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⚠︎びっくりするほど長い
優しいソ連はいません 結構重い
ソ連「……また、眠れねぇ」
夜の闇に、俺は一人で呟いた。
どれだけ睡眠薬を飲んでも、眠れるのはほんの数時間。夢に出てくるのは、いつもあいつ――ナチスだ。
ソ連「また……お前か」
夢の中のナチスは、昔の姿だ。
まだ幼くて、笑いながら「ソ連、将来はどうしたい?」なんて聞いてくる。俺も笑って答えていた。あの時は、戦争なんて想像もしなかった。
けど、夢は必ず最後に変わる。ナチスの笑顔は憎悪に歪み、あの兵士の刃が俺を刺す。右目を奪われ、血の匂いの中で目を覚ます。
ソ連「……っはぁ、はぁ……」
胸が苦しい。生きているのに、生きている心地がしない。
俺はベッドの上で右目に触れる。そこには何もない。
けれど、確かに「視線」を感じる気がする。まるで、奪われた右目を通してナチスが俺を見ているようで。
ソ連「……やめてくれ、見るな」
どこにもいない相手に、そう吐き捨てる。
でも、見られている感覚は消えなかった。
ガチャ、と扉が開いた。
ロシア「……親父、また寝言がすごかったぞ」
ベラルーシ「お兄様、顔色が真っ青ですわ」
ソ連「……大丈夫だ。ただ、眠れないだけだ」
ロシア「もう何日もだろ。それは大丈夫じゃねぇ」
ベラルーシ「お医者様に言った方がいいんじゃ……」
ソ連「……言うな」
俺は二人を睨みつけるように言った。
自分でも分かってる。眠れないこと、味が分からなくなってること、心が壊れてきてること。
でも、誰にも知られたくなかった。弱い自分を見せたくなかった。
静寂が戻る。俺は天井を見つめたまま、息を吐く。
ソ連「……アメリカ」
あいつの言葉が、耳に残って離れない。
『俺じゃ、ダメなのかよ』
ダメに決まってる。
俺はナチスをまだ好きだ。殺されかけても、目を奪われても、それでも気持ちは消えなかった。
そんな俺が、アメリカなんかに振り向けるわけがない。
けど――あいつの必死な表情を思い出すと、胸がズキズキと痛む。
それは憎しみなのか、罪悪感なのか、それとも別の何かなのか。
ソ連「……分かんねぇよ、俺……」
無意識に、右目の包帯に手を伸ばしていた。
爪が食い込む。ガリッ、ガリッ――。
ベラルーシ「お父様!? 血が……!」
ロシア「やめろ!!」
気づいたときには、包帯の下から赤が滲んでいた。
俺は、自分で空っぽの右目を抉ろうとしていたらしい。
ソ連「……あれ、なんで……?」
ロシア「親父!正気に戻れ!」
ベラルーシ「お父様……泣いて……」
頬を伝う液体に触れる。温かい。
あぁ、そうか。俺、泣いてるのか。
ソ連「……もう分からねぇんだよ。どうしたらいいのか……」
ロシアもベラルーシも、何も言えなかった。
俺が静かに崩れていくのを、ただ見守るしかなかったのだろう。
――次の日。
アメリカ「ソ連」
ソ連「……なんだ」
アメリカ「……昨日のこと、聞いた。お前、自分を傷つけたって」
ソ連「誰に聞いた」
アメリカ「ロシア。……なぁ、もうやめてくれよ」
アメリカの声は震えていた。怒鳴るでもなく、強引に迫るでもなく、ただ必死に俺にすがっていた。
俺は返す言葉を探したが、何も出てこなかった。
ソ連「……お前に何が分かる」
アメリカ「分かんねぇよ。でも……俺はお前に死んでほしくない」
ソ連「……」
アメリカ「ナチスが好きなのは知ってる。俺じゃダメなのも分かってる。けど、それでも……お前が壊れてくのを見てるのが辛いんだ」
ソ連「……なんでだよ」
アメリカ「……好きだからだろ」
胸が締め付けられた。
泣きそうになるのを堪えて、俺は視線を逸らした。
ソ連「……俺はもう、壊れてんだよ」
アメリカ「そんなこと言うな」
ソ連「ナチスを忘れられねぇ。目を奪われても、殺されかけても……それでも、まだ好きなんだよ。そんな俺が……誰を愛せるんだよ」
アメリカは何も言えなかった。
