テラーノベル
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朝。
空は曇っていた。
雨が降りそうな色をしている。
金色の彼は一人で歩いていた。
仕事へ向かうためではない。
昨夜。
机の上に置かれていた封書。
短い文章。
『来い』
差出人の名前すらない。
けれど。
誰からのものかは分かっていた。
何百年も従ってきたのだ。
嫌になるほど分かる。
✦
高い塔。
重い扉。
長い廊下。
見慣れた場所だった。
それなのに。
今日は妙に息苦しい。
扉の前に立つ。
数秒。
拳を握る。
そして。
開けた。
豪奢な部屋。
高い天井。
大きな窓。
男はいつものように椅子へ座っていた。
「来たか」
穏やかな声。
金色の彼は黙って頭を下げる。
男は笑った。
「座れ」
命令だった。
従う。
それ以外を知らない。
長い間。
ずっと。
そうやって生きてきた。
男は机の上の書類を手に取る。
ぱらり。
紙が静かな音をたてる。
やがて。
一枚の資料が机へ置かれる。
その文字を見て、
金色の彼の表情が固まった。
青鬼。
その二文字。
「市場で接触があったそうだな」
沈黙。
「追跡もされている」
何も言えない。
「噂は広がっている」
男はため息を吐いた。
「渡せ」
短い。
あまりにも。
金色の彼は俯く。
拳を握る。
爪が掌へ食い込む。
男は続ける。
「もう隠しきれない」
正論だった。
「お前も分かっているはずだ」
正しかった。
「市場で発見された時点で終わりだ」
全部。
全部。
間違っていない。
だから腹が立つ。
「保護施設へ移す」
男が言う。
「監視も付ける」
さらに。
「安全も保証する」
そして。
「お前の責任も問わない」
優しい提案だった。
少なくとも。
表面上は。
男は金色の彼を見る。
静かに。
逃げ道を与えるように。
「それで終わる話だ」
終わる。
確かに。
終わるだろう。
青鬼は守られる。
自分も生き残る。
全部丸く収まる。
何も問題ない。
何も。
問題ないはずだった。
なのに。
頭に浮かぶ。
窓際で雪を眺める姿。
『暇』
『ざこ』
『おかえり』
『おつかれさま』
ぐしゃぐしゃの字。
不器用な料理。
初めて聞いた声。
「あっ」
たった一言。
それだけなのに。
胸が痛くなる。
男が言う。
「”きょー”」
昔からそうだった。
この男は待つ。
答えを。
自分が望む答えを。
金色の彼は俯いたまま呟く。
小さく。
本当に小さく。
「……嫌や」
沈黙。
部屋の空気が止まる。
男は何も言わない。
彼は続けた。
「渡したない」
初めてだった。
こんな風に逆らったのは。
何百年生きても。
一度も無かった。
男は目を細める。
怒っているようには見えない。
むしろ。
少しだけ悲しそうだった。
「そうか」
それだけだった。
けれど。
金色の彼には分かった。
終わった。
何かが。
決定的に。
✦
帰り道。
雨が降り始めていた。
ぽつり。
ぽつり。
肩が濡れる。
翼が濡れる。
けれど。
気にならなかった。
男の最後の表情が離れない。
怒りじゃなかった。
失望でもなかった。
諦めだった。
それが妙に怖かった。
帰宅する。
明かりがついている。
いつも通り。
それだけで少し安心する。
扉を開く。
「ただいま」
ぱたぱたと足音が鳴る。
らっだぁが来る。
紙を差し出す。
『おかえり』
いつもの字。
少し曲がった字。
見慣れた字。
金色の彼は思わず笑った。
らっだぁが首を傾げる。
『?』
その顔が少し可笑しくて。
少しだけ苦しくて。
彼は視線を逸らした。
「なんでもない」
嘘だった。
本当は。
全部言いたかった。
お前が狙われてること。
もう隠しきれないこと。
今日。
お前を渡せと言われたこと。
全部。
全部。
言いたかった。
でも。
言えなかった。
言ってしまったら。
この平穏が壊れる気がした。
らっだぁは何も知らない。
だから笑う。
紙へ文字を書く。
『今日早いね』
「そうか?」
『ちょっとだけ』
「そうかもな」
らっだぁが笑う。
声は無い。
それでも。
確かに笑っている。
その姿を見ながら。
金色の彼は思う。
守りたい。
絶対に。
何があっても。
そして同時に。
気付いてしまう。
もう、すべてが遅いことにも。
その夜。
らっだぁは眠れなかった。
理由は分からない。
けれど。
胸騒ぎがする。
嫌な予感。
説明できない何か。
隣を見る。
きょーさんがいる。
眠っている。
穏やかな顔。
でも。
どこか疲れて見えた。
苦しそうにも見えた。
らっだぁはしばらく見つめる。
そして。
小さく。
本当に小さく。
誰にも聞こえない声で呟いた。
「……きょーさん」
その名前だけ。
それだけを。
まるで失くさないように。
確かめるように。
窓の外では雨が降っていた。
遠く離れた塔の上でも。
同じ雨が降っていた。
男は窓辺に立っていた。
机の上には、新しい命令書。
まだ署名されていない。
男はそれを見つめる。
長い間。
静かに。
やがて。
ペンを取った。
そして。
迷うことなく名前を書く。
その紙に記された任務名は――
「”青鬼回収作戦”」
もう。
後戻りはできなかった。
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コメント
6件
男がさ!誰だかは知らんけど!青鬼を青鬼とでしか見てない時点でダメなの!(語彙力無) ちゃんと生き物なんだから!金がどうこう、周りの奴らがなんだとかじゃなくて! きょーさんらっだぁの為に言わないでいるの優しすぎるᰔᩚ でもらっだぁは獣の勘かな?その違和感に気づいちゃうんだよね~ 続き楽しみに待ってます✨
頼む…ハピエンであってくれ…
あまおう
73
ホウ酸
1,125
#らっだぁ
れーん🌸
3,770