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コメント
1件
このコンビ最高🎵
『セクハラ? 不倫?』
「字、綺麗ですね」
思ったままが口をついた。
実は、アパートに残されていたメモを見た時も思った。
「ん? ありがとう」
極上スマイルを向けられ、ドキッとする。
極上イケメンで字まで綺麗なんて。
「極上イケメンで字まで綺麗なんてステキ」
鴻上さんが少し声のトーンを上げて、茶化すように言った。
「とか思ってたりする?」
「口に出てましたか!?」
「あははっ! 冗談だったのに」
目を細めて、子供っぽく笑う彼の眩しさを直視できず、私はレタスに視線を落とした。
フォークで刺すと、パキッと新鮮な音がする。
鴻上さんは気づいているのだろうか。
数人の女性スタッフがチラチラと彼を見ながら行き交っているのを。
「子供の頃に言われたことがあったな。『イケメンで背が高くて字まで綺麗とか、嫌味でしかない』って」
「嫌味……ですか?」
「うん。中学生の頃に、硬筆コンクールで賞を貰ったんだ。その時に」と、鴻上さんはドリアを口に運ぶ。
「確かに、イケメンなのも背が高いのも字が綺麗なのも、男性として魅力的な要素ですもんね」
私はうんうんと頷きながら、レタスを噛む。
「おまけに、足が早かったりもするよ? 成績も良かったし」
「ほれはっ!」
変な言葉になって、私は口を押え、急いでレタスを噛み、飲み込んだ。
確かに、寺田くんを助けてくれた時の走りは、アスリートかと思うほどだった。
「それは、羨ましがられちゃいますね」
「俺の残念さを知らない人には、完璧王子って呼ばれてたらしいしね」
「ほうっ! 安直でありながら的確な表現ですね」
「ははっ! 面白い感想だね」
「あ、すみません。安直だなんて言い方――」
「――そこ!? 全然気にしてないよ」
鴻上さんは極上イケメン過ぎて気後れしてしまうけれど、話しているとつい緊張が消えてしまう。
気さくで話しやすい極上イケメンなんて、罪だわ……。
「けど、中学でも高校でも卒業するころには完璧だなんて言う人はいなくなってたな。残念話が広がっちゃって。イケメンでも字が綺麗でも、残念だから」
「失礼ですね! そんな完璧な人なんているわけないのに。それに、イケメンで長身で足が速いのはDNAだけど、優しい性格だったり、字が綺麗だったり成績が良かったりは、鴻上さん自身の心がけや努力があってじゃないですか。そもそも! 鴻上さんは全然残念じゃないですよ! 当時、私がその場にいたら、鴻上さんを残念だなんて言う人の言い分を全力で全否定したのに!」
興奮のあまり、フォークを持つ手に力が入る。
私史上最高で極上のイケメンを侮辱されて、お前は鴻上さんのなんなんだ、と自分で突っ込みたくなるほど怒りに震えていた。
相棒だもの!
怒って当然!!
「ありがとう。乾さんは優しいね」
「そんなこと――っ!」
大口を開けた拍子に、スポッと鴻上さんのスプーンが差し込まれた。
条件反射で口を閉じると、スプーンが抜き取られた。口の中には、ドリアのクリーミーさが広がる。
「シーフードも美味しいですね。私はチキン派なんですが、軽めがいい時はシーフードが――」
真面目に味わう私を、鴻上さんが蕩けるほど甘い微笑みで見つめていた。
鴻上さんの表情については、私の願望で五割増しの感想だが。
「乾さんはドキドキしない?」
「え?」
鴻上さんが、先ほど私の口に差し込まれたスプーンをぺろりと舐めた。ドリアはのっていないのに。
「間接キス」
頭の上にボンッと文字が現れそうなほど、羞恥心に全身が熱くなる。
「あ、少しは意識してくれてた?」
鴻上さんが笑う。
からかわれているのだとわかっていても、つい反応してしまう。
落ち着け、相棒!
「ま、まだ知り合って四……五日? だしね」
私は顔の前で手を上下させて、扇ぐ。
「そうですね。なんか、まだそれくらいとは思えないですけど」
「うん、俺も。知り合ってこんなにすぐに打ち解けられる女性は初めてだ」
「ソ、ソレハタイヘンコウエイデス」
「はははっ! なんでカタコト?」
「鴻上さんがからかうからでしょ!」
「あ、敬語じゃなくなった」と、彼はスプーンを振りながら私に向けた。
「あっ! すみませ――」
「――敬語やめてって言ったのに、今日もずっと敬語だったんだもんなぁ」
不貞腐れたように唇を尖らせる鴻上さんにドキッとしつつ、これ以上醜態を晒すまいと平常心を心がける。
「ま、先は長いんだし、ゆっくりじっくり距離を縮めていこうか」
鴻上さんは楽しそうに微笑む。
私は、相棒。
彼は、相棒。
呪文の効力が薄れつつあることを、私は気づかないふりをしてレタスを噛んだ。
食事を終え、車の中で視察店舗一覧表に報告すべき点を書き込む。
見切り発車で視察に出た昨日の帰り道、鴻上さんと相談して準備を整えたのだ。
「さて、行こうか」
「はい」