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『西園寺、ノートに記す』

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『西園寺、ノートに記す』

5 - エピソード4:「告白、そのとき彼女は」

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2025年06月28日

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彼女に言葉をかけたのは、春の終わりだった。少し汗ばむ陽気の日。

教室のドアの前に立つ僕の視界に、片倉結惟が入ってきた。


彼女はまっすぐ歩いていた。まるで、この空間に自分以外いないかのように。

僕はその静かな足取りを止めるように、言葉を投げた。


「君……人を壊すの、得意なんだね」


それだけだった。

詰問ではない。ただの確認だ。


彼女は、止まった。

けれど何も言わず、僕の方を見た。


ほんの数秒。

でも、その目には確かに――**“動揺”**があった。



あの一瞬を、僕は忘れない。

それは、ひどく冷たくて、それでいて、どこかで揺れていた。


まるで――

誰かの名前”を思い出したかのように。



茅野 瑠海。


その名が、頭をよぎった。

いや、正確には――**“かつて何かがあった痕跡”**が、目の前の彼女に刻まれていた。



結惟のその揺らぎに、僕は確信した。


「この子は、もう誰かを沈めたことがある」


それは、誰にも気づかれなかった空白。

名簿にない。転校記録にもない。

SNSも、グループチャットも、通知も、何も残っていない。


でも、空気が違っていた。

結惟の周囲には、“何かを殺した者だけが持つ”、異様な静けさがあった。



【観察記録003】


■対象:片倉結惟 + 茅野瑠海(後追い記録)

■分類:支配者の起点

■備考:当方の観察開始以前に発生

■結論:これは、すべての始まりだった



僕はこの003番を、最も静かな声でノートに記した。


本来、観察対象とは“目撃したもの”であるべきかもしれない。

でも、世界が見落としたものを記録するのも、観察者の役割だと思った。



結惟は、そのまま僕を一瞥し、何も言わずに通り過ぎた。

けれど、その背中には確かに――何かの影があった。


誰かを忘れた顔。

何かを消した目。


それは、支配者の目じゃなかった。

もっと“壊したことに気づいていない者”の、それだった。


でもそれは、変わっていく。


この日を境に、彼女は少しずつ、冷たく、確実に“空気を制御する存在”へと進化していった。



そして僕は、改めて観察を決意した。

彼女の内側にある“空白の名”を、書き残すために。


『西園寺、ノートに記す』

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