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「加賀美さん……いいえ、柊さん! お願い、教えて。あなたは浩太郎がどこにいるのか、もう見えているんでしょ? あの時のように、奇跡を見せて。この人たちがいくら調べても分からないことを、あなたなら……!」
ひろみさんの指が、柊さんのグレーのコートをぎゅっと掴んで離さない。その必死な形相は、刑事に対する信頼というより、溺れる者が最後の一本の藁を掴むような、盲目的で危うい依存だった。
柊さんは、彼女の手を振り払うこともせず、ただ冷めた瞳で見下ろした。
「奇跡、ね。……南さん、見てごらん。これが『嘘』に救われた人間の末路だ。真実を突きつけられても、なお心地よい夢の中に逃げ込もうとする」
「柊さん、今はそういう講釈はいりません!」
私は彼の前に割り込み、ひろみさんを引き離すようにして彼女の肩を抱いた。
「ひろみさん、落ち着いてください。彼は……その、霊能者ではありません。ただ、人の心理を読み解くのが得意なだけです。今は、警察の捜査を信じて……」
「でも、警察は浩太郎を見つけられない! 加賀美さんなら……柊さんならできるはずよ!」
ひろみさんの叫びに、刑事たちが顔をしかめる。私は我慢できず、声を張り上げた。
「いい加減にしなさい! 今あなたが取り乱してどうするんですか! 浩太郎君を助けられるのはあなただけですよ!」
言葉に詰まるひろみさん。室内には、彼女の絶望と柊への異常な期待が混ざり合い、重苦しい空気が停滞していた。
柊さんは、机の上に並んだクッキーの箱を指先で弄りながら、不敵に口角を上げた。
「南さん。さっきはどうした? 僕以外に声を荒げるなんて珍しい」
「すみません、ちょっと思うところが……」
「そうか……あと、君はさっき、犯人が電話ではなくメールを選んだのは『足がつきにくいからだ』という刑事さんの意見に、疑問を持たなかったのかい?」
「……それは、確かに追跡は困難だと技術班も言っていますし」
「もちろんメールの方が匿名性の高い連絡ができる。だがメリットはそれだけじゃない……いいかい、最初の連絡は浩太郎君の携帯から電話できたんだ。犯人は、浩太郎君の指を使って短縮ダイヤルを押させたか、あるいは自分で操作した。それなのに、なぜ二回目からはわざわざ自分の端末を使い、身元を隠すためにサーバーをいくつも経由してメールを送るなんて手間をかけたと思う?」
柊は、ひろみさんのスマートフォンを指差した。
「四千万円という、この家の資産からすれば、用意できなくはない絶妙にリアルな金額。そして、わざわざ目隠しをさせた写真。……南さん。犯人がもし声を聞かれるのを恐れただけなら、ボイスチェンジャーを使えば済む話だ。なのに彼らは、通話という手段を完全に放棄した」
「……どういうことですか」
「浩太郎君の携帯に登録されていた三つの番号。母親、職場、おばあちゃん。……犯人が最初の一回だけ電話を使い、それは母親に繋がった。短縮ダイヤル一番だからたまたま五発で繋がったという可能性もあるが、犯人はどの番号が母親に繋がるか知っていた可能性もある。金額もそう。この家がちょうど出せる金額を知っている」
柊の声は、ひどく静かだった。だがその言葉には、ひろみさんの盲目的な期待を冷徹に引き裂き、事件の裏側に潜む意図を無理やり引きずり出すような、残酷な響きがあった。
「誘拐した子供に目隠し。姿を見られたら後々困るからというのもあるだろうが、子供が、もっとシンプルな可能性もある。浩太郎君と顔見知りという可能性だ」
柊さんが辺りを見回す。
「みなさん。犯人は外側にいるとは限らない。電話はリアルタイム通信、つまり同期通信だが、メールならタイマーで送信できる。意味は分かるかい?」
内部犯。
おそらくこの場にいる全員が頭にその言葉がよぎっただろう。そして同時にこの中に犯人がいる可能性も。