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第十三章 繋がる願い
第一話 森に差す白い影
昼下がりの森の中。
穏やかだった空気が、一変した。
強い風が辺りの木々を揺らす。
木漏れ日が激しく揺らめいた。
足元に、色付いた葉が舞う。
そのざわめきまでもが、胸を乱していく。
白装束の男の口から発せられた
「月蝕の子」
その言葉に、ジントの背筋がぞわりと粟立った。
聞き覚えのある声。
帝都の宿屋。
あの日、白い装束の奥から滲み出ていたどす黒い感情。
冷たい執着。
底の見えない悪意。
あの時と同じだった。
——逃げなきゃ……!
そう思った瞬間、身体が動いた。
ジントは反射的に地面を蹴る。
少しでも距離を取ろうと、横へ飛び込む。
その直後、緑色の光が走った。
風属性。
鋭い風の刃が、ジントのいた場所を切り裂く。
「っ……!」
地面を転がりながら受け身を取り、すぐに立ち上がる。
土と落ち葉が服へ付く。
呼吸が乱れる。
でも、止まってはいけない。
ジントは腰へ手を伸ばした。
いつも持ち歩いている小さなナイフ。
薬屋の仕事用。
けれど今は、自分を守るための唯一の武器だった。
震える手で柄を握る。
「………」
男達は、そんなジントを見ていた。
警戒。
恐怖。
それでも、逃げない。
その姿を見て中央の男が静かに口を開く。
「抵抗する意味はない」
その言葉に、ジントはナイフを構えたまま睨み返す。
脳裏に蘇る。
帝都でダイチを傷付けた連中。
自分へ向けられた悪意。
ジントの黒い瞳の奥が強く光る。
次の瞬間、別の男の地面へ向けられた杖の先が淡く光る。
「――!」
ドンッ!!
大地が震えた。
ジントの足元から土の壁が一気にせり上がる。
「っ!」
後ろへ飛び退く。
間一髪。
さっきまでいた場所が巨大な土壁に塞がれる。
逃げ道を奪うための魔法。
その衝撃で近くの木の根元が押し上げられ、土が大きく割れる。
森の静寂が壊れていく。
ジントは息を呑む。
強い。
一人一人が。
自分よりずっと強い。
でも諦めるわけにはいかなかった。
ダイチがいる。
みんながいる。
やっと戻れた場所がある。
「……っ」
ジントは歯を食いしばり、再び走る。
その時、別の男が杖を向けた。
「逃げられると思っているんですか」
赤い光。
火属性。
放たれた火球は、ジントではなく横の木へ向かった。
ボッ。
乾いた音。
樹皮が黒く焦げる。
炎はすぐに消える。
でも残った焦げ跡が、当たればただでは済まないと告げていた。
「次は外しませんよ」
静かな声。
その瞬間。
ジントは悟る。
この人達は、本気で殺すつもりならとっくにできる。
だからこそ怖かった。
自分を傷付けることではなく、捕まえることだけを目的にしている。
「……っ」
後ろへ下がる。
けれど背後には、いつの間にか移動していた風属性の男。
その手が静かに上がる。
空気が変わった。
風が止まる。
違う。
止まったのは、ジントの周囲だけだった。
「……っ!?」
息を吸う。
でも、肺へ届かない。
空気がない。
透明な壁の中へ閉じ込められたような感覚。
苦しい。
視界が揺れる。
足へ力が入らない。
男の声が遠くで聞こえる。
「ただ眠ってもらうだけだ」
違う。
ジントには分かった。
これは抵抗する力を奪う魔法だ。
手に力を込める。
まだ。
まだ動ける。
ナイフを握ったまま、一歩踏み出そうとする。
でも身体が言うことを聞かない。
膝が崩れる。
「………っ」
指先から力が抜けた。
カラン。
小さな音。
ナイフが落ちる。
「……ダイチ……」
無意識に名前が零れた。
最後に浮かんだのは。
「また明日」
そう言って笑った顔。
そしてジントの意識は、深い闇へ沈んだ。
コメント
5件
昔のジントならナイフを取りだして抵抗なんてしなかった気がします。 今抵抗するのは大切な仲間や居場所ができたからなのかなぁと思うと考え深いですね🥲
昨日のあらすじで、今後の展開が重くなると覚悟していたけれど、やっぱり💛さんの身に何か起きるのは覚悟してても無理ですね 💛!逃げて!と叫びそうになりました💦 今後の展開もソワソワしながら、楽しみにしてます🙏
第49話、読み終えました。白装束の男が再登場して、一気に緊張感が走りましたね。特に空気を操る魔法の描写が怖くて、ジントが必死に抗おうとする姿に胸が締め付けられました。最後にダイチの名前を呼ぶところが切なくて……。この先どうなるのか、気になって仕方ないです。comiさん、素晴らしい展開をありがとうございます!