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妖精界から無事に帰ってきたキーに、日菜たちは妖精界がどんな様子だったか聞いていた。
「もう材料を見つけるのが大変で、どこもかしこも焼野原だった……」
キーは俯きながら妖精界の現状を話す。
「妖精たちは城の地下にいるか、あのカメたちのアジトに連れていかれたかの二つだと思う」
あまりに深刻な状況を聞いた日菜たちは、焦りを露わにした。
「トトが起きたばかりだけど、のんびりしている暇はないみたいだね……」
「ああ、寝てる場合じゃない。すぐ動けるように準備をしておかないとな」
「でもさ、兄ちゃんはまだ復活したって言っても、魔力は完全回復していないんだよ。だから、万全に戦える状況じゃないよ……」
人間界にいる、日菜、トト、ララ、心乃葉、妖精動物たちを合わせても、戦力は相手よりかなり劣ってしまう。ただのカメならまだしも、カメの女王、ザーラが同時に攻めてくるとなると、余計に勝率は下がる。
「他に、人間界に身を潜めてる妖精っていないの?」
日菜の質問に、ララは静かに首を振った。
「人間界に適応するって実は結構難しいんだよ。僕たちも最初はずっと人間界に留まれるほどの力はなかったし、特に用事がなければ人間界に来ることは珍しいからね」
妖精界、魔界、動物界、そして人間界。それぞれを繋ぐゲートは本来繋がることはなかった。しかし、次元の動きによって歪みなどが生じ、そこに亀裂が生まれ、修復不可になったものが今のゲートなのだ。つまりは異世界というものが無理やり繋がってしまっただけのこと。順応できるかは、その者に委ねられる。
「元が人間で、後から妖精になってしまった日菜ちゃんとコノハは別だけどな」
トトがちゃっかり付け足す。
「とりあえず俺は動物界に帰るよ。また何かあったら呼んでくれ」
全ての事情を話し終えたキーは、転移魔法陣で動物界へと帰っていった。
「さあ、どうするか」
トトは頭を悩ませる。そして、ララが一つの提案をした。
「パトラを呼んでみない? 意見を聞けば少しだけでも何かできることがあるかも」
「そう簡単に言うなよ。お前がキーを呼び出した時の魔力消費量を覚えてないのか? 今の俺の魔力量で呼び出せるかどうか、ギリギリなんだが」
「それは前やったみたいに……」
「前にやった……? おい、どういうことだ。そもそもお前が妖精動物と契約してたことも驚きだし、まずは俺に全部説明しろ」
双子の間で、妖精動物の情報を共有していないわけがない。もちろん、トトはララが妖精動物と契約したことがないことを知っていた。ララが知っている情報は基本、トトも知っているということだ。
「わ、分かったよ。今から説明する……」
ララは少しずつ、トトが眠っていた時のことを話した。
「なるほど、俺にお前の魔力を流して召喚魔法陣を出現させたと。ただ、俺の意志なくパトラを召喚することが出来なかったから、動物界まで妖精動物と契約しに行ったってわけか」
「その通りだよ」
「本当は私も契約するつもりだったんだけど、時間がなかったから……」
トトはどうやら納得したみたいだ。
「よし、じゃあお前の魔力を借りる。それでパトラを召喚しよう」
「ありがとう」
双子は手を繋ぎ、トトが呪文を唱える。魔法陣が現れ、パトラが魔法陣の上に召喚された。
「トト様、目を覚まされたのですね」
「ああ、迷惑かけたようだな」
「トト様が無事で何よりです。ララ様、日菜様、わが主を助けていただき、ありがとうございました」
ララは少し照れた様子で「当たり前だよ」と答えた。
「パトラも元気そうだね。キーの妹ちゃんたちは元気?」
「日菜様、先ほどキー様が戻られまして、兄妹で交流を楽しまれておりました。仕事の覚えも早く、我たちはとても助かっていますよ」
キーの家族は貧乏生活から無事に抜け出せたようだ。働くということを覚えた狐たちは楽しく慎ましく生きている。
「真面目な狐ってのもどういうもんかね」
「兄ちゃん、そんなこと言ったらキーたちに失礼じゃないか」
ララはトトをじっと見つめる。
「い、いや、別に悪気があるわけじゃないって……」
