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(絶妙なタイミング……)
いや、もしかしたら、魔力を注がれたときには既に意識があった? アルベドならあり得る話だし、じゃあ、狸寝入りをしていたって言うことだろう。ラヴィンの本音を聞き出した目に。
さすがに、これは予知していなかったのか、ラヴィンの目がさらに丸くなった。なんで起きているの? みたいな。絶対、演技じゃ出来ないようなリアクション。
私も驚いた。
「ちょ、手、離してよ。離せよ!」
「話したらどっか行くだろうが。何勝手に出てこうとしてんだよ」
「アンタだって、俺に助けられたくないだろうが!」
だだっ子だな、と見て思った。
兄弟の話しだし、私が口出せるものではないと思っているんだけど。アルベドも、ラヴァインも互いに互いのことを思っているからこそ、こんな風になっているんだろうな。なんて、蚊帳の外の私は思う。
「助けられたくねえな……か。まあ、そうだな」
「なら、今すぐ離せよ」
「入れ替わりの仕組みは、エトワールに話した。なら、お前は、もうヘウンデウン教にいなくても良いんじゃねえか?」
よっこらせ、と身体を起こしたアルベドは、ふいと指を動かし、垂れていた紅蓮の髪を高くくくった。紅蓮の髪がパサリとはためいて、綺麗だな、と相変わらず思う。
そんな風に、魔法で髪型をセットしたアルベドは、依然として、ラヴァインの手を離そうとしなかった。ラヴァインは、これでもかというくらいに顔を曲げている。今回は、アルベドの方が一枚上手だった。もっとも、魔力を注ぎ終わった時点で、ここを出ていかなければ、ラヴァインの負けだったというわけだ。
(あーやだなあ。何かこの空気)
姉妹というものは存在したけど、そのありがたみとか感じたのは此の世界にきてからだし、実質一人っ子として生きてきたような私からしたら、このきょうだい喧嘩的な空気感は知り得なかった。それに、男兄弟だから、また女姉妹とは違うんだろうなって言うのは分かる。
「エトワール・ヴィアラッテアを欺くことは出来ねえよ。彼奴は、怪物だ」
「じゃあ、何さ。一緒に行動しろって言うの?」
「お前がそうしたければそうすりゃいい。だが、公爵家の問題もあるしな……」
アルベドはそう言って視線を漂わせる。公爵家の問題というのが何かは分からないが、二人にとって深刻な問題であると言うことは何となく見て分かる。
レイ公爵家が今どうなっているかは分からないけれど、アルベドが「帰るのは辛い」的なことを言っていたから、あそこを本拠地に出来なさそうなのである。
「公爵家の問題は置いておいてさ。誰かが、エトワール・ヴィアラッテアを監視しないと、何するか分からない訳じゃん」
「でも、俺達は入れ替っていることも、彼奴の味方じゃないってことも、バレてんだろ」
確かにそうかも知れない。と、どの視点で見ているのか分からないけど、首を振る。
エトワール・ヴィアラッテアほどの人間であれば、きっと、アルベドとラヴァインが入れ替ったことに関して気づいているだろう。
行動を監視するのは確かにいい手だとは思うけど、煙に巻かれそうではある。でも、ラヴァインが、潜入して情報を得てくれたのは間違いなくて。
「うーん」
「てか、エトワールは何悩んでんだよ」
「はっ!」
煩いと言わんばかりに、アルベドとラヴァインは耳を塞ぐ。この時アルベドは、ラヴァインの手を離したが、もう逃げよう何ていう気はないようだった。
「あ、ごめん。えっと、まずは、意識が戻って良かった……アルベド」
「おう」
「ごめん。また気づかなかった。アンタに頼りっぱなしで、アンタのこと、私、信用しすぎていたかも」
「良いだろ、信用しているなら」
「ううん、違う。少し疑わなきゃって思った。アンタの、優しさに私は甘えすぎている……から」
それが、本音だった。だって、アルベドは何も言ってくれなかったから。彼に頼りすぎて、彼の負担を考えていなかった。そこまで私が考えられていたら、もっと話は変わってきていたのかも知れない。
モグラの襲撃は、予想外すぎたけど、それがなくても、あの生活を続けていたら、魔力が枯渇してしまったのではないかと。
どれだけ、私はアルベドに甘やかされてきたのか……それを思い知る結果となったのが今回のことだ。
(私は、守られなきゃいけない存在じゃない……から……)
甘やかしてくれるのも、守ってくれるのも嬉しいけど、守られるだけの存在じゃない。私のこと、信用して欲しい。
「優しさを疑うか……お前らしい、言葉だな」
「聖女って肩書きはなくなったけど、私だって出来るんだから。アンタももっと、私のこと頼りなさいよ」
「――と、言ってもなあ。なあ、ラヴィ、お前もそう思うだろ?」
と、アルベドは、何故か話題をラヴァインに振って、ラヴァインは、うーんと顎に手を当てて考えた後、そうだね。なんて笑った。それで、会話が成立するのか! と思いながら、二人の視線が一気に私に注がれる。
「俺が、ラヴァインになっていたことも気づかなかっただろ?」
「さっきの変装も、すぐに暴けなかった。これって、エトワールの危機管理能力が低いってことじゃない?」
「うっ……」
「信頼して欲しいなら、それ相応の魔法が使えなきゃいけねえ。ただ、魔力を持っているだけじゃ、意味ねえってこった」
アルベドはそう言って、クスリと笑った。
全くごもっともな答えで、私は、反論することすら出来なかった。確かにそうだから。
私は、聖女という肩書きがあって、魔力があって……でも、その魔力を生かし切れていないのだ。だから、多分、今の状況で、エトワール・ヴィアラッテアに立ち向かっていっても、手も足も出ないんだと思う。彼女は、自分の魔力を最大限に使うことが出来るから。
私じゃ勝ち目がない。
「ぐぬぬ」
「まあ、そんな風に唸っても仕方ないって。宝の持ち腐れ状態なのは変わらないんだし」
「じゃあ、如何しろって言うのよ!」
「さあ?それを、どうにかするために、辺境伯の所行くんじゃないの?ねえ、兄さん」
と、少しねっとりした声で、ラヴァインはアルベドに聞いた。
アルベドは、少しイアやそうなかおをしながらも、「その通りだ」と、言って首を縦に振る。
本当に自分だけ、蚊帳の外という感じで嫌だ。
辺境伯の話もまだよく分からなくて。アルベドが、助っ人になってくれるって言ったのは、そういう意味でもあったんだって、今知ったわけだし。
(手のひらで転がされている感じあるのよねえ……)
助けてくれてはいるし、そういう思いだってちゃんとある。でもなんかこの二人に言いように弄ばれている感じがするのは何故だろうか。
(ううん、考えるだけ無駄よ)
強くならなきゃいけないのは、そうだから。
自分の価値をもっと上げなきゃ、このままじゃ、本当に足手まといだ。
(同じことは繰り返さない。だからこそ、今やるべきことをやるしかない)
ぐだぐだ言ってても、泣いても何も変わらないなら、変わるしかないんだ、自分が。
この二人にぎゃふんと言わせられるように。
そんな風に、二人に少し煽られた形で、自分の意思を固めていれば、ドタドタと、扉の向こうから足音が聞えた。私の名前を呼んでいるような気もして、私含め、アルベドとラヴァインの目つきが鋭くなる。
「エトワール様いらっしゃいますか」
「ヒカリ?」
「い、今、ダズリング伯爵家の前に皇宮からの使者が」
「へ?」
タイミングが悪いって、どうにも重なるものなんだなあ、と扉の向こう側にいるヒカリの声を聞いて思った。