テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
はじめての旅路、筋肉寝相と眠れぬ夜
王都を後にし、俺とリバは冒険者登録を目指して一路東の村へ――。
「意外に遠いな……地図だと三日かかるって書いてあるけど、これホントか?」
俺がボヤく横で、リバは鍛え上げられた脚で平然と歩きながら言う。
「マッシュ様、村まではこの山道を越える必要があるそうです。お怪我なさらぬよう、肩にでも――」
「いやいや!背中に乗るほど俺、軽くねーし!」 「それもそうですね……は、はい!」
道中の森は深く、時々モンスターにも出くわした。
リバが剣を軽々と振るうたび、敵はあっさり出汁になっていく。
「すごい破壊力……サバイバル慣れてんだな」
「ふふ、幼い頃から訓練の毎日でしたので!」
(……おかげで荷物持ちも全部任せっぱなしだな……)
やっとの思いで、夕暮れ時に小さな牧場のそばまでたどり着いた。
「今日はここまでにして、ここで野営するか」 「はい!あの、マッシュ様……私、実はキャンプちょっと憧れで……!」
二人で市場で買った安い毛布を広げ、「じゃあ、おやすみ」と言って眠りにつくのだが――。
深夜。
俺は何度も何度も寝返りを打った。 (……う……くっ、重い……!)
なんだか息苦しくて目を開けると、
筋肉ゴリゴリのリバが無自覚で寝返りを打ち、毛布と俺を上からむぎゅ~っと押しつぶしていた。
「ぐ、ぐばぁ……お、おも……ぃ……」
リバはスヤァと気持ちよさそうに寝ている。
筋肉が……岩のような太ももが……背中にダイレクトアタックしてくる。
(……だめだ、これじゃ一睡もできねぇ……)
何度引き剝がしても、寝相が戻ればすぐムチムチした腕や足が襲ってくる。最後は諦めて小さな声で呟いた。
「……今夜は無理だ……」
ようやく夜明け。
重たくてだるい体で、俺は毛布から這い出した。
リバは起きると、必死に顔を赤らめて謝ってくる。
「も、申し訳ございません!寝相が悪く……っ、マッシュ様、大丈夫でしたか!?」
「だ、大丈夫……死にはしなかったけど。次からは……もうちょい離れて寝よ?」
「は、はいっ!以後、全力で控えめに寝ます!!」
(“全力”で寝るってなんだよ……)
簡単な朝ごはんを食べて、また二人は歩き始めた。
「リバ、気にすんなよ。旅にはアクシデントがつきものだ」
「はい……でも、次は寝相矯正させてみせます!」
「もしまた俺につぶされたら、今度はちゃんと寝ていい?」
「い、いえ……やっぱり気をつけます……!」
そんなこんなで、
俺とリバのちょっと危険な旅の朝は始まったのだった――