テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
夢主の設定
・名前:天沢柑菜(あまさわ かんな)
・大学3年生
・現パロです
うさぎりんご
風邪を引いたのはいつぶりだろう。
小さい頃は、兄妹が多いこともあって誰かが風邪を引くと順番に他の家族に感染り、治ってはまた風邪を引き…を繰り返していた。
今日は1つ年上の彼女の柑菜と遊園地デートの約束だったのに。
昨日の夜から何となく喉が痛いと思っていたら、今朝目を覚ますと、懐かしいとさえ思う身体の倦怠感と熱を帯びた感覚。
“朝起きたら熱が出てて、遊園地行くの難しそう。ごめん…”
喉の痛みで喋るのがつらいのでメッセージを送る。
そしてすぐに返信が来た。
“大丈夫?遊園地はまた行けばいいんだから気にしないで。何か必要なものあったら持って行くから言ってね”
優しい。
柑菜、遊園地楽しみにしてたのに申し訳ないなあ……。
体温計…どこに仕舞ってたかな。あと風邪薬も。
喉も乾いたし、何か飲むもの……スポーツドリンクあったっけ。アクエ●アス買ってあったような……。
ああ…だめだ身体が重くて動けない……。
それに寒い。
一人暮らしのアパートって、こんなに静かだったっけ……。
具合が悪いせいか、なんかちょっと心細いような気もする。
柑菜に頼んで来てもらうか?
いやでも感染したら悪いしなあ。
だけど薬飲んで早く治さないといけないし……。
“風邪薬買ってきてくれたら嬉しい”
そう文字を打とうとするけど、頭がぼんやりして誤字ばかりになる。それを消して打ち直すうちに体力の限界を迎えて、俺は意識を手放してしまった。
『…ん…ろ……たん…ろ……』
「……ぅ…ん…」
遠い意識の彼方でいちばん聞きたかった声が聞こえて、重い瞼をどうにかこじ開けた。
『炭治郎、大丈夫?』
「…あれ?…かんな……?」
そこには、今会いたくて仕方なかった大好きな彼女の姿。
どのくらい寝てたんだろう。
俺は汗びっしょりになって布団からはみ出した状態でのびていた。
時計を見ると、昼過ぎだった。
『急に返信がなくなったまま時間が経ったから心配で。合鍵で入ってきたの。勝手に上がり込むのもどうかと思ったけど、今日は許してね』
困ったような、心配そうな顔をして柑菜が俺を覗き込む。
「…ん…かんな……会いたかった……… 」
思ったことを素直に口にする。
柑菜は俺の額に手を当てて、大分高いね…と呟いた。
寒空の下を急いで来てくれたんだろうな。元々冷え性の彼女の手が、いつにも増して冷たかった。でもそれが今はとても心地いい。
『9℃近くあるかなあ。…炭治郎、体温計どこにある?』
「うーん…どこだっけ……。ごめん、適当に棚とか漁っていいよ」
『わかった。あ、これ飲めそう?ポカリスエ●ト買ってきたの。冷蔵庫にア●エリアスあったけど、風邪の時はお腹壊すから飲まないほうがいいよ。…はい、ストローキャップつけとくね』
「ありがとう……」
柑菜は体温計を探しに行き、俺は差し出されたペットボトルのスポーツドリンクを飲む。
ああ、美味しい……。喉乾いてたから助かった。
ふと枕元を見ると、スーパーのレジ袋いっぱいに経口補水液やスポーツドリンク、ゼリー、プリン、ヨーグルトなどが入っていた。
喉が痛くても楽に飲み込めそうなものばかりだ。
『体温計みつけたよ』
「あ、ごめん…ありがとう」
ティッシュで軽く汗を拭いて、体温計を脇に挟む。
30秒程で音が鳴った。
『何℃だった?』
「……さ…38.9℃……」
『あー、やっぱりそのくらいあるよね』
思いの外高い数値に、ちょっとだけクラっとしてしまう。
『炭治郎。汗いっぱいかいてるし、着替えない?』
「そうだな。着替えようかな…悪いけど、柑菜、そこにある汗ふきシート取ってくれるか?」
棚の上を指さす。
柑菜は快くそれを取ってきてくれたけれど、俺に手渡す直前で止まった。
『炭治郎。これスースーするやつでしょ?しかも“極冷”とか書いてあるし。身体冷えて悪化しそうだから今は使わないほうがいいよ』
「そうか…でも汗で気持ち悪くてさ」
『あったかいおしぼりで拭くのは嫌?』
「嫌じゃない。…けど申し訳ない」
柑菜の提案は嬉しいけど、彼女の手を煩わせてしまうのは気が引ける。
すると柑菜がほんの少しだけムッとしたような表情を浮かべた。
『もう!私、彼女だよ?申し訳ないとか思わなくていいの。きつい時は頼って。嫌じゃないなら、清拭するよ』
「…ごめん……ありがとう」
『分かればよし!洗面器とタオル借りるね』
俺の言葉に満足したように、いつもの優しい笑顔に戻った柑菜。
お湯を張った洗面器とタオルを持って俺の傍に来た。
『タンスから着替え取っていい?』
「うん」
新しい肌着とパジャマを取り出してきて、俺が身体を起こすのを手伝ってくれる。
そして上半身裸になる。
恋人同士だからキスもハグもするし、身体を重ねることもあるし…肌を見せるのは慣れている筈なのに、なぜか少しドキドキしてしまう。
『熱かったら言ってね』
そう言って、固く絞ったタオルを広げて俺の背中を手際よく拭き始めた。
わあ…なんて気持ちいいんだろう……。
