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靴も履き替えずに着いたその場所は人気の少ない校舎裏だった。
日向ぼっこするにはちょうどいい日差しと、春特有の気持ちいい風が郁己の肩の力を抜いてくれた。
(うぁ、きもちわる…。でも、昼の分、飲まないと…)
先日もらった抑制剤は効果が強い分、副作用も出てきていた。
病院に行くたびに薬は強いものに変わって、副作用が強くなってゆく現状など変えられるはずもなく、
身体には負荷だけが日に日に大きくなりながらかかっていく。
『う〜ん、郁己くんはランクでつけるならS級超えてるからなぁ…。抑制剤もここまで来ると
これ以上強いのは出せないから、未成年は例外だけど番を作ったほうがいいかなぁ。
郁己くん、(番)候補とかっていたりする…?』
『、いません…』
先生は、郁己の過去に何があったのか知っているため、そんなに言及はしてこない。
『急ぐ必要はないんだけど、だいぶ溜まってきてない?ヒートのストレスも並大抵じゃないわけだし。
郁己くんと同じぐらいのランクの子(α)なんてそうそういないもんなぁ。
…ん、?郁己くん、αと接触したりした?』
モニターを見た先生が、珍しそうにこちらに目を向ける。
『ぇっと、隣の席の男子がαだと思います。本人に聞いてはないんですけど…。』
思い出したように語る郁己から目を離し、前回と今回の検査結果を並べてあるモニター画面を
見る先生に恐る恐る尋ねる。
『何か、変化があったんですか…?』
『あるのはあるんだけど良い方にも悪い方にも転ぶ可能性があるから、今はなにも言えないかな』
『そう、ですか。〜ーー〜ーー=〜〜ーー』
『〜〜===ーー〜==〜〜〜〜ーーー==』
そんなことを思い出しながら抑制剤を2錠と貧血の薬を2錠、口の中に入れ、水で押し流す。
「抑制剤…?」
誰かの声が聞こえて、ふひゅぅっと息がおかしくなり喉から変な音がする。
バッと斜め後ろに振り返ると、何年生かわからないが男子生徒と目があった。
「…ぁ、!」
さぁぁぁっと血の気が引いていき、身体が金縛りにあったときのように動かない。
「あ、もしかしてお前、Ω?ラッキー、今日ツイてんじゃん」
どうしよう、と最悪の事態が郁己の頭の中によぎる。
ドッと音がしたと思ったら、ずんッと鈍い痛みが郁己を襲う。
痛みでおかしくなりそうな頭が地面に叩きつけられたと認識するのに不思議と時間はかからなかった。
(、ぁ…また、なの…か……)
「、お前が悪いんだぜ!お前がフェロモン撒き散らしてるからッ」
ひゅー、ひゅー、と息が浅く早くなって、視界がばやける。頭がガンガン痛い。
心臓がどくどくとうるさい。
気持ち悪い手が、首元のボタンに触れようとしたその瞬間
ドッ
一瞬にしてその手を伸ばしてきた人が消えた。
「っえ?」
「ぅ、っく…」
少し離れた場所に彼はいた。蒼司が襟首を掴んで投げ上げたのだ。
「、あっぶねぇな…。お前、薬は?」
「っあ…。、いまっ、のんだ…」
ふー、と息を吐き、郁己に手を差し伸べる蒼司。その手を取らずに起き上がろうとした途端、
ズキンと後頭部に痛みが走る。
「っぅい、ったぁ…」
「打ったのか…?」
「っあぁ…」
(今、『薬』って…、俺、Ωってバレて、る…)
ぴしっと郁己の身体が固まる。さぁぁっと血の気が引いて声が出ない。
「、あ…」
「え、?」
何かをこらえているような蒼司の表情に何があったのか分からず戸惑う郁己。
動かない蒼司のこめかみから汗がつぅっと流れてぽたり、と地面に落ちる。
(汗、?今日はそんなに熱くないはずだけど、走ってきたのか…?)
一方、蒼司は郁己の湧き上がったフェロモンに誘われて、理性で抑えるのに必死だった。
βでも誘惑できるといわれたそれは、αの理性なんて奪うのは容易くて。
でも、蒼司は郁己に近づくことはしなかった。
蒼司は固まったままで動こうとしない。
ぽたぽたと汗が地面に落ちて、手のひらは爪が食い込んで白くなり、頬には赤みがさしていく。
(え、?俺、なんかっした…?)
「…っ、く…、っぁ、」
「っえ、?…大丈、夫…?、」
痛む頭を押さえながら立ちあがると、彼は郁己を拒むように後ろに後退りする。
(え、?俺、拒まれた…?…ま、とうぜん、だよな…。Ωって、しったら…ぃや、だよな…)
蒼司がぐっと腕を口に当てる。まるで、くさいものを嗅ぎたくないかのように。
どすり、と郁己のこころに突き刺さる痛烈な痛みを、虚無感に似た絶望と共に覚えた。
郁己は壁に押し付けられていた。
周りからは死角になっている小さなピロティは、αやβがΩを襲うには十分な場所…。
あの時と一緒だ。
「いやっ…!ゃだ…っ、はなっ、して、!」
どこか焦点が合わない彼は何かに取り憑かれているようで。
いきなり暴れ出した郁己の身体からはぶわり、と彼の気持ちとは裏腹にフェロモンは溢れてくる。
風通しが良くないからか、その空間には濃くて濃くてあまりにも甘いフェロモンが満ちる。
ぽた、と蒼司の口から唾液が落ちて彼の服にしみを作った。
(だめ、だ…。おそわ、ない…ようにっ、はなれ、ない、っと)
途切れ途切れの思考でどうにか本能を押さえつけようとする蒼司の理性は、刻々と削れていく。
郁己の顔の横には彼の手が血が止まりそうなぐらいの力で縫い付けられ、どうもがいたって逃げられない。
(やだ、やめて…っ。また、おなじ…ことに、なるのはっ、やだ…!!)
ひゅー、ひゅっと郁己の息が浅く細くなっていく。
(やめ、て…!っや、だ…っ!)
「はなっ、して…ぇっ…!やだ、やだ…!」
バタバタと足で蒼司を蹴ろうとしても焦点が合わず、かすりもしない。
左右に押さえつけられている郁己の手は血が通らず真っ白で、過呼吸になってゆく。
でも、そんな郁己の様子なんて蒼司はみえていない。
首輪も何もつけていない郁己のうなじに蒼司の顔が近づいて…