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夢主の設定
・名前:庵凪桜(いおり なぎさ)
・鬼殺隊ではなく普通の町娘
桜の季節に
彼女との出会いは、最高に格好悪い姿を見られたあの日だった。
3年前。
ハッ、ハッ、ハッ、ハッ…ワン!ワン!
タタタタタタタタタタ……
まずい。非常にまずい。
何なんだこの犬は。どこまでもついてくるぞ。
俺は見知らぬ犬に追いかけ回されていた。
子どもの頃、犬に尻を咬まれた時の恐怖や痛みが頭の中に蘇る。
ハッハッという短い息の音と、爪が地面に当たる音がわりと近くで聞こえる。
ちらりと後ろを振り返ると、手を伸ばせばあと少しで触れられそうな距離に犬がいた。
!…しまった。行き止まりだ。
もうおしまいだ……!
俺はまた咬まれるかもしれない、と覚悟を決める。
すると……。
パンパンッ
乾いた音が2回鳴り響き、はっとしたように犬がそちらを振り返った。
『あら、反応したね。偉いねえ!…おいで』
少し高い声が聞こえる。
そこには俺とあまり歳の変わらないくらいの女性が、しゃがんだ体勢で、今まで散々自分を追い回していた犬を撫でていた。
とても優しい表情をしていた。
『…あの、大丈夫ですか?』
変わらず犬を撫でながら、顔を上げてこちらを見てくる。
硝子玉のように澄んだ瞳の、綺麗な娘だった。
「あ、ああ。すまない。助かった」
先程自分を追いかけ回していた犬が、尻尾をぶんぶん振って、救世主の頬をベロンベロン舐めている。
『青ざめた顔して逃げ惑う男性を犬が追っかけ回してるの目撃しちゃって。つい』
「いや、本当に助かった。ありがとう。…子どもの頃、犬に咬まれたことがあってな……」
『それは怖かったですね……。この子はただ遊びたかっただけみたいですけど、追いかけられたら誰だって逃げたくなりますよね』
遊びたかった?この犬が?俺と??
「…てっきり攻撃されるのかと……」
『追いかけてる時のこの子の顔が見えましたけど…、すんごい笑顔だったし行き止まりでも“遊ぼう”の体勢してましたよ』
「笑顔…?“遊ぼう”の体勢??」
『はい、口角が上がっていたし、頭を低くしてお尻を上げて。これは相手を遊びに誘っているサインなんです』
そうなのか…犬へのトラウマから動物全般苦手な自分にはそんな知識は全くなかった。
『犬には狩猟本能があるから、逃げられると追いかけたくなっちゃうんです。犬が苦手な方には脅威でしかないですけどね』
おすわり、と娘が声を掛けると素直に座る犬。
お利口ね、とまた優しい笑顔で犬を撫でる。
「迷い犬だろうか?首輪をしているな」
『そうだと思います。さっきも私が手を叩いたのにもすぐ反応できたし、こちらの基本的な指示も理解しているみたい。ちゃんと躾けられたお利口さんです。えっと、わんちゃん、あなたのお名前教えてね』
そう言って、娘は犬の首輪についている札を確認する。
『…“サクラ”っていうのね。私も同じ文字が入るのよ。一緒だね』
嬉しそうに微笑んだ彼女に、俺は胸が温かくなるのを感じた。
「……飼い主を探すか」
『そうですね。私が探すからいいですよ』
「いや、助けてもらっておいてこのまま任せるわけにはいかない」
『そんな。気にしなくていいのに』
そんなやり取りをしながらもと来た道を犬と娘と歩いていたその時。
ピクリと犬の耳が動き、路地の奥を見つめて尻尾を振り始めた。
「サクラ〜!どこ行ってたんだよ〜!」
時透くらいの年齢と思しき少年が犬を見つけてホッとしたような顔で駆けてくる。
『サクラちゃんのご主人様?』
「あっ、はい!うちの犬を保護してくれたんですか?ありがとうございます!紐を新しく買ったんで早速付け替えようとしたら走っていっちゃって」
