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第150.5話:期待と絶望のファンファーレ〜最終選考落選と、現実という名の冷水〜
「…………え?」
スマートフォンの画面を見つめたまま、俺は完全に、石像のように固まった。
呼吸の仕方を忘れたように、口を半開きにし、ただひたすらにその文字列を凝視する。
手から力が抜け、ポロリと、食べかけの玄米おにぎりが畳の上に転がり落ちた。
『秋谷雪様。この度は、ファ◯タ◯ア大賞にご応募いただき、重ねて御礼申し上げます。厳正なる最終選考の結果、貴殿の作品につきましては――誠に残念ながら、今回は【選外(落選)】となりました』
「お、落ち……」
俺の喉から、掠れた音が漏れた。
「落ちたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」
四畳半のボロアパートに、昨日の3Dライブでハリセンを食らった時よりも遥かに悲痛な、四十歳のおっさんの絶叫が響き渡った。
『あら。心拍数が急低下したと思ったら、今度は凄まじい大音量ですね。近所迷惑ですよ、ルシフェル様』
ディスコードの向こうから、我が社の経理担当・結愛(ゆあ)の氷点下ボイスが容赦なく鼓膜を殴りつけてくる。
「嘘だろ!? あんなに……あんなにジェミニ先生と徹夜でプロットを練り上げて! 読者のウケを狙って『ざまぁ』展開もマシマシにして! 最終選考まで残ったのに!?」
俺は畳に両手をつき、ポロポロと涙をこぼした。
大賞を取って、華々しく商業作家デビューして、印税でこのボロアパートから脱出する。
そんな俺の輝かしい「書籍化の夢」は、K◯DOK◯WAからのたった一通のお祈りメールによって、無残にも打ち砕かれたのだ。
『ジェミニ先生。このポンコツ社長が現実を受け入れられるよう、落選の要因を客観的に分析してあげてください』
結愛の無慈悲なパスを受け、AIアシスタントのジェミニ先生が合成音声で淡々と解説を始める。
『はい。秋谷さんの作品は、文章力と構成力において最終選考に残る水準を満たしていました。しかし、最大の敗因は【ターゲット層との決定的な乖離】です』
「か、かいり……?」
『ファ◯タ◯ア文庫は、主に中高生から二十代の若年層をターゲットにしたライトノベルレーベルです。しかし、秋谷さんの作品の主人公は「四十歳の元公務員」。さらに、物語の途中で「インボイス制度への怒り」や「確定申告の闇」といった、ティーンエイジャーには全く理解できない重すぎる税務知識が長文で展開されていました』
「だ、だってリアリティが必要だろ!? 異世界に行ったって税金は払うべきだ!!」
『若者はライトノベルに「現実逃避」と「夢」を求めています。異世界転生してまで、源泉徴収や住民税の恐怖に怯えながら玄米をかじる主人公など、誰も見たくありません』
「ぐふっ……!!」
ジェミニ先生の放った【正論】という名の物理攻撃が、俺の心臓を的確に貫いた。
『要するに、ルシフェル様の書いた小説は「ライトノベル」ではなく、ただの「四十歳おじさんの悲しき税金ドキュメンタリー(異世界風味)」だったということです』
結愛が、ウェブカメラの向こうで呆れたようにため息をついた。
『商業出版とはビジネスです。売れないと判断された商品が弾かれるのは、資本主義として当然の帰結。……さあ、夢から醒めるお時間は終わりましたよ、社長』
「うぅぅ……俺の……俺の印税生活が……っ」
『印税生活など夢見ている暇はありません。昨日バズった3Dライブのおかげで、ヨモさんのチャンネルには今この瞬間も海外からのスーパーチャット(外貨)が降り注いでいます。来月には、予定納税という名の国税庁からのカツアゲが迫っているのですよ?』
「いやだぁぁぁぁ!! 現実に戻りたくないぃぃぃ!! なんで俺はこんなに働いてるのに、税金ばかり増えて一生玄米なんだよォォォ!!」
俺は畳の上をのたうち回りながら、落ちた玄米おにぎりを拾い上げてヤケクソ気味に口に放り込んだ。
モソモソとした味気ない食感が、落選の苦い味と混ざり合って胃に落ちていく。
小説家になって、この理不尽な税金地獄から抜け出すという野望は、もろくも崩れ去った。
俺はこれからも、この帯広の四畳半で、ズボラ猫耳娘のVTuber事務所社長として、泥臭く小銭(ドル)を稼ぎ続けるしかないのだ。
「……ちくしょう。いつか絶対、俺のこの泥臭いリアルを、全世界に売り飛ばして大金持ちになってやるからな……っ!」
負け犬の遠吠えを響かせながら、俺は涙目でPCのモニターに向き直った。
だが、この時の俺はまだ知らなかった。
俺が書いた『異世界ファンタジー』は落選したものの。
この俺自身の【底辺VTuber社長としての泥臭すぎるリアルな日常】そのものが、近い将来、思いもよらない形で『出版業界』の目に留まることになろうとは――。
(次章、【書籍化&メディアミックスの狂騒編】へ続く……!!)
コメント
1件
うわあ……これはまた容赦ない展開ですね(苦笑)。最終選考まで残ってからの落選、しかも原因が「ターゲット層との乖離」で「税金ドキュメンタリー(異世界風味)」って……痛すぎるけど、ジェミニ先生と結愛さんの分析があまりに的確で笑っちゃいました。でも、最後の「この泥臭いリアルが出版業界の目に留まる」って伏線、すごく気になります。不覚にも応援したくなってきた……!
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레몬인
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そあち♡໒꒱
88
なんたろ
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