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昨日、課長に抱かれました

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昨日、課長に抱かれました

8 - その後。「帰したくない」と言って後ろから抱きしめられました

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2024年11月01日

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性的交渉から始まる恋ってあるのだろうか。



場所はさっきのリビングのソファ。ハーブティのおかわりを頂いている。


さすがに二人とも服を着ている。課長は服を着替え、今度はグレイのTシャツにさっきとは違う黒のジーンズ姿。並んだときに腰の高さの違い。座ったときに膝から下の長さの違いに、こっそり驚いた。


なお、課長が飲んでいるのはコーヒー。自分で淹れる主義らしい。


会話は、ない。行為を通して、語り尽くしたというか。


「……お茶を飲んだら、帰ります」わたしは、自分から切り出した。


課長が休日をどう過ごすひとだかを知らない。もしかして――


居ると邪魔かもしれなかった。


「そっか」課長は、カップをセンターテーブルに置く。「莉子。おれたち――



つきあおう」



わたしは、カップをテーブルに置いた。課長のカップと並ぶかたちになった。


わたしは課長の目を見た。告白する男の漂わす色香。再び感じるそれに魅了され――



「……はい」


すると、もう、腕のなかだった。すでに記憶した、彼の匂い。わたしを抱くときの彼のやり方。もう、彼を『課長』として見ることなんか、できない。


「遼一さん。わたし……こんなわたしで、いいの」


「そんなきみをおれはずっと待ってた」


「だって……恋愛うぶだし、いろいろと疎いし」


「……おれの気持ちを聞かせてやろうか。


すごく、嬉しいんだ。


こんなに嬉しいことは人生初めてだ……」


課長がからだを離し、わたしの両肩を抱く。



罰じゃなくとも、百回キスされるかもしれない……。



もう何度目か分からない接吻を受け入れながら、わたしは、彼に触れることの喜びが、からだのすみずみまで行き渡っていくのを、感じていた。


* * *



時間が経つのが異様に早かった。


もう、夕方だ。


わたしはわたしを抱く彼の腕に触れた。「課長……わたし、ほんとに、帰らないと」


化粧すらしていない。


帰ってお風呂に入りたいし、洗濯物も片したい。


「ああ、そ……」課長が、わたしのうえから降りた。「明日ってなんか予定ある?」


「特にありません」


「うちか外かどっちがいい」


何の話だろう。「どっちかといえばインドア派ですけど……」


「なら、明日、うちに来てくれるか。何時でもいい」


おつき合いを始めるということは、つまりはそういうことなのか。


暗黙の了解で二人が休日を共に過ごす。


デート……。


新鮮な感動とともに、わたしは彼の言葉を受け止めた。「あ、はい。ええっと、お昼前くらいでいいですか」わたしはソファから離れる課長を見ながら立ち上がる。


「うん。駅まで送るよ」


「……道とか分からなかったら電話とかしていいですか」


「いいよ。てか迎えに行く」


玄関先に着くと、ハイヒールが転がってた。酔っ払って、脱いだ靴を揃えることすら、しなかったんだな……。


ともあれ。


わたしは靴を履くと、課長に向き直った。


「課長。ありがとうございました。


えっと、……これからもよろしくお願いします」


反転し、鍵を開こうとすると――


後ろから抱きつかれた。


むに、と胸を掴む大きな手。


「ちょ、ちょっと課長」


「離したく、ない」


「半日後には会えますよ」


「……泊まってけばいいのに……」


彼の手を離し、振り返ると半べその課長とフェイス・トゥ・フェイス。なんだか、笑ってしまった。


あんなに強面の課長が。家ではこんなだなんて。


「女は、いろいろと準備があるんです」わたしは、敢えて強い口調で言った。「化粧もしてませんし、部屋の掃除したり、したいことがたくさんあるんです。お泊りするとしたらまた来週、しましょう?」


「……金曜の晩うちに来て土日ずっと一緒に居てくれる?」


「いいですよ」子どもみたいだな、と思ってわたしは笑った。背の高い課長の頭に手を伸ばすと自分のかかとが持ち上がる。少年のようなこころを持つ彼の髪を、そっと撫でた。「週末、ずっと一緒に過ごしましょう」


「よかった。きみなしじゃおれ生きられない」


聞きようによってはプロポーズに聞こえなくもないのだが。


ぐず、と鼻をすすってた課長が、わたしに撫でられたまま、手を伸ばし、わたしの頭を撫でる。「おれ、めんどくさい男かもしんないけど。真剣だから。


真剣に、きみを好きだから」


「わたし」決意を秘めて、わたしは課長を見つめ返した。「……課長がいなかったら、どうなってたか分かりません。わたし――


課長の愛し方が、好きです」


「莉子」


重ねるだけのキス。もう、これ以上溺れると制御できなくなるから。



始めから制御などきかないというのが、恋の正体なのかもしれない。



「いこっか」


「うん」わたしは課長の笑みにつられて微笑んだ。


笑顔は、ひとを元気にする。



* * *



駅まで手を繋いで歩いた。課長は改札前でわたしの姿が見えなくなるまで見守っててくれたっぽい。ずっと、立ってた。


一人に戻る。


けども、寂しくなんかなかった。


わたしの胸のうちは温かいものに満たされている。


電車を一人で待つ。冒険旅行を終えた勇者の気分だった。しかしぼくたちの冒険はこれから! なのだった。


明日また遼一さんに会える――


電車の窓ガラスに映る女が、幸せそうに笑いを噛み殺す。幸せすぎて笑えてくることってあるんだなって、人生初めて知った。


マンションに戻ると窓を開き、空気を入れ替える。


かごにいれっぱなしだった衣類と、いま着ている服を脱いで、洗濯機に突っ込み、まずは洗濯開始。


服を脱ぎ、バスルームに入ると――


確かめて、みた。まだ熱くて、とてもやわらかかった。


乳房がこんなふうになるなんてことを、知らなかった。


わたしの内側には課長のかたちがしっかり刻まれている。そこに――


手を伸ばす。やわらかくて――



『莉子。莉子……』



わたしをいたらしめるときの課長の指の動き。荒っぽくて繊細で――


初めての絶頂。


課長がわたしの内部で達したときの、刺激。


彼の声。聞いたことのない、性的な叫び。響き。喉仏のかたち。



唇を引き結ぶ。


ここは課長の作りのいいマンションとは違う。声を出すと響いてしまう。



『莉子の声、聞かせて』



わたしは課長の声が恋しい。


指先が恋しい。あの爪のかたち。骨ばった指、なのに繊細な指先の動き。わたしのとは違う、男性特有の大きな手。


もどかしさに、歯を食いしばった。


彼のようにうまくできない。なのにわたしの指先は彼だけを求め――


わたしを、追い込んだ。


終わったとき、洗面台に手をついて荒い息をした。



別れたばかりだというのに、わたしは、いますぐにでも課長が欲しかった。



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