『見つかってよかった。気をつけてね』
「この娘が助けてくれたからよかったが、俺はその犬に追いかけ回されていたぞ」
「え!?そうだったんですか?すみません!!」
少年は急いで手に持った紐を犬の首輪に繋ぐ。
『サクラちゃん、あんまりご主人様を困らせちゃだめよ?…また会えたらいいね』
娘は再び犬の頭を優しく撫でて、少年と犬を見送った。
『わざわざ飼い主さんに引き渡すまで付き添っていただいてすみません』
「いや、どうってことない」
『鬼殺隊の方ですよね?お忙しいのにありがとうございます』
「知っているのか?」
『はい。先日、鬼に襲われた私を、あなたと同じ制服を着た方に助けていただきました。とても優しい男性で。確か…煉獄杏寿郎さん、だったかな』
煉獄がこの娘を……。そうか。
「煉獄は、俺にもよくしてくれる仲間だ」
『そうなんですね!よろしくお伝えくださいね』
「ああ、伝えておく。名前を聞いてもいいか?」
『あ、失礼しました。庵凪桜(いおり なぎさ)といいます』
「俺も名乗らず無礼を働いたな。すまない。冨岡義勇だ」
ついでに庵を送って行くことにしたので、俺は彼女と並んで歩く。
改めて彼女を見る。
身長は栗花落くらいだろうか。柔らかそうな髪を三つ編みにしている。
印象に残るのは、やはり硝子玉のように澄んだ瞳。
優しい性格がそのまま滲み出ているような顔立ち。
『ところで、冨岡さんはどうしてサクラちゃんに追い回されていたんですか?』
「それが……。甘味屋で休憩して、持ち帰り分の団子を持って歩いていたら付いてこられてしまったんだ」
『あらら……』
「剣の師匠へのお土産に買ったものだったから食べさせるわけにもいかず……」
ケチくさいと思われただろうか?いやでも大事な団子だし。
『大変でしたね。でもねだられても食べさせなくて正解でしたよ』
「そうなのか?」
『はい。人間の食べ物は犬にとって塩分も糖分も多すぎますから。それに、食事は丸呑み傾向の犬にお団子を与えてしまったら喉に詰まらせちゃう危険性も高いです』
「そうか……」
何も知らなかったが、犬に追い回されたおかげで庵に会えたし、新しい知識を得られたので、結果よかったということにしよう。
『あ、ここです。冨岡さん、ありがとうございました』
「こちらこそ、ありがとう。本当に助かった」
庵の家に着いたので別れる。
ほんの少し、名残惜しいと思ってしまう。
『…あの、冨岡さん』
「?」
『……もしよかったら、また会えませんか?美味しいお団子屋さんを知っているので、お師匠様や鬼殺隊の皆さんへの差し入れにどうかなって』
ほんのりと頬を桃色に染める庵。
「ああ、ぜひ知りたい。…また会おう」
『はい!』
花が咲いたように笑う彼女に、俺は鼓動が速くなるのを感じた。
あれから俺は時々、凪桜と会うようになった。
文通もしている。 とても丁寧な字で綴られた綺麗な文章。育ちの良さが分かる。
甘味を食べに行ったり、普通に食事をしたり、新しい店を開拓したり。
凪桜と一緒にいると、常に自身を支配する怒りや自責の念が少しだけ軽くなる。
温かくて、穏やかな時間。
彼女が鬼によって理不尽に命を奪われることのないよう、俺の全てを懸けて守りたいと思ったし、守らなければと思った。
月日が流れ、俺と凪桜は定期的に会う仲になった。
桜並木を歩く。満開の桜がとても美しい。
『……義勇さんには、恋人はいらっしゃるんですか?』
突然の質問に驚く。
「いや、いないが…… 」
俺の返答に、凪桜が少しだけほっとしたような表情を浮かべた。
「……凪桜には?」
『いません。でも想いを寄せている方はいます。……目の前に……』
目の前?もしかして俺のことか?
