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朝。
眠気を引きずったまま配信準備をしていたないこは、PC画面に映る自分の顔をじっと見つめていた。
笑ってる。ちゃんとできてる。みんなが求める「ないこ」だ。
ないこ: ……よし。今日も、がんばろ。
カメラをオンにして、マイクを整える。
コメント欄が賑わい始めた瞬間、自然と声が出た。
笑顔も、いつも通り。だけど――
ふと、モニターの隅に映る自分の姿が、笑っていないように見えた。
ないこ: ……気のせい、だよね。
配信が終わって、部屋に静けさが戻る。
テンションを無理に上げていた反動か、体が重たい。
ベッドに倒れ込んで、天井を見つめた。
ないこ: ……なんで、こんなに疲れるんだろ。
どこかで「やめてもいいんだよ」と囁く声が聞こえた気がした。
耳を塞ぐように両手を当てる。
ないこ: 違う。やりたいことを、やってるだけなのに……
ふと目線が逸れて、また鏡に目が留まる。
今度は、そこに立っている“自分”が――笑っていた。
けれど、それは自分の笑顔ではなかった。
鏡の中の闇ないこ: よく頑張ったね、今日も。
ないこ: ……また、出てきた。
鏡の中の闇ないこ: 何が「また」なの? 君が僕を呼んだんじゃないの。
ないこ: 呼んでなんか……
鏡の中の闇ないこ: だって、君は嘘つきでしょ。
楽しいって言いながら、心の中じゃ「もうやめたい」ってずっと言ってた。
ないこ: それは……違う。
鏡の中の闇ないこ: じゃあ、答えて。
君が今、誰かに「助けて」って言える?
本当のことを話せる相手が――どこにいるの?
ないこ: ……いないよ。
ぽろり、と言葉がこぼれた瞬間、胸の奥がズキリと痛んだ。
その痛みが、鏡の中の“闇ないこ”をますます鮮明にする。
鏡の中の闇ないこ: 大丈夫。
僕が、君のかわりに全部壊してあげる。
ないこ: ……壊れたくなんか……
鏡の中の闇ないこ: もう壊れてるよ、ないこくん。
鏡の中の自分の目が、ゆっくりと紅く染まっていく。
その瞳に映った“ないこ”は――微笑みを失っていた。
次回:「第四話:侵食」へ続く。