福祉科の柑菜は、実習で病院や施設に行ってたから、こういうのがすごく上手だ。
“天沢先輩、実習先で患者さんに大人気なんだってよ”
“そりゃそうだろ。可愛いもん。しかも実習の成績もいいってさ”
いつか同級生が話しているのを聞いたことがあるのを思い出した。
さっき俺の身体を起こすのを手伝ってくれた時だって、大学で習ったことを応用したんだろうな。
細い腕で軽々と起こしてくれたから。
「あったかい。気持ちいい 」
『よかった!』
洗面器のお湯がぬるくなったら、また熱いお湯を入れ直しにキッチンに行く柑菜。
その間は俺の身体が冷えないように、毛布を掛けてくれた。
それを何度か繰り返して、背面だけでなく胸やお腹、腕や脚も温かいタオルで拭いてくれた。
『…はい、おしまい。服着ていいよ』
「柑菜、ありがとう。すごく気持ちよかった」
『どういたしまして』
にっこり笑う柑菜に、心がほわっと温かくなる。
『ちょっと眠そうね。横になる?』
「うん…いいか?」
『いいよ。寝るのがいちばんよ』
布団に横になった俺に、柑菜が毛布を重ねて掛けてくれる。
「……柑菜…」
『どうしたの?』
「…もう、帰っちゃう?」
喉が痛くても食べられそうなものや水分補給できるものを買ってきてくれて、着替えも手伝ってくれたなら、もうここにいる必要ないしな。
また来週から実習って言ってたし、準備で忙しいだろうから……。
だから今日、遊園地デートしようって約束してたのに……。
またこの静かな空間に1人と思うと、なんだかとてつもなく寂しくなってしまった。
柑菜が来てくれる前よりもっと。
『まだいるよ?…炭治郎が帰ってほしいなら帰るけど』
「いや…帰らないで…まだいてほしい……」
俺の言葉に、柑菜は嬉しそうに笑った。
『よかった。私も炭治郎と一緒にいたいから気にしないで』
「…ありがとう」
柑菜は俺の手をそっと握った。俺も握り返す。
安心感に包まれて、急に眠さが増してきた。
柑菜が繋いでいないほうの手で頭を撫でてくれる。
兄妹の中で自分がいちばん上だから、こういうのはあまり慣れてない。ちょっぴりくすぐったくて、でも嬉しい。
俺は大好きな彼女のぬくもりに包まれて再び眠りについた。
いい匂いがする。
これは…玉子かな?
包丁がまな板に当たるような音と、ぐつぐつと何かが煮えるような音も聞こえる。
「…ん……」
目を開けると、キッチンに立つ柑菜の後ろ姿が見えた。
何作ってるんだろう。
ふとこちらを振り返った柑菜。
『あ、炭治郎。起きたのね。おなか空いてる?』
パタパタと軽やかな足音と共に、俺がいる部屋に戻ってきた。
エプロン姿も可愛いなあ……。
「うん、実はぺこぺこだったんだ。昨日の夜も喉が痛くてちゃんと食べられなくて」
『そっか。玉子のお粥作ったけど、食べられそう?』
「うん、ありがとう」
柑菜がお粥をよそって、スプーンを添えて持ってきてくれた。
その傍らには小皿に乗ったうさぎの形のりんご。
「かわいい…」
『でしょ。りんごといったらうさぎよね。消化にもいいし』
ただ切るだけでもいいのに、 俺の為にこのひと手間を掛けてくれたのがとても嬉しかった。
『食べさせてあげようか?』
「いや、さすがに自分で食べ………やっぱりお願いしようかな……」
『あら、意外。…じゃあ、はい。口開けて』
柑菜が出来たての玉子のお粥に息を吹き掛け、少し冷ましてから俺の口に入れてくれる。
口いっぱいに広がる、玉子と出汁のいい香り。
「美味しい…!」
『よかった。たくさんあるからね』
「ありがとう。……ごめん、赤ちゃんみたいだよな」
『謝ることないよ。炭治郎、普段なかなか甘えてくれないから嬉しい』
言いながら、お粥を口に入れてくれる柑菜。
優しい笑顔を浮かべる彼女は、とても綺麗だった。
お粥を食べ終えて、柑菜が買ってきてくれた風邪薬を飲んだ後、爪楊枝の刺さったうさぎりんごを2人で食べる。
甘酸っぱくて美味しい。
小さい頃を思い出す。
風邪を引いた時やあまり食欲がない時、母さんがりんごをうさぎの形に切ってくれてたな。
「…美味しかった。柑菜、ありがとう」
『どういたしまして。早く元気になってね』
ああ、俺は幸せ者だな。
こんなに優しい彼女がいて。
「……柑菜。もういっこ…甘えてもいい?」
『うん、もちろん!』
「ぎゅーしよ……」
『何その言い方。可愛い!いくらでもしてあげる』
柑菜は包み込むように俺を抱き締めてくれた。
膝立ちだから、彼女のほうが俺の座高より高くなって、ちょうど胸の膨らみに自分の顔が当たる。
いい匂い……。柔軟剤の柔らかな優しい匂いだ。
『炭治郎。今日だけじゃなくて、いつもこれくらい、これより甘えてくれていいんだからね』
「……いいのか?」
『当たり前じゃない!…炭治郎は“お兄ちゃん”だからね。慣れてないんだろうけど、私にくらい甘えたってバチは当たらないと思うよ』
嬉しかった。
彼女の前では、“お兄ちゃん”じゃなくていいんだ。
今日みたいに甘えたり、頼ったり、弱いところを見せていいんだ。
「ありがとう……」
俺は柑菜に回した腕にぎゅっと力を込めて、彼女の柔らかな胸に顔をうずめた。
そして、顔を上げると柑菜と目が合う。
俺たちはどちらからともなく、お互いの唇をそっと重ねた。
おわり