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ホテル・グランドハイアット・エイジアにある、高級レストランは、国会議員や官僚の多くが訪れる、謂わば社交場としての意味合いが強く、その会話の内容は、中華人民共和国国家安全部に筒抜けだった。三反園は、そんな状況を苦々しく思いながら、スマートフォンにたった今送られてきたメールを確認しながら、ひよりに淡々と話し始めた。
「磯海班が追っていた車から、拉致されたと見られる男性が救出されました。気象庁の桂長官です」
「気象庁?」
ひよりは頭の整理が追い付かず、思わず素っ頓狂な声をあげていた。
広域窃盗犯が中国マフィアの赤虎隊である証拠は掴んでいたが、そこに日本政府の関係者が存在している理由が判らなかった。
「長官、何故気象庁なんですか?」
ひよりは素直に聞いた。
三反園は時計を見ながら、
「昨年、我が国が打ち上げた観測衛星ありましたね。あれは、軍事衛星の役割を担っているんです。そんな噂を聞いた事ありませんか?世間では、陰謀論やフェイクニュースとして片付けられましたが…」
「初耳です」
「後々皆さんにも説明しますが、我が国はここ数年、独自の専守防衛システム開発に動いていました。鳥海さん、テストパイロットだったあなたなら判りますよね?」
ひよりは頷いたと同時に、東京テロを思い返して身震いした。
「開発テスト中に起きたトラブル。その結果が東京ジェノサイドを招いた。そして、背後には中国の陰がチラついている。これが現政権の見解ですよ」
「中国?」
「彼等は何十年もかけて、この国の世論を誘導してきた。実に巧みにね。米軍基地監視の為の見張り塔を見た事は?」
「あります」
「その建設費用は韓洋が賄っている。彼等は実に巧妙です。東京テロにしたってそうです」
ひよりは、とてつもない陰謀の闇に、自分が引きずり込まれていると実感した。
「後々の調べで判明しました。隅田川で自爆したテロリストは元赤虎隊です。また、中国当局に拘束されていたテロ首謀者の弟を、第三国から脱出させたのは、韓洋グループの貿易会社…日本は今、世論が真っ二つに割れています。防衛力強化か、日米安保堅持かです。決め切れない日本人の隙を突いて、奴らは自然と侵入してきます。日本を乗っ取る為にです」
三反園は、それ以上は話さなかった。
ひよりは、ホテルの明かりを眺めながら、胃液が込み上げる不快感と闘っていた。
エイガ雫が対峙している韓洋は、裏世界のフィクサーだったのだ。