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Hの告別式は一週間後におこなわれた。
表向きは脳梗塞、ということになっているらしい。どうやればそう偽装できるのか、僕には見当もつかない。
わかるのは、世の中には逆らってはいけない人間が存在しているということだ。
流石に生前人望があっただけのことはある、告別式には多くの人間がやってきた。
だがこの中で本当に彼の死を惜しんでいる人間は、何人いるのだろうか。
少なくとも2人は違うな。僕と、もう1人。
喪主のKがあいさつ回りをしている最中、僕の隣にその「もう1人」がやってきた。
「Y君、調子はどうだい」
「上々、と言ったところですね。これであの事務所は僕のものだ」
「そりゃよかった」
「あなたのおかげですよ」
「礼には及ばないさ。我々には利害関係の一致があった、それだけなんだからな」
僕はこたえず、曖昧に笑みを浮かべる。
「怖い笑顔だな。今度は私を潰す算段でも立てているのかい」
「まさか。身の程はわきまえてますよ」
「賢明な判断だ。……なかなかうまいもんだろう?」
式場を見渡し、男は軽い調子で言う。手際よく一仕事終えたビジネスマンの顔。
「今まで何人、こうやってきたんです?」
「そんなものをいちいち数える必要があるかい? 私は合理主義者だ。数えるのは金だけだよ」
「なるほどね」
「Y君、君の頼みは叶えてやったんだ。くれぐれも例の件の口外は――」
「わかってますよ、会長」
僕は男の言葉をさえぎってこたえる。
「僕だってあなたの「仕事」の対象になるのはごめんですからね。それに僕は欲深い方じゃない。事務所さえ手に入れば十分だ」
「安心したよ」
僕らは軽く笑った。遠くのKがちらりとこちらへ目をやるのが見えたが、特に気にもとめなかった。
あいつはもう用済みだ。