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第4話 悪魔と天使
「よくのうのうと顔を出せましたね、シュタイン!!」先程の彼女からは想像できないほどに荒らげた声付きだ。人が変わったように
「私は別にあなた達と戦闘をしに来た訳ではありませんよ。」
シュタインと呼ばれたその女性は言葉を返す。
「シュタインって…」イエンは肩を震わせた、先程の高揚だった彼とは違い、恐怖に満ちた顔で。
だがイエンが震えるのも仕方がないこと、シュタインとは悪魔の中でも上級、普段出現する悪魔よりも遥かに強い悪魔のことを指す。
俺が本で見た事だが約二千年前、一度人間はシュタインによって滅ぼされたという記録が残っている。街は幾つも破壊され人間の死骸で溢れかえっていたと。そして今でも時折この世界に降り立ち、人々を食い漁っているという。
「私はてっきりそこの人間は今の悪魔に殺されると思っていたけど、そう簡単ではないようですね」そんなシュタインの視線はこちらに向いた。瞳は真っ黒く光なんて一切遮断しているような不安になる色。そんな瞳で小さく笑いかけるように目を細める、俺は緊張から背中には冷や汗が伝う、どうもこの空気には耐えられそうにない。
「今日は特別なにかしようって訳じゃないんですからそんな軽蔑したような目で見ないでもらいたいですね」
「ただ貴方たちの様子が気になっただけなんですから」と踝まで伸びたスカートを片方手に取り、ふわりと上げれば軽く会釈を行う
「では私はこれで失礼します。後継者を育てていると、私たちにとって有力な情報を得られましたので」俺たちの視界は一瞬真黒い闇で覆われた、一度瞬きを行えばその女性の姿は既に消えていた。
そしてこの空間の時が先程まで止まっていたかと思わせるように騎士達がこちらに歩を進める。
「ラジュリア様、此方には何もありませんでした。ここにはもう何もいないかと」足を揃え、姿勢よくその場に立つ、ラジュリア本人は正面を見つめたままただ呆然と立ち尽くしていた。
「ラジュリア様?」騎士が再び声をかける、するとラジュリアは視線を送り怒ったように眉を顰めては「本当に何もいなかったと言えるの?」と返しては「騎士団長に報告よ」と言って騎士達の間を歩いて出口へと向かう。騎士達は状況を呑み込めておらず互いの顔を見合わせていたが、ラジュリアの後をついて行く。
︎✧︎✧︎✧
「ただいま戻りました」ロビーにヒールの足音が響き渡る。正面にある扉を開けばそこにはロングテーブルが置いてあり、上座に座るは机の上に足を乗せ頭の後ろで手を組んでいるグランシェオラ、シュタインの長だ。
「相変わらず態度がでかいですね」と足を進めれば上座のすぐ近くにある左側の席に着く。
「帰ったかジュゴン、どうだ?なにか餌の間で変わったことは」
「貴方に教えた所でとは思いますが良いでしょう。」
「人間世界では後継者の育成が発達しているようです。大きな学校の中で皆が鍛錬に勤しんでいましたよ。」
その言葉を聞いてガシャンと大きな音を立てながらフォークやナイフを皿に打ち付ける、その正体はタムチャ・ワウだ。「えー?割と今更じゃない?今から力付けたとして人間が悪魔に叶うわけないのに」と食事最中に行儀悪く笑いながら椅子を後ろに逸らす
「同感です。」それにジュゴンと呼ばれた彼女は一言返事を返して、横にワインが入ったグラスの乗ったトレーを持って現れた奴隷からグラスを受け取る。
「ふふ、確かにその通りだね。」銀髪の男性がにこりと笑いかける。その笑顔はまるで包み込んでくれるような天使のような笑顔だが、瞳を開けば片目は真っ黒く染まり、悪魔となっている
「それを言うならあんたももう神様に魂は捧げなくていいわけ?」ケラケラと笑うタムチャ
「あぁ、いいよ、あんな奴隷みたいな生活はもうクソ喰らえだからね」タムチャは軽く笑えば手掴みで魂を喰らう
「天使様でも神に仕えるのが嫌になることがあるんだなぁ?デリットさんよ」デリットはワインを一口くちにして、グラスの中を見つめる
「いいや、僕は例外だと思うよ、周りのみんなは取り憑かれたように神を信仰している。それこそ奴隷みたいに神のためならなんでもやる、みたいな勢いでね」とグラスを置き、席を立ち上がる。縦長の大きな扉に手をかければ後ろを振り返り
