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『なあ、郁己。お前、Ωなんだろ?』
『、え…?』
『その反応、やっぱりΩなんだな』
『やめっ、やだ…っ』
『うおっ、いい匂いっ』
『俺達は被害者じゃないぜ?お前が悪いんだよッ!!』
あいつらは**『Ωだから仕方がない』**そう言って俺を犯した…
ガバッと飛び起きるとそこはいつも通りの自分の部屋だった。
「っな、んだ、ゆめ…か、」
息が上ずって心臓がバクバクと音を立て、手はひんやりと血の気が引いたときのように冷たかった。
これまでにも何度も夢にでてきたことがあり、状況を理解する時間はそんなにかからなかったが、
気持ちはそれに追いついてこなかった。
(もう、あれ以来なにもないんだし、いい加減に忘れないといけないのに…)
2年以上たった今でも鮮明に思い出してしまうあの出来事は、
郁己のこころに深く消えない傷をつくり、トラウマとしてずっと彼の頭の中から離れない。
今日は平日。いつも通り学校に行こうと、ベッドから足を下ろし立とうとする。が、力が入らず立てない。
それでも郁己は、無理やり体を立たせて動かない足を引きずるようにして部屋を出ていく。
「だいじょうぶ、大丈夫…」
そう自分に言い聞かせながら制服に着替えると、鞄を持ち、靴を履いて、玄関の鍵を開ける。
そうして扉を押し開けると、ひんやりとした風がさぁと郁己の頬を撫で、
彼をふわりと外に誘い出してくれた。
日差しはぽかぽかと暖かくまだ肌寒い風がふわりと吹く道を歩くのは嫌なことを
少しの間だけ忘れさせてくれた。
(今日は時間もあるし、回り道してから駅に行こう。こんなにいい天気だし、なにもないといいけど…)
いつもは通らない並木道が近くにあるので、久しぶりに通ることにした。
並木の桜は青々とした葉が茂り始め、風が郁己に笑いかける度に木の葉はさわさわと
心地よい音を郁己の耳に届けてくれる。
(日焼け止め塗って来といてよかった、これからは毎日しないと流石にしんどくなりそうだな…)
なんてことを考えているうちに、駅についてしまった。
通勤ラッシュの時間帯でも吊り革が半分ほど空いているのは、番のいないΩからしたら
幾分も楽なものだった。
(抑制剤も飲んだし、フェロモンもでてないはず…。おねがいだから、何も起きないでいて…っ)
珍しく空いていた席に座り、そうこころから願っているうちに、次の駅では
なだれ込むように人が入ってくる。郁己の願いは無惨に砕け散るが、席に座れているだけマシだった。
ひどくなってくる抑制剤の副作用と電車が揺れるせいで頭が痛くなっていく。
(後、三駅)
(あと…二駅…)
(あと…ひとえき)
駅を出ると、止めていた息を吐き出すように深呼吸をする。一年以上経っても慣れない電車は、
郁己の体力をごっそりもっていく。そうして人混みから逃げるように学校へ向かった。
そんなに動いてないのに息切れしながら教室に着くと、自分の席、窓際の一番うしろの席に座る。
貧血の症状は薬を飲んでマシになってきたとはいえ、頭痛と紫外線のせいで目眩がして、吐き気は治りそうにない。
そんな状態がいつも通りの郁己はぐっと唇を噛み締め、何気ないように装う。
隣の席の蒼司が来ていないことに少し安堵したのもつかの間、当の本人が来てしまい、チャイムが鳴る。
(、いつまで、続くの、かな…)
キーンコーンカーンコーン
四時間目の終わりのチャイムが鳴り号令が済むと、郁己は吐き気のする体をどうにか起こして
お弁当と水筒を持って教室を出ていく。
休み時間になったばかりの廊下は弁当や財布を持った生徒たちで溢れていた。
ふらぁ、と目眩がしてふらついたせいで、どんっと人にぶつかってしまった。
「、ごめんなさい…っ」
視界がちらついて、相手の顔が見えない。血の気が引いて、宙に浮いている気がする。
お互いの肩がぶつかってしまっただけで倒れることもなく、郁己が謝ると相手も謝ってくれた。
「いや、こちらこそごめん」
そう言うと、相手は一緒に歩いていた男子と歩き出す。
郁己は壁に凭れ掛かり、視界がもとに戻って歩けるようになるまでそっと深く細く息をする。
「おい、蒼司。相手、大丈夫か…?」
「ん、あー…。いや、俺は…離れたほうが…」
「…え、?なんで??っいきなりどした?」
そんな2人のやり取りなど聞こえず、やっと血の気が戻ってきた郁己は相手に背を向け、目的の場所へ向かう。
だから、気付かなかったのだ。ぶつかった相手、蒼司が一瞬だけ何か考えるような仕草をしていたことに