『私、義勇さんのことが好きです……』
「…俺も、凪桜のことが好きだ」
お互いに同じ気持ちだったなんて。
『…義勇さんさえよければ、あなたの恋人になりたいです……』
とても嬉しかった。
でも。
「……俺は鬼殺隊だ。いつ死ぬかも分からない身だから、安易にお前の気持ちに応えることはできない……」
『それでもいいです。義勇さんが好きです。今みたいにお昼間にしか会えなくても、全然構いませんから。…義勇さんと一緒にいたいです……』
ほんの少し潤んだ瞳で見つめられ、胸が高鳴る。
俺の立場を承知で想いを伝えてくれた凪桜。俺も自分の気持ちに素直になろう。
「………。ありがとう。…凪桜、好きだ。俺と恋人になってくれ」
『…!はい!』
嬉しそうに、本当に嬉しそうに笑った凪桜。
舞い散る桜の花びらが、余計に彼女の美しさを引き立てる。
俺はそっと凪桜の手を引き、その華奢な身体を抱き締めた。
温かい。清潔感のある石鹸のような香りの中に、何にも喩えられない甘い香りがする。
『義勇さん…いいにおい……』
「汗臭くないか?」
『全然。とっても好きです』
「そうか。凪桜もいい香りがするな」
『嬉しい。……お互いの匂いが好きと感じるのは、2人の相性がいいかららしいですよ』
そうなのか。
「…じゃあ、俺たちは相性がいいということだな」
『はい』
にっこり笑う凪桜。
愛おしくて堪らなくなり、彼女を抱き締める腕に力を込める。
離れたくない。離したくない。
ずっと一緒にいたい。
俺が君を命を懸けて守るから。
どうか傍にいてほしい。
禰󠄀豆子が太陽の光を克服した途端、鬼の出没がぴたりと止んだ。
柱稽古が始まり、それまでとは異なる忙しさの毎日。
この日は2週間振りに凪桜に会える日で、彼女の家で過ごしていた。
「……大きな戦いが近付いてきている。…もしかしたら、この戦いで俺は死ぬかもしれない」
『…え……』
「もちろんお前を置いて死ぬつもりはない。でも生きて帰れる保証もないから。言っておいたほうがいいと思って……」
俺の言葉に、凪桜が顔を曇らせる。
『生きて帰ってきてください。私、ずっと待ってますからね 』
「……もし、俺が死んだら」
『そんな話聞きたくありません』
ぴしゃりと言い放つ凪桜。
でも言っておかなければ。
「お前が俺以外の男の手に渡るのは心底嫌だが……。幸せになってほしいんだ」
『だったら!』
凪桜が大きな瞳に涙を浮かべて俺の手を握ってくる。
『生きて帰ってきてください。義勇さん以外の人と、なんて無理です。私は義勇さんが好きなんです。あなたと一緒じゃなければ、私は幸せになんてなれません』
彼女の白い頬に一筋、透明な雫が流れた。
「……凪桜…」
『義勇さんも私が好きだと思ってくださるのなら、全力で帰ってきて。世の為に命を懸けて戦うあなたにそんなこと言ってはいけないと分かっていますが、それでも私の為に帰ってきてください』
ああ、そうだよ。俺は凪桜が好きだ。心の底から愛しているんだ。君を置いて死ぬなんて御免だ。
「…分かった。きっと生きて帰ってくる。待っていてくれ」
『はい!約束ですよ』
凪桜の柔らかな唇に自身のそれを重ねる。
言おうか言うまいか迷っていたが、今決心がついた。
「凪桜」
『はい』
今度は俺が彼女の手を握り、真っ直ぐにその硝子玉のように澄んだ瞳を見つめる。
「この戦いが終わって生きて帰ってこられたら、俺と結婚してほしい」
『!!』
再び、凪桜の目に涙が浮かぶ。
そして花が咲いたように笑った。
『はい。今の言葉、忘れませんからね。絶対に帰ってきてくださいね』
「ああ」
俺はもう一度彼女を抱き締めた。
そしてお互いの唇を重ね合わせる。
優しく啄むように。 時には舌を絡め、濃厚な接吻を繰り返す。
『…んっ……ふ……』
凪桜の口から艶めいた声が漏れる。
ちゅ…ちゅぱ……ぢゅっ……
わざと音を立てて凪桜に口づける。
息継ぎもままならないくらいに激しく。
『…ふ…んぅ…ぎゆうさ……』
潤んだ目でこちらを見てくる凪桜。
もう止まれない。
『ひゃっ!?』
俺は凪桜を抱きかかえ、寝室の布団に彼女を下ろす。
再び口づけを落とす。髪に、額に、瞼に、頬に、唇に、首筋に、鎖骨に。
途切れることのない濃厚な接吻に、もう力が入らない、といった様子の凪桜の着物を解いていく。
『…ぁっ…ぎゆうさん…っ!』
白い肌が露わになる。とても綺麗な彼女の身体。
自身も隊服を脱ぎながら、尚も愛しい人に口づける。
情事は初めてではないのに、毎回恥ずかしそうに頬を染める凪桜が可愛くて仕方ない。
