したのは、ポケットウイスキーの瓶でる。
もう六月とはいえ、雨が降ると少し肌寒い。すっかり東京の感覚で家を出てしまったオレ。ここが北関東だという事をすっかり忘れていたぜ。
「っるせ! ならもう少し、エアコンの温度上げろ」
「やーよ。私はエコに優しい女なの」
けっ……何がエコだよ。
高校ん時はムダにガソリンを浪費して、原チャ乗り回してたクセに。まあ、ガソリンの浪費については、オレも人の事は言えんけど。
「そのウイスキーを内ポケに入れるのって、高校の時からしてたわよね?」
「悪いか?」
「別に……バイクに乗る前は飲んでなかったみたいだし――――でもまぁ、世間一般では悪い事なんじゃないの?」
まあ、高校生の飲酒は褒められたモノじゃないわな。良い子はマネしないようにっ! ダメ、絶対っ!!
ただ、高校時代は銃で撃たれたり、ナイフで刺されても、コレのおかげ助かるかも――って、ちょっと中二的なノリも入っていたな。
いま思うと『ナイフはともかく銃はねぇだろっ!』と、少し恥ずかしくなる。
「さて、今日の取材はムリそうだから、少し出かけてくる」
オレは重い腰を上げて、ユックリと立ち上がった。
「出かけるって、こんな雨の中どこ行くのよ?」
「せっかく地方に行くんだ、現地で書店回りの営業して来いとよ。今朝、雅子さんから販促のポップも渡されたし」
「じゃあ、私も――」
「オマエは大人しくネーム描いてろ」
「むぅ……」
頬を膨らさせて、不機嫌そうな顔を見せる千歳。
書店回りなら、作家がいると助かるのは確かだ。書店に飾るサインなんかを、イラストと店の名前付きで書いたりも出来るし……
しかし千歳には、ただでさえ少ない時間でネームから練り直して貰わないといけないのだ。雨の中を連れ回して風邪でもひかれたら目もあてられない。
「まあ、買い出しもして来てやるから。何か欲しいモノあるか?」
「シャンベルダンのシュークリーム」
「ハイハイ……」
この場合の必要なモノとは、漫画を描く上での消耗品で足りないモノはないか? と言う意味だったのだが……
「もし、他に必要なモノがあったらメールに入れとけよ」
「は~い。さっさと、いったんさい」
不貞腐れた千歳に見送られ、オレは部屋をあとにした。