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仁人がコーヒーを淹れてる音で目が覚める朝は、だいたいいい日だ。
カップを棚から出す音、少しだけ雑なスプーンの扱い、鼻歌にもならない息のリズム。
全部が、ちゃんと“生きてる音”で、俺は布団の中でそれを聞くのが好きだった。
『はよー』
背中から声をかけると、仁人は少し肩を揺らして振り返る。
「あれ、なんだ起きてたのかよ」
『今起きた』
「嘘つけ笑」
笑う顔が、今日はちゃんと力が入ってる。
「砂糖いる?」
『いや、今日はブラックで』
「珍し、笑」
なんて言いながら、仁人は何も言わずにいつも通り砂糖を入れる。
俺の好みを聞かなくても覚えてるところがずるいなぁ、笑
大丈夫、今日も一緒にがんばろーな
勇斗は、相変わらず距離が近い。
でもそれは、守るための近さじゃなくて、ただ一緒にいるための近さに戻ってる。
ソファに並んで座って、テレビをつける。
内容なんてほとんど頭に入ってない。
『ねぇ』
「ん?」
『今日、何すんの?』
その“何する”に、期待も不安も混ざってないのが、少し嬉しい。
「え〜…じゃあ散歩でもする?天気いいし、」
『最高。アイス買って帰ろーぜ』
「子どもか笑」
『仁人も頭ん中で、"ちょっといいなぁ"とか思った癖に』
「思ってないわ笑」
バレた?笑
こういう所は別に汲み取らなくていいんだけど笑
なんて思いながら、出かける準備をした。
外は少し肌寒くて、仁人は俺の上着の袖を掴む。
『ん、どした?寒い? 』
「まぁ、ちょっと」
『ほら』
言葉より先に、手を引き寄せる。
仁人は一瞬だけ驚いた顔をしてから、何も言わずに身を預けてくる。
「…こういうのさ」
『ん?』
「前は、甘やかされてる気がしてた。恥ずいし、」
歩きながら、ぽつりと言う。
『今は?』
「今は…一緒にいるだけって感じ」
それが、何より嬉しい。
アイス売り場で真剣に悩む勇斗を見て、思わず笑う。
「そんな悩む?笑俺が選んであげましょうか?笑」
『仁人が選ぶと後で後悔すっから』
「はぁ?」
結局、二つ買って半分こする。
溶けるのが早くて、指が少し冷たい。
『あーほら、落ちる』
「わかってる!」
勇斗が、何も言わずに俺の手を取って、アイスを拭く。
その動きが、自然すぎて胸がきゅっとなる。
「…ねえ」
『なに』
「俺、、ちゃんとここにいるよね」
一瞬、勇斗の手が止まる。
顔を見る。
逃げてない目だった。
『いるよ、いる。』
「……うん」
額に、軽くキスをする。
意味なんて、きっと説明しなくて大丈夫。
『今日さ』
「うん?」
『帰ったら、何もしない時間でも作ろ』
「最高、笑」
いつかのデジャブ。
仁人は笑って、俺の腕に自分の腕を絡める。
特別じゃない日。
でも、確かに続いていく日。
「ねえ勇斗」
『なに』
「こういう日、忘れたくないわ」
俺は、即答する。
『別に忘れてもいいよ』
「え?」
『また作ればいいから』
仁人は一瞬きょとんとしてから、少し照れたように笑った。
「…そうだな、笑」
end.