ただ、俺の震える手を強く握りしめた。
ソ連「……放してくれ」
アメリカ「嫌だ」
ソ連「放せって言ってんだ!!」
怒鳴ると、アメリカは一瞬びくりとしたが、それでも手を離さなかった。
その温もりが、逆に俺を追い詰めていく。
ソ連「……気持ち悪い」
自分でも、何を言っているのか分からなかった。
アメリカは苦しそうに目を伏せ、それでも俺の手を離さなかった。
その夜、俺はまた眠れなかった。
右目の疼きと、心の空洞だけが残っていた。
ロシアから聞かされたとき、最初は耳を疑った。
「親父が自分で眼を抉ろうとしてた」――そんな話、信じたくなかった。
アメリカ「……嘘だろ」
ロシア「嘘ならよかったんだけどな」
ロシアの顔は真剣で、ベラルーシも不安そうに下を向いていた。
心臓が嫌な音を立てる。
俺はすぐにソ連の部屋へ向かった。
ドアの前に立ったとき、いつもより重く感じた。
ノックする指が震えていた。
アメリカ「ソ連」
ソ連「……なんだ」
低く、かすれた声。
開いた扉の向こうに立つ彼は、かつての威圧的な姿とは別人のように見えた。顔色は悪く、包帯からは新しい血が滲んでいた。
胸が締めつけられる。
俺は何も言えず、ただ彼を見つめることしかできなかった。
アメリカ「……昨日のこと、聞いた。お前、自分を傷つけたって」
ソ連「誰に聞いた」
アメリカ「ロシア。……なぁ、もうやめてくれよ」
声が震えていた。情けない。
俺らしい強がりなんて出てこない。ただ必死だった。
ソ連「……お前に何が分かる」
アメリカ「分かんねぇよ。でも……俺はお前に死んでほしくない」
それが本心だった。
分からなくても、理解できなくても、俺はただソ連に生きていてほしかった。
ソ連は黙って俺を見下ろした。
その目は空っぽで、でもどこか泣き出しそうにも見えた。
ソ連「……ナチスが好きなのは知ってる。俺じゃダメなのも分かってる。けど、それでも……お前が壊れてくのを見てるのが辛いんだ」
そう言う俺に、ソ連は小さく笑った。
笑ったのに、目には涙が溜まっていた。
ソ連「……なんでだよ」
アメリカ「……好きだからだろ」
自分の声が震えるのが分かった。
言いたくなかった。言えば拒まれるに決まってる。
それでも、もう隠せなかった。
ソ連「……俺はもう、壊れてんだよ」
アメリカ「そんなこと言うな」
ソ連「ナチスを忘れられねぇ。目を奪われても、殺されかけても……それでも、まだ好きなんだよ。そんな俺が……誰を愛せるんだよ」
胸を抉られるような言葉だった。
俺じゃ駄目なんだと突きつけられて、それでも諦めきれない自分が情けなかった。
それでも、俺は彼の手を掴んだ。
震えていても、冷たくても、その手を放すわけにはいかなかった。
ソ連「……放してくれ」
アメリカ「嫌だ」
ソ連「放せって言ってんだ!!」
怒鳴られた。
その声に一瞬怯んだけど、手を離すことはしなかった。
ここで放したら、本当に彼が消えてしまう気がしたから。
ソ連「……気持ち悪い」
その一言は、刃みたいに胸に突き刺さった。
呼吸が止まるほどに痛かった。
でも、それでも――彼の手を握る力を緩めなかった。
どんなに拒まれても、憎まれても、俺は諦めるつもりはなかった。
アメリカ「……勝手に言ってろ。俺は放さねぇ」
そう言ったとき、ソ連は俺を見なかった。
ただ、遠くを見て、泣いていた。
――その夜、俺は眠れなかった。
頭の中で何度も彼の声が響く。
『俺はもう壊れてんだよ』
『ナチスを忘れられねぇ』
『気持ち悪い』
苦しくて、胸が張り裂けそうだった。
けど、それでも手の中に残るあの冷たい感触を、忘れることはできなかった。
アメリカ「……なぁ、ソ連」
俺は天井を見上げながら呟く。
アメリカ「お前がナチスを忘れられなくてもいい。俺のことを気持ち悪いと思ってもいい。……でも、それでも俺は、お前を諦めねぇ」
届かないと分かっていても、そう誓わずにはいられなかった。
ソ連が壊れていくのを止められるのは――俺しかいないと信じたかったから。