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「……いらねーよ。そんなの、自分でできる」
遥は差し出された冷却シートを奪い取るように受け取ると、またソファに深く沈み込んだ。その不機嫌な背中を見て、私はオロオロしながら声をかける。
「でも、遥。ちゃんと冷やさないと、明日もっと腫れちゃうよ?」
私の言葉に、遥の肩がピクリと跳ねた。けれど、彼が口を開く前に、凌先輩が私の肩にそっと手を置く。
「紗南ちゃん、今日はもう遅いから。送っていくよ」
「えっ、でも……」
「いいから。あいつの扱いは俺が一番分かってる。な、遥?」
凌先輩のその言葉には、兄としての余裕以上に、私を遥から遠ざけたいという明確な意志が透けて見えた。
「……兄貴。お前、なんか今日、鼻につくんだけど」
遥が低い声で呟く。視線はテレビに向けられたままだが、その手は冷却シートの袋をくしゃりと握りしめていた。
「そうかな。……俺、やっと目が覚めたんだよ。これからは、欲しいものを欲しいって、ちゃんと言うことに決めたんだ」
兄弟の間に、バチバチと火花が散る。その空気が私を巡るものだとは気づかないまま、私は二人の迫力に圧倒されていた。
「……送ってくる。遥、暴れるなよ」
凌先輩はそう言い残し、私を促して再び玄関へと向かった。
一人残された遥は、玄関のドアが閉まる音を聞くと、力なくソファに頭を預けた。
「……あんな顔、今まで一度もしなかったクセに……クソッ!」