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一瞬凍りついたように思えたその場の空気を、柔らかく、そして明るく溶かしたのはジェシーの声だった。
「そうだよ、僕らは魔法使いなんだ」
戻ってきたジェシーを、それぞれが驚いて迎える。
「ルビー! もう大丈夫なの?」
ずっと心配していた北斗が一番に訊く。
「うん。包帯巻いてオッケーだった。傷も浅かったし」
その左肩を軽くたたいて笑ってみせた。「それで、この子は?」
「通りすがりの子。俺らの目が宝石みたい、って褒めてくれたんだ」
母親は困惑して眉をひそめている。
「すいません…娘はまだお会いしたことがないんです」
ファンタジアに、を省略して彼女は言った。
これほどまでに色鮮やかな瞳を持っているのは、この国ではファンタジアという人種だけである。だからすなわち、それが“魔法使い”の証。
「小学校のお友だちが言ってた! こわーいフェイラーとか『アクのソシキ』を退治してくれるのは、ファンタジアっていう魔法使いさんなんだって! わたしね、見たことはあるんだよ。真っ黒な人たちと、ふつうの服を着た背の高い男の人。でもすぐにいなくなっちゃった」
もう、と母親はいよいよ呆れている。「そんなの噂よ。ほらユミ、おいで。おじいちゃんのお見舞い行かなきゃ」
5人に頭を下げて立ち去ろうとしたが、樹が立ち上がって呼び止めた。
「ちょっと待って。君はもしかして『悪の組織』を見たの?」
周りの環境に配慮して、一同は場所を6人の車に移す。
誰にも口外しないことを条件に、樹が経緯を母親に話した。
「——ってわけで、今メンバーのモルガナイトが行方不明なんです。それで、もしかすると娘さんが見た怪しい人物と一緒にいたのがあいつっていう可能性は高くなって…」
今度は、慎太郎が優しい声色でユミに尋ねる。
「ユミちゃん。その人たちをどこで見たとか、覚えてる?」
「んー、ピアノ教室の帰りだったから、ゼクス区の橋の近くかな。川を渡って帰るんだ」
「川?」
「うん。そこで黒くてこわい男の人たちが誰かを車の中に入れてたからね、ちょっと見てすぐに逃げたの」
高地にはピンとくるものがあった。最初に5人で捜索に出かけたのが、まさにその河川敷だったのだ。
そしてストーンズのシェアハウスがあるのが、ゼクス地区。
目配せをすると、4人にも伝わっていたようだ。
「行こう。ユミちゃんありがとう。お母さんも」
親子を解放し、ジェシーが右手を振る。そしてすぐに出発した。
「でもさ…そこに行って何か手がかりとかあるのかな? 悪の組織なら、足取りが掴めるものを残さないことくらいちゃんと考えてそうだけど…」
突然、北斗が弱々しい態度になる。
「それを、俺らが上回るんだよ!」
慎太郎が大声で励ました。「絶対悪い奴を超えて、ナイトを助ける」
微笑みを取り戻した北斗。すると運転席の樹が声を上げる。
「橋ってあれのことだよな?」
それは、ユミの目撃情報と一致する橋だ。路肩に車を停め、5人は外に出る。
「また警察署行って、今度は防犯カメラでも見せてもらう? ちょっと魔力で脅してさ」
高地の毒のある言葉に、ジョークだと受け取ったジェシーは笑う。
「怖いってトパー」
それに笑い返した高地の頬が、引きつった。
後ろをゆっくり振り返る。
5人のあとをつけるように、黒いパーカーのフードを被った男がいた。一瞬目が合うと、チャンスだと思ったのかその人物が何かを振りかぶる。
「みんな逃げろっ!」
高地は素早く腕を伸ばし、力を込める。最大限集約された電気がその指先から放たれると、まっすぐに男の身体に直撃する。
閃光が消えて目の前の景色が戻ったとき、男は地面に倒れていた。そばに落ちていたのは、金づちだった。
「誰だ、こいつ…」
ジェシーがつぶやく。恐る恐る近づき、眺めた。「知らない奴だね」
慎太郎は怖がる素振りは見せず、ポケットを探りはじめた。と、
「あっ、なんかある。……証明書? なんだこれ」
そう言って取り出したのは、小さな一切れの紙だった。“ガイルメンバー証明書”と書かれていて、誰かのサインがある。キラキラとしたホログラムもあるのは、偽造防止だろうか。
悪の組織。消えた大我。襲ってきた男。
今まさに点どうしが繋がり、線になろうとしていた。
続く