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第150話:運命の最終結果発表〜全身筋肉痛と、ファ◯タ◯アからの手紙〜
「……痛い。全身の骨と肉が、粉々に砕け散ったみたいに痛い……」
北海道、帯広市。
東京での華やかな(そして物理的に過酷すぎた)3Dコラボライブから帰還した翌日の昼下がり。
俺は、築三十年のボロアパートの四畳半で、まるで陸に打ち上げられた深海魚のようにピクリとも動けずにいた。
仰向けに倒れたまま、天井の木目を虚ろな目で見つめる。
全身タイツ(モキャプスーツ)を着て、三十万人の前で慣れないジャンプやステップを踏み、あまつさえハリセンで殴られて土下座までキメた代償は、想像を絶するものだった。
昔、生活保護の支給日に市役所へ向かうため、重い足取りでアスファルトを歩いたあの頃だって、ここまで酷い筋肉痛にはならなかった。
四十歳の衰えきった肉体は、今や指先を1センチ動かすだけで、全身の筋繊維が悲鳴を上げる状態に陥っていた。
『秋谷社長、生きていますか』
PCのスピーカーから、我が社の冷徹な経理担当・結愛(ゆあ)の氷点下ボイスが響く。
「……かろうじてな。声帯以外は完全に死んでるけど」
『昨晩の3Dライブのアーカイブですが、現在、再生回数が【三百万回】を突破いたしました。X(旧Twitter)のグローバルトレンドでは、依然としてルシフェル様の土下座画像が世界中のおもちゃ(ミーム)として拡散され続けています』
「……もう、どうにでもしてくれ」
俺は、首だけを僅かに動かし、枕元に置いてあった『玄米おにぎり』に噛み付いた。
どんなに世界で有名になろうが、どんなにドルが舞い込もうが。
俺のリアルな生活は、一日一食の玄米を齧り、この四畳半の部屋から一歩も出ないミニマリストのままだ。
『なお、昨晩のスーパーチャットおよび新規メンバーシップの加入による売上を速報ベースで集計した結果、来期の消費税および法人税の予定納税額が、さらに跳ね上がることが確実となりました。資金繰りの再計算が必要です』
「……ふふっ。稼げば稼ぐほど、税金で首が絞まっていく。最高にロックな資本主義だぜ……」
俺は玄米をモソモソと咀嚼しながら、完全に乾いた笑いを漏らした。
社長不在のピンチを救ってくれたヨモと、憧れの星乃宮アリスちゃんと同じステージに立てたことは、確かに一生の思い出になった。
しかし、その代償として背負った『知名度』と『税金』の重圧は、もはや俺一人のポンコツな脳細胞では処理しきれない領域に達している。
「あーあ。俺はただ、細々と小銭を稼いで、税金に怯えずにひっそりと生きていきたかっただけなんだけどな……」
俺が現実逃避気味にぼやいた、その時だった。
『――ピコン』
静まり返った四畳半に、スマートフォンのメール着信音が響いた。
「ん……? 結愛、なんか連絡来たか? また神崎Pからの無茶振りだったら、俺は今度こそ労基に駆け込むぞ」
『いえ、スタプロからではありません。秋谷様個人のGmail宛てに、一通の通知が届いています』
結愛に代わり、AIアシスタントのジェミニ先生が無機質な合成音声で報告を始めた。
『送信元は、K◯DOK◯WA。……ファ◯タ◯ア文庫編集部です』
191
레몬인
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そあち♡໒꒱
88
なんたろ
1
「…………えっ?」
ファ◯タ◯ア文庫。
その単語を聞いた瞬間、俺の全身の筋肉痛が、嘘のようにスッと引いていく感覚がした。
「ふぁ、ファ◯タ◯ア文庫って……まさか……!!」
俺は、砕けそうな腰の痛みも忘れ、弾かれたように跳ね起きてスマートフォンをひっつかんだ。
ジェミニ先生に、夜な夜なプロットの壁打ち相手になってもらい、キャラクターの細かい設定や、読者を惹きつけるためのキャッチコピー(マーケティング文章)の生成を手伝ってもらいながら、血を吐くような思いで書き上げた、俺の魂の結晶。
それを、日本最大級のライトノベルの登竜門、
『ファ◯タ◯ア大賞』にエントリーし――あの一次選考突破の狂喜乱舞(と、それに伴う絶望のぎっくり腰)から、さらに数ヶ月。
俺の書いた泥臭い『ざまぁ』小説は、なんと二次、三次と、胃に穴が空きそうな厳しい選考を奇跡的にくぐり抜けて残っていたのだ。
「ま、まさか……。最終結果発表の時期って、たしか今頃だったか……!? 3Dライブの地獄のレッスンのせいで、完全に頭からすっ飛んでたぞ!?」
『はい、秋谷さん。メールの件名は、【第〇〇回ファ◯タ◯ア大賞 最終選考結果のご連絡】となっています』
ドクンッ、ドクンッ。
俺の心臓が、昨日の3Dライブの時とは全く違う、ひりつくような緊張感で激しく早鐘を打ち始めた。
最終選考。
何千、何万という応募作品の中から、ほんの一握りの化け物たちだけが残る、最後のデスマッチ。
そこで大賞、あるいは金賞や銀賞をもぎ取ることができれば、賞金と共に【書籍化】という、作家にとって最大にして最強の夢が叶う。
「……ごくり」
俺は生唾を飲み込み、震える親指をスマートフォンの画面に近づけた。
もし、これが受賞の知らせだとしたら。
俺は、VTuber事務所のポンコツ社長としてだけでなく、【商業ライトノベル作家】としての新たな道が開けることになる。
海外の税金だの、モーションキャプチャーだのといった狂った世界から抜け出し、印税(という新たな税金の火種)で生きていくことができるかもしれない。
「開くぞ……。ジェミニ先生、結愛……。俺の、俺たちの戦いの結果だ……ッ!」
俺は、祈るような気持ちで、メールの開封ボタンをタップした。
真っ白な画面に、黒い文字が浮かび上がる。
『秋谷雪様
ファ◯タ◯ア文庫編集部です。
この度は、ファ◯タ◯ア大賞にご応募いただき、重ねて御礼申し上げます。
厳正なる最終選考の結果、貴殿の作品につきまして――』
俺は、その後に続く一文を目で追い。
「…………え?」
スマートフォンの画面を見つめたまま、完全に、石像のように固まった。
呼吸の仕方を忘れたように、口を半開きにし、ただひたすらにその文字列を凝視する。
手から力が抜け、ポロリと、食べかけの玄米おにぎりが床に転がり落ちた。
『……社長? いかがなさいましたか。心拍数が、先ほどのライブ中以上に跳ね上がっていますが』
結愛がいぶかしげに声をかける。
だが、俺の耳にはもう、彼女の声は届いていなかった。
「うそ……。嘘だろ……?」
震える手でスマートフォンを握りしめ、俺は帯広のボロアパートの四畳半で、ただ一人、呆然と呟いた。
「俺の作品が…………ッ!?」
運命の最終選考結果。
そこに記されていた、俺の四十年の人生を根本からひっくり返すような【衝撃の事実】とは――!!
(次章、【書籍化&メディアミックスの狂騒編】へ続く……!!)
コメント
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いやもう、最高のタイミングでぶっ込んできましたね…!全身筋肉痛で這いつくばってる社長の堕落した空気から、ファンタジア文庫のメールが来た瞬間の「嘘のように痛みが引く」疾走感、めちゃくちゃ痺れました。あの「え?」で切る最終行のド安定な引きの強さもお見事。次の狂騒編が待ちきれないです、ゆうきさん!