テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
二人で店内を見て回り、俺は予約した店に向かおうとるりちゃんを誘った。
恐縮した様子で、それでも頷いてくれた。
だが、その前にと言って、るりちゃんが通りの向いにある店で化粧品を買いたいと外に出た時、彼女はまさにお腹を抱えてうずくまった。
「るりちゃん!?」
「――――っ! お腹……痛い……」
道路に座り込みそうになり、慌てて抱きかかえ、通行の邪魔にならないように端に寄る。
るりちゃんは額に汗を滲ませ、息苦しそうだ。
「ここ、座って」と、ジャケットを脱いで敷く。が、彼女は首を振る。
「汚れたら洗えばいい。今はそんなことを気にしてる余裕もないんだろ!?」
肩を上下させて、ギュッと目を閉じ、呼吸も辛そうだ。
腹痛のようだが、トイレに行けば済むような程度ではなさそうだ。
「きゅ、救急車呼ぶ?」
聞いてはみたが、返事を待たずそのつもりで、俺はスマホを取り出した。だが、その手を強く掴まれる。
「…………っ!」
変わらず苦しそうな表情のまま、るりちゃんが首を振る。
まさか――――!?
「なにか……感じるの?」
コクコクと頷く。
「……っふぅ――っ!」
一層苦しそうに蹲った時、俺の腕を強く握って胸に飛び込むように寄りかかってきた。
「下りないで!!」
下りないで!?
確かに聞いた。
それから、るりちゃんを強く抱き締めた。
「るりちゃん、大丈夫!? ゆっくり深呼吸しよう」
これまでの二度からして、彼女が警告のような言葉を発したら、苦しみは消えるはず。
「俺にもたれていいから、力を抜いて」
そう言いながら、彼女の肩をさする。
「吸ってぇ……、吐いて……」
俺の言う通りに、肩が上がり下がりして、徐々に落ち着いていく。
「凱人……さん」
腕の中で小さく俺の名を呼んだるりちゃんの顔を覗き込むと、顔を真っ赤にして涙ぐんでいた。
「まだ、痛い?」
ふるふると首を振る。
その一生懸命な仕草が、何とも可愛らしい。
だが、今は邪な気持ちに浸っている場合ではない。
「『下りないで』って言ったね?」
コクッと彼女が頷く。
肩にかかった髪がするりと落ちて、うなじが露わになる。
場所と状況が違えばどんなに嬉しい距離だろう。
「思い当たること、ある?」
ふるふると首が振られる。
「あの――」
「――ん?」
「もう……大丈夫なので……」
「うん」
わざとだと気づいているだろうか。
わざと、抱きしめたままでいるのだと。
髪の間から覗くうなじまで真っ赤に染まっていく。
ホント、可愛いなぁ。
こうして抱き締めてると、温かいし柔らかいし。
なんならずっとこうしていたいのだが、そうもいかない。
端に寄っているとはいえ、街中。
通行人の視線も痛い。
俺はるりちゃんの肩を抱き起した。
「誰だかわかりそう?」
立ち上がり、周囲を見渡す。
るりちゃんはまだお腹を押さえているけれど、苦しそうではない。
お腹と『下りないで』ってどういう関係……?
「あ!」
探し人が見つかったのか、彼女が駆けだす。
俺は荷物とジャケットを持って後を追った。
「あの――っ」
るりちゃんが声をかけたのは、一組のカップル。
緑に近い青のワンピースに白の薄手のカーディガンを羽織っていて、長い髪を緩く三つ編みしている美人系の女性と、ダークグレーのカジュアルスーツに白のカットソーかリブニットを合わせた真面目そうな男性。二人とも三十歳前後だろうか。
男性の手にはたくさんのショップバッグ。
二人はるりちゃんの声に気づかず、歩き続ける。
だが、すぐ間近で「すみません!」と声をかけられたら、さすがに立ち止まった。
男性の方が、るりちゃんをじっと見ている。
ナンパだとでも思われたら大変だ。
「いきなりすみません! あの――」
「――るりちゃん、落ち着いて」
必死の形相で話し始めようとする彼女を止め、耳元で囁いた。
「どうかしましたか?」
男性が女性を庇うようにして立ち、言った。
「大変不躾ですが、この後の予定を変更してもらえませんか?」
「え?」
「変なことを言っているのはわかっています。でも――」
「――落ち着いて、るりちゃん」
何を言うつもりなのか、とにかく焦るるりちゃんを落ち着かせる。
そして、俺から男性に向かって言った。
「少しだけ話を聞いてもらえないでしょうか」
無視されても仕方がない。が、これまでからして、放っておくとかなりの被害がありどうだ。
「あの、体調が悪いのですか?」
男性の横から、女性が言った。
「ここでは往来の邪魔になりますので、ちょっと避けませんか」
男性が頷く。
「そうだな」と言って、女性の肩を抱いて〈close〉の札がかかった飲食店の前に移動した。
俺とるりちゃんも後に続く。
「で、この後の予定を変更しろというのは?」と、男性が俺たちを見て言った。
「私っ、占いをかじっていまして、なんかこう、お二人を見た時にビビビッと降りてきちゃ――」
「――るりちゃん、俺が説明するよ」
るりちゃんの説明では、宗教の勧誘かなにかだと思われそうだ。
俺はジャケットの内ポケットから名刺を取り出し、男性に差し出した。男性は受け取り、見て、呟いた。
「奥山商事……」