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約束の正午。エントランスホールに戻ると、そこにはすでに待ちくたびれた様子の三人がいた。
ベンチで膝を突き合わせている小谷先生と成瀬先輩、そしてその前で、獲物を待つ獣のように入り口を睨みつけている遥。
「お待たせ。遥、いい子にしてた?」
凌先輩が、わざとらしく私の肩に手を置いて声をかける。遥が弾かれたように立ち上がった。その視線は、私の肩にある先輩の手を射抜くように鋭い。
「……遅い」
一言だけ低く吐き捨てると、遥は迷いのない足取りでこちらへ歩み寄ってきた。凌先輩が「じゃあ、バトンタッチだね」と私の肩から手を離した瞬間、遥が私の腕を強引に引き寄せる。
「紗南、行くぞ」
「あ、ちょ、遥……っ、成瀬先輩たちに……」
「いいから。……これ以上、一秒も待てるかよ」
挨拶もそこそこに、遥は私を連れて人混みの中へと突き進んでいく。後ろから「遥、足! 気をつけろよ!」という小谷先生の怒鳴り声と、「あーあ、完全に火がついてるねぇ」という成瀬先輩の楽しげな声が聞こえてきた。
少し離れたところで振り返ると、凌先輩が壁に寄りかかり、優雅に手を振っていた。その余裕のある微笑みが、隣で歩く遥の苛立ちをさらに煽っているのが分かった。
「……何だよ、あの兄貴の顔。……紗南、午前中あいつと何してたんだよ」
遥の握る力が少しだけ強くなる。
水族館の順路を外れ、人影がまばらな、巨大なサメが泳ぐ回廊へと差し掛かった。
「……別に、何もしてないよ。展示を見てただけで……」
「嘘つけ。……兄貴の匂いがついてる」
遥は突然足を止めると、私を逃がさないように壁際へと追い込んだ。