「トト様、キー様たちは根は真面目なのですよ。狐の印象というのは、ほとんどがご先祖様の行いが元だと言われていますからね」
パトラが博識なフォローを入れる。
「それで、我を呼び出したということは、何か用事があるのでしょう?」
「キーから妖精界の状況を聞いたんだ。そしたらかなり厳しいことになっているみたいで、パトラにも協力してほしいんだ」
ララはパトラに妖精界の現状について説明した。
「我が力になれることなら何でもして差し上げましょう。具体的に、何をすればよろしいですか?」
「そうだな、俺が今魔力不足だから、お前を呼び出せるのには限界がある。多分、次に呼び出すときは戦争だと思ったほうがいい」
妖精動物はあまり戦闘はしない。だが、パトラは少し特殊である。
「我も戦いに参加すると、そういうことなのですね」
「お前単体でも十分、雑魚カメなら普通に倒せるはずだ」
パトラは炎を司るドラゴン、その末裔だ。もちろん魔法についても、妖精と同じほどに魔力を持っている。
「でも、そんなに強いパトラは、どうして兄ちゃんと契約したの?」
「そうだよ、トトと契約しなくても一匹で自分の身を守れるでしょ?」
「そうですね、我とトト様は特別な出会い方でしたので、また機会がありましたらお話ししましょう」
トトも無言で首を縦に振っている。
「兄ちゃん、もしかしてパトラを脅してるとかじゃないよね?」
「バカ、脅して契約できるならみんなやってるだろ。いいから今は人間界をどう守るかが最優先だ!」
パトラとトトの出会いは、また別の機会に移された。
「カメたちは人間界までも征服して、一体何がしたいんだろう」
「日菜ちゃん、それは僕たちが考えても分からないよ」
「うーん、そうだな。カメの楽園でも作るんじゃないのか?」
トトの冗談も、今では冗談にならない。
「そんな簡単に言ってもらっちゃ困るよ! 妖精界から来たカメなんて、人間からしたら意味不明だよ!」
日菜は頭を抱え、これからあり得るであろう出来事を頭の中で巡らせる。
「もしカメだけの世界になっちゃったら、美味しいものもなくなって、友達もみんなカメになっちゃって、食料はカメの餌ばっかりになっちゃうんだ!」
「ひ、日菜様、落ち着きましょう……」
悪いことばかり考える日菜を、パトラが落ち着かせようとする。
「日菜ちゃんは相変わらず食べることばかりだね」
「そりゃあ、日菜ちゃんは食べてないと日菜ちゃんじゃないだろ?」
双子からすれば、日菜の印象は『食べることが好き』というものだ。育ち盛りの子供にはぴったりと言える。
「もうカメ嫌だあ」
「そんなこと言ったって、どうしようもないよ」
「どうにかカメたちの狙いを突き止めないとな」
こうして日菜たちは身を案じながら、一日を過ごしていった。
日付が変わり、人間界に異変がないか少し警戒しながら、日菜、双子、パトラは散歩していた。
「こうやって歩いていると、人間界は平和だよな」
「人間たちは何も知らないからね、当たり前だよ」
双子の会話は人間たちには聞こえない。
「トト様、ララ様、油断してはいけませんよ」
パトラの声も、もちろん姿も人間には見えていない。ここにいる、日菜以外には。
「外ではあまり大きな声でおしゃべりできないのが大変……」
日菜の苦労も絶えない。そんな平和を崩す、聞き覚えのある声が聞こえる。
「ミオボエアルヤツラ」
日菜たちの前に、当然のように現れるカメ。そのカメの姿も、日菜以外の人間には見えていないようだ。
「あーあ、噂をすればなんとやらってやつだな」
「兄ちゃん、そんな呑気な事言ってる場合じゃないんだけど」
覚悟を決めて戦闘態勢に入る双子。
「どうやら隠しの魔法を付与されているみたいですね。しかし、この怪物からは魔力が感じられません」
パトラの分析が正しければ、カメはどうやって姿を隠す魔法を付与しているのか。
「簡単な話だ。こいつの親玉、ザーラが雑魚どもに魔法を付与してるんだろうよ」
「僕たちは戦ったことがあるけど、そこまでしてくるなんてね。ここで派手に戦ったりなんかしたら、騒ぎになっちゃうよ」