「じゃ、ジュゴンは地上に出たみたいだし、僕も行ってくるよ」と微笑み返して、扉を開く、その時グランシェオラは「待て」と止めてこちらを振り返ったデリットに指を指す
「お前は天界に行ってこい」何を言うかと思えばニコリと不敵に笑いながらそう告げる。デリットは「は?」と言わんばかりに穏やかな顔から表情を歪め、掴んだドアノブがバキッと音を立ててひび割れる。
タウチャはグランシェオラに乗って「いいねーそれ!流石グランだ」と机に身を乗り出して言えば興奮げに笑い、デリットを見返す。普段笑わないであろうジュゴンですら薄ら笑いを浮かべているほどだ
「いいか?俺はな貴様を悪魔の立場に歓迎して友好的な関係を築きたい訳じゃない、勘違いするなよ」デリットはドアノブから手を離せば後ろを振り返り机に向かって歩を進める、手を机に置けば引きつったような笑みで
「そんなことはわかってるよ、だからと言ってわざわざ天界に僕を送る必要があるか?」グランシェオラは机から足をおろし、腕を机に着く。「それだけじゃない、お前がここに来たからには俺はお前を良い様に使わせてもらう。と、お前がここに初めて来た時にも言ったはずだ」
「だから天界に1番乗り込みやすい奴と考えた時、お前が一番に上がったんだよ元天使様、だから行ってこい」グランシェオラがパチンと1度指を鳴らせば扉が開く。
「まぁそうなるでしょうね。貴方が行っても『戻ってきた』と一言いえばどんな情報でも手に入りそうですし」ジュゴンがそう言えばぺこりと軽く会釈を行う、その仕草は頑張ってくださいと皮肉を言われてるようにも感じる。
「…あぁ、分かったよ、行けばいいんだよね、行けば」と扉に向かって歩き暗闇の中へと姿を消す。
「いい情報を期待してるよ、堕天使」と、部屋の扉は閉ざされる。
︎✧︎✧︎✧
「アルカンジュ、ウィング様」白く輝かしい服を纏い、水色の美しい髪を靡かせるはウィングと呼ばれた上級天使、第三階級ウィング・セイラン
「どうかしましたか、中級天使よ」後ろを振り返り飛んできた彼の正面まで足を進める。
「ヘルック様がお呼びでした、現在幸運の湖を眺めておられます」手を胸の前で組み軽く会釈を行う
「ふむ、その情報感謝しますよ、では代わりと言ってはなんですがこちらの魂を我々の神に捧げに言ってもらいたいです」と一つ、人間の魂をその中級天使に差し出す、中級天使は嬉しそうに頬を染めれば
「いいのですか!!」と元気よくウィングを見つめては羽を羽ばたかせ
「えぇ、構いませんよ、これはお礼です」と優しげに笑みを返す。神に会えるのが嬉しいのか、中級天使は飛んで喜び部屋を後にするだろう。その様子を見届け、ウィングも部屋を留守にする…
「ヘリック」ウィングはアルカンジュ第五階級、ヘリック・サンラーナの元へと向かい、背後から呼びかけた。
「ウィング…」ヘリックは悲しげな声付きで呟けば後ろを振り返り、ウィングの元へ飛んで向かうだろう。そしてウィングをギュッと抱きしめ涙を見せる
「また思い出していたんですか?」ヘリックの頭をそっと撫でながら呟く。その様子は本当にただ優しい天使のようだった
「はい、デリットのことをまた思い出してしまって…」ウィングは撫でる手を止め、ヘリックの両頬に手を添える。そして微笑んで見せれば
「大丈夫、デリットは悪魔に唆されただけです。あの人ならこちらに戻ってくると思いますよ、あの人も見た目も中身も、生まれてから死ぬまで一生天使なんですから」その言葉はデリットが堕天したことを認めず、彼は始まりから終わりまで天使であり、悪魔にはなれる訳が無い…と今の存在を否定する言葉に聞こえる。
ヘリックは小さく笑い「そうですね!」と答えてはウィングから体を離すだろう。
「ありがとうございますウィング」と一言返して元気を取り戻したように笑う。その時
「ヘリック様!!…っと、ウィング様もいらっしゃいましたか」そこには中級天使が急いでこちらに向かっているのが見える。
「どうしましたか」その様子にウィングは真剣な眼差しへと変わり
「デリット様が…デリット様がお戻りになられました!!」と、その言葉を聞いて二人は驚いたようにお互いの顔を見合う。そうすればヘリックは嬉しそうに羽を羽ばたかせ、ウィングはその様子に不満そうにしてみせる。そして二人は飛んで門の前に立ち尽くすだろう。「開けましょう!開けましょうウィング!」とドアノブに手をかける
「…そうだね」そしてウィングとヘリックの二人でドアノブを捻り、扉を開いた