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「とりあえずこいつを拘束して、目覚めたときに詰問だね」
言うなり、慎太郎は地面に倒れたままの謎の人物を担ぎ上げる。そして車の後部座席に座らせ、高地がロープで後ろ手に縛った。
「その証明書はどうする?」
北斗が尋ねる。
「俺が持っておくよ」とジェシーが答えた。「脅しに使えるしね」
なるほど、と樹が片頬で笑ってみせる。
「それはいい手だ。じゃあ起こすか」
そしていきなり肩を揺すりだした。高地の雷の魔力は、よほど強力じゃない限り相手を失神させるだけに留まる。
男のまぶたが細く開いた。その目はまず青い瞳に焦点が当たる。目の前にいる5人を捉えたとき、かっと見開かれた。
「よう、おはよう。悪の組織の一員さん」
がばっと上体を起こす。そこでようやく、車に閉じ込められてファンタジアに囲まれているという状況に気づいたようだった。
「なんだお前らは! 何をする」
「何をするって、そんなこともわからないのか」
この空間で異質な柔らかさを持つ高地の声が、一種の恐怖をまとって男に届く。
「お前を調べるためだよ。それから、お前がいるらしい『ガイル』についてもな」
ジェシーが、証明書を男の眼前に突き出す。慌てて取り戻そうともがくが、きつく縛られたロープは解ける気配がない。
「まず第一問。お前の名前は?」
北斗が人差し指を立てて訊く。
「……アサセ。麻瀬了」
「この証明書はお前のもので、『ガイル』のメンバーなんだな?」
「ああ」
「俺らを襲おうとした目的は?」
「……」
口止めでもされているのか、黙り込んだ麻瀬。
ジェシーが紙をちらつかす。「これを使って、俺らが何してもいい?」
観念したように男がつぶやいた。
「所長のガイルの命令だ。ファンタジアを捕獲し、連れて帰ると」
「じゃあ最後の質問」
北斗は指折りしていた手を下ろす。「モルガナイトは今どこにいる? 正直に言わねぇと、誰の魔法が当たるかな」
北斗の黒々とした瞳が、虹色に光りはじめた。それが魔力を蓄えたときのサインだった。
「……研究施設にいる。安心しろ、命は保証する」
慎太郎が満足気にうなずいた。「よし、今から行く。ちゃんと案内しろよ? 俺の毒とかジェシーの炎とか、本気出したらすげえんだからな」
運転席にいた慎太郎はそのまま車のエンジンを掛ける。
そこから麻瀬の言葉に従って道を進むこと数十分。住宅街を外れた先にあったのは、ビル街に埋もれた白い建物だった。壁には『理化学研究所』とある。しかしそれは名ばかりであろう。
「これだ」
諦めているのか、投げやりに麻瀬が告げる。
「申し訳ないがお前を人質にして突入する。大人しくついて来いよ」
ジェシーが言って、車外に出させた。ポケットの証明書を確認し、6人と麻瀬は建物に入っていく。
すぐに、警備担当だろう屈強そうな男が出てきた。しかし麻瀬の顔を見て立ち止まる。そして、ストーンズを認識して目を張った。
「お前らのとこの麻瀬は預かった。ここにモルガナイトはいるな?」
訊いた樹は男をねめあげる。
「……誰だ。そんな奴はいない」
樹が手をかざした。男の足元が一瞬にして凍りつく。身動きを取れなくなった男を尻目に、ジェシーは「またあとで溶かさなきゃだよ」と軽快に言って一番手に駆け出す。
それに4人が続いた。もはや人質に取った麻瀬など眼中にない。あるのは、きっとこの中で囚われているだろう大我だけだった。
続く
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