妖精を見たことがない人間には、故意に見せない限り姿が見えることはない。しかし、カメは魔法が解ければ姿が見えてしまう。それに、姿は消えても魔法の当たり判定を消すことは出来ないため、激しい戦闘になれば人間に危害が加わるのは時間の問題だ。
「皆様、転移魔法で人気のない場所に移動します。いきますよ」
パトラの合図で周りの景色ががらりと変わり、カメと日菜たちは人間界のどこかにある広い空き地に移動した。
「ココハドコダ」
カメはあからさまに動揺している。
「別にたった一匹なんだから、俺一人ですぐに終わらせたのによ。パトラは大袈裟なんだよ」
「万が一があるかもしれないでしょ、兄ちゃん」
トトは余裕そうだが、ララは警戒を解かない。
「俺がやる。ララは日菜ちゃんを守れ」
「分かった」
「パトラには少々大変な仕事だが、さっきの街に戻って隠れているカメ野郎共をできるだけ見つけ出して、全員ここに転移させるんだ」
「承知いたしました」
人間界の状況が、もう既に良くない方向に進んでいることを察したトトは、一時的大規模作戦を決行する。
「さあ、掃除の時間だ」
トトの指示により転移したパトラ。次々とカメたちを見つけ出していく。
「もうこんなに潜伏していたとは。トト様が倒れ、事情を把握していなかったとはいえ、かなり油断していた我はとんだ愚か者ですね」
見つけたカメから瞬時に転移させ、日菜たちの元へと送る。
「オマエダレダ」
「ニンゲンカイニモドラゴンガ」
「ドッカイケ」
騒ぐカメたちを気にすることもなく、容赦なく転移魔法をかけていくが、絶え間なく飛行し続けているのと、同時に魔力を消費し続けているせいで、徐々に転移の座標が定まらなくなっていく。
「もしかしたら、少し違う場所に送っているかもしれませんね」
魔力が不足し始め、目がかすむ中飛行するパトラに、ついに限界が来た。
「トト……様……申し訳……ありません……」
妖精動物は魔力を限界まで使い切ると、自動的に動物界の元居た位置に強制的に戻されるようになっている。
「我は……戻り……ます……」
動物界への転移魔法陣が展開し、パトラは力尽きた。
パトラの奮闘により、日菜たちの元へ大量のカメが送り込まれていた。
「兄ちゃん、次々来るよ!」
「さすがに数が増えてきたな。しかも、パトラが限界を迎えたみたいだな」
トトの左手の甲にパトラの転移魔法陣の紋章が浮かび上がった。契約した妖精動物が元の場所に戻った際の合図である。
「なんだか、変な感じがする」
「日菜ちゃん?」
突如不思議な感覚に襲われた日菜。心配するララをよそに、日菜の瞳は水色に光っていた。
「戦わないと、いけない気がするの」
「何言ってるの日菜ちゃん。それに瞳の色が、変わった?」
ララが周りに防御魔法を張っているが、それにもカメたちの攻撃で限界が来ていた。そんな中、日菜は身体に冷気を纏い始めていた。
「日菜ちゃん、その力、どこで……」
「わ、わからないよ! 抑えられないし、どうしよう!」
その瞬間、壊れそうだったバリアが激しく凍り付いた。と思いきや、一瞬で粉々にはじけた。バリアの中にいたララは何が起こったのか分からなかったが、隣を見ると、日菜は倒れていた。
「日菜ちゃん! どうしちゃったの!」
「ララ、何騒いでるんだよ」
数の暴力を抑えるのに精一杯なトトが、ララたちの異変に気付いた。
「兄ちゃん、日菜ちゃんが急に倒れちゃったんだ……!」
「ちっ、説明は後でしてもらうからな。とりあえずちまちま戦ってる場合じゃない、ちょいと無茶させてもらうぞ」
トトは魔法の準備をする。
「無茶って……魔力が十分じゃないのにダメだよ!」
「うるせえ、お前は転移の準備をしろ! 心配しなくたって、前みたいなことにはならねえよ。いいから、俺を信じろ」
ララはまだ何か言いたそうだったが、兄の言葉を信じ、おとなしく転移魔法の準備をする。
「日菜ちゃん、大丈夫だよ……」
「ララ! 準備はいいか?」
トトの言葉に、ララは大きな声で「いいよ!」と返した。
「いくぞ、大団炎!」
ララの転移魔法発動と同時に、トトが範囲魔法『大団炎』を発動した。トトの周りに炎の円が勢いよく広がり、しばらくして円の形を保ちながら徐々に収縮する。日菜とララの転移が完了する寸前、トトがそれにギリギリ滑り込み、三人とも元の町に転移するのだった。