「好きだ、凪桜。愛してる」
『ぁんっ…ぎゆうさん……!私も好きっ…!』
深く深く口づけながら、秘部に自身のモノを押し付けると、 既にたっぷりと潤った凪桜の中に呑み込まれていく。
『…はぁっ…うっ…ぎゆうさん大好き……!』
ぎゅっとしがみついてくる凪桜。可愛すぎるあまり、理性がもう全く仕事をしてくれない。
「…っ…凪桜…!好きだよ…はぁっ…はぁっ……」
手を握り合う。律動に合わせて凪桜の形のいい乳房が揺れる。
快楽に溺れる感覚。全身が熱い。結合部はもっと熱い。
唇を重ね、舌を絡め合う。
愛しい人とひとつになれる喜びは、何度回数を重ねても大きく激しい。
『んっ…ぎゆうさん…っ!』
「凪桜!」
体位を変え、深く繋がる。何度も、何度も。
じわりと汗の滲んだ身体。
凪桜の甘い香りが一層強くなり、俺を酔わせる。
『っ!…あぁっ!ぎゆうさん…もうだめっ!』
「……俺も…っ…凪桜…愛してる!」
『ぅっ…ああぁっ!!』
一際艶のある声を発しながら、凪桜の身体がビクンと大きく跳ねる。
同時に俺も彼女の中に熱いものを勢いよく吐き出した。
『はぁっ…はぁっ……』
まだ小刻みに身体を震わせている凪桜。
俺も彼女の体内から撤退するのが名残惜しくて、繋がったままぎゅっとその細い身体を抱き締める。
ちゅっ
軽く唇を重ね合わせる。
凪桜の柔らかな黒髪を撫でる。
愛しい、愛しい、俺の恋人。
「…凪桜…愛してるよ」
『私も…義勇さんのこと、愛しています』
もう一度唇を重ねる。
離さない。絶対に俺が君を幸せにする。
無惨との戦いが終わり、鬼のいない世界が訪れた。
大勢の命と引き換えに手に入れた平和な世界。
俺は右腕を失ったものの、どうにか生きて帰ってこられた。
しばらくは蝶屋敷で療養して、やっと動けるようになったのは、戦闘から何週間も絶った頃だった。
窓の外には、柔らかな陽の光が木の葉の間から零れ落ちている。
凪桜はどうしているだろうか。早く会いたい。
でも、痣を出現させた俺はもう、あと数年しか生きられない。
約束通り凪桜と夫婦になれても、結局彼女をひとり残して死んでしまう。
信じて待っていてくれた彼女に、そんな仕打ちはあんまりじゃないか。
とりあえず凪桜の家へ向かう。彼女の意見を聞こう。その上でどうするか考えよう。
トントントン
戸を叩く。返事がない。
留守だろうか。少し待ってみるか。
『…義勇さん…?』
ひどく懐かしい声が聞こえ、すぐにそれが聞こえたほうに顔を向ける。
「凪桜……」
そこには会いたくて会いたくて仕方なかった恋人の姿。
『義勇さんっ!』
凪桜が勢いよく俺に飛びついてきた。
俺も残った腕で彼女を抱き締める。
『…義勇さん…おかえりなさい』
「ただいま、凪桜……。会いにくるのが遅くなってすまない…」
ゆるゆると静かに首を横に振る凪桜。肩が小さく震えている。
『会いたかった……』
「俺もだよ」
顔を上げた凪桜にそっと口づける。
変わらない甘い香り。
彼女の家に上がり、お茶を飲んでひと息つく。
「凪桜に話さなければならないことがあるんだ」
『何ですか?』
俺は痣のこと、寿命のことを簡単に説明した。
「信じて待っていてくれた凪桜を、結局独りにしてしまうのが心苦しくて……」
黙って話を聞いていた凪桜が口を開く。
『寿命のことは仕方ないですよ。それでも私は義勇さんと一緒にいたいです。約束通り、私をお嫁さんにしてください』
真剣な顔で真っ直ぐに見つめられ、胸の鼓動が速くなる。
同時に全身に広がる、優しい温もり。
「俺は腕が1本しかない。今までみたいに、お前のことを抱き締めてやれない」
『そしたら、私が2本の腕で義勇さんを抱き締めます。不便でしょうけど、それはあなたが命を張って鬼を倒してくれた証です。誇りを持ってください。あなたにできないことは、私が代わりにしますから』
目頭が熱くなり、涙が頬を伝って流れ落ちる。
悲しみの涙ではない。嬉しくて、幸せで。
そんな俺を凪桜がぎゅっと抱き締めてくれた。
寿命が尽きるその日まで、俺は君と共に歩んでいくと心に誓う。
その半年後、俺と凪桜は祝言を上げた。
白無垢姿の彼女は、本当に美しかった。どんな大輪の花も羨むくらいに。
花びらが舞い散る桜の木の下で、産屋敷家の御三方や師匠、宇髄一家、不死川、竈門兄妹、我妻、嘴平、栗花落、神崎たちに見守られて、俺たちは永遠の幸せを誓った。
蔦子姉さん、自分の命も顧みず俺を守ってくれてありがとう。
錆兎、いつも俺の支えになってくれてありがとう。
俺は今、とても、とても幸せだよ。
終わり