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第四章 黄金の太陽
第二話 陽だまりの皇子 後編
ソレイユ帝国は今日も太陽に愛されていた。
青く澄んだ空。
白亜の城。
黄金に輝く街並み。
人々の笑い声。
市場の活気。
どこを見ても、この国は豊かだった。
けれど十歳のハヤトは、ずっと気になっていた。
城の中から見える景色と、その場所に立って見る景色は本当に同じなのだろうか、と。
◇
「殿下っ!」
背後から侍従の声が聞こえる。
ハヤトは振り返らない。
「少し散歩してくる!」
「お待ちくださいっ!!」
当然待たない。
窓から飛び降りる。
城壁沿いの木へ飛び移る。
そのまま地面へ着地。
「よし!」
城の方から悲鳴が聞こえた。
「ハヤト殿下ーーーーっ!!」
帽子を深く被り直し、聞こえないふりをする。
こうして城を抜け出すのは、初めてではなかった。
皇子だからこそ、本当に国を知りたい。
ハヤトはそう思っていた。
ーーー
帝都は賑やかだった。
焼きたてのパンの香り。
果物を売る商人。
大道芸人。
噴水で遊ぶ子どもたち。
「お兄ちゃん、どうぞ!」
小さな女の子が花冠を差し出す。
「上手だな!」
頭へ乗せる。
女の子は嬉しそうに笑った。
市場の人々も笑う。
護衛も付けずに歩く少年、誰も彼が皇子だとは気付いていない。
それが少しだけ嬉しかった。
「平和だなぁ」
思わず呟く。
その時だった。
市場の奥。
少し離れた路地へ目が向く。
そこには、表通りとは違う景色があった。
壁にもたれ掛かる老人。
痩せた母親。
小さな子ども。
笑顔は少ない。
決して飢えている訳ではない。
けれど豊かでもない。
ハヤトは足を止めた。
「どうした坊主?」
傍の屋台の主人が声を掛ける。
「あの人たち……」
主人は困ったように笑った。
「色々あるんだよ」
短い答えだった。
ハヤトは黙る。
さらに歩く。
帝都の外れ。
そこでは帝国兵たちが慌ただしく動いていた。
馬車。
荷物。
治療師。
何かあったことはすぐ分かった。
「何があったんですか?」
近くの兵士へ尋ねる。
兵士は少年相手だと思ったのか、
特に隠さなかった。
「北の村からだ」
「魔物?」
「ああ」
兵士の顔が曇る。
「最近少し増えてる」
荷車の上には、壊れた家具や道具が積まれていた。
故郷を失った人々。
怪我人もいる。
泣いている子どももいた。
#見て
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22
ハヤトは言葉を失う。
帝都は平和だった。
笑顔で溢れていた。
けれど、その平和は、世界の全てではなかった。
「いててっ…」
ふいに声がした。
見ると、自分と同じくらいの少年だった。
腕に包帯を巻いている。
「大丈夫か?」
ハヤトが尋ねる。
少年は少し笑った。
「平気」
強がりだと分かった。
けれど少年は続ける。
「兵隊さんが助けてくれたから」
その笑顔は、どこか眩しかった。
失ったものは大きいはずなのに。
それでも笑って、前を向こうとしている。
ハヤトは拳を握った。
◇
それから城へ戻る。
当然のように大騒ぎだった。
「殿下!!」
「また抜け出したのですか!!」
「心配しましたよぉぉ!!」
なぜか侍従たちが泣いている。
ハヤトは苦笑した。
ーーー
そしてその夜。
父帝の執務室を訪れる。
大きな机。
積み上がる書類。
父帝はペンを置いた。
「今日は何をやらかした」
「なんで最初に怒るんですか」
「当たり前だ」
即答だった。
ハヤトは少し笑う。
そして真面目な顔になる。
「父上」
「ん?」
「どうしたらみんな幸せになりますか」
父帝の手が止まる。
静寂。
窓の外では、帝都の灯りが瞬いていた。
やがて父帝は、ゆっくり椅子へ背を預ける。
「難しいことを聞くな。
……皇帝でも分からん」
ハヤトは目を伏せた。
やっぱりそうなのか。
そう思った時だった。
「だが」
父帝が続ける。
「それを考えるのをやめた時、誰かを見捨てることになる」
ハヤトは顔を上げる。
父帝の黄金の瞳は、真っ直ぐ息子を見ていた。
「お前はどうしたい」
ハヤトは少し考えた。
今日見た景色が浮かぶ。
笑顔。
涙。
傷ついた人々。
全部。
全部浮かんだ。
そして
「みんなが笑っていられる世界がいいです」
父帝は小さく笑った。
「欲張りだな」
「そうでしょうか」
「皇帝向きかもしれん」
ハヤトは照れ臭そうに頭を掻いた。
ーーー
自室の窓から帝都を見下ろす。
光が広がっている。
遠くには見えない暗闇もある。
守りたいものがある。
まだ幼い少年には、何ができるか分からない。
けれど、胸の奥には確かな願いが生まれていた。
誰も泣かなくていい世界。
誰も傷つかなくていい世界。
そんなものが本当にあるのかは分からない。
それでも
「いつか……」
小さく呟く。
夜風が金色の髪を揺らした。
その願いは、太陽のように強く胸の奥で灯り続けていた。
コメント
1件
comiさん、第37話読み終えました! ハヤトが城を抜け出して、自分の目で街の人たちの姿を見てきたのが印象的でした。表通りと路地裏、傷ついた村の少年——同じ太陽の下でも、一人ひとりに違う景色があるんだなって気づかされました。 父帝とのやり取りが本当に良くて。「皇帝でも分からん。でも考えるのをやめた時、誰かを見捨てることになる」っていう台詞、染みました。ハヤトの「みんなが笑っていられる世界がいい」っていう純粋な願いが、とても眩しかったです。 まだ幼いけど、その眼差しは確かに未来を見てるんだろうな。陽だまりのような温かさをありがとうございました🤍