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#SnowMan
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黒い空間にいたと思ったら、急に明かりが見えた事で阿部は目を瞑った。やっと目が開けられて、見えたのは無機質な白く巨大な空間。
三階分くらいはある高い天井。その三階部分に当たるところにはガラスがはめ込まれているが、窓というわけではなく、奥に見えるのは通路。あそこから見下ろせるようになっているのだろう。何かを研究し、実験するために造られた場所。そんな印象を受ける。
ゴムに拘束されたまま、床にどさりと下ろされた。そして、ファントムと名乗った男が阿部の前に立つ。
「手荒な真似をしてすみませんね。こうでもしないと、あなたは来てくれませんから」
💚「当然でしょ。俺があなたと来る理由、あります?」
「なるほど。聞いていた通りですね。異能は効かない、自由もない、敵の真っ只中にいるというのに、まだ強気でいられる。これは手を焼く筈です」
💚「……ずいぶん、俺のことを知っているような口ぶりで話すんですね。それに、まるであなた一人じゃないみたいだ」
「その通りですよ。今、用があるのはワタシではありません」
眉を顰める。
では一体、誰が自分を攫ったのだろうか。
カツ、カツ、と足音が響く。ファントムの奥から歩いて来る一人の男。40代くらいの眼鏡をかけた無表情の男は、淡いグレーのシャツに黒パンツと黒の革靴を履き、前を開けて白衣を着ている。
研究者というのが一目でわかる容貌をしていた。見た目の清潔感と、こちらを見下ろす無機質な目に、どこかちぐはぐな印象を抱く。
白衣の胸ポケットには、《柊-ひいらぎ-》と一文字だけ刻印されたバッジがついていた。
「……なるほど。こちらが阿部亮平さんですか」
💚「……なんでしょうか、柊さん」
「ほう、興味深い。この数秒で名前まで辿り着くのですね。よく観察している」
💚「褒めてます?」
「ええ。称賛はその場で必ずする、と決めていますから」
感情が見えない。
やっていることと言っていることが矛盾しているような、何かがズレてしまっているような、決定的に何かが足りていない気がした。
「では、準備ができるまで待っていてくださいね」
言いながら近づいてきた柊が、白衣の右ポケットから取り出したのは、液体の入った注射器。慌てて身をよじるも、柊に膝で二の腕を抑えつけられたことで全く動けない。
チクリと首元に痛みがあり、ゆっくりと液体が体の中に入っていく感覚があった。その感覚にゾワリとしながら、段々と阿部の意識が遠のいていった。
深澤に連れてきてもらった公園の並木道で、ラウールはルーペで辺りを見ている。
🖤「ここで阿部ちゃんが……」
💜「そ。結局、倒れてた人はその後見てないから、多分、あれもゴムでできてたんだと思う」
説明しながらも、深澤の拳には力が入っている。
いつもの深澤のようで違うような様子には、目黒もラウールも当然のことながら気付いている。それでも、口にはしない。自分で必死に抑え込もうとしているのを、口に出すほど野暮ではないから。
🤍「異能の痕跡はかなり強く残ってるね。この人、かなりの手練れだよ」
💜「そんなとこまで分かるの?」
🤍「あんまり説明することないから言っておくと、異能の痕跡って年輪みたいなものなんだよ」
💜「年輪って、木?」
🤍「そう。年を重ねるごとに、年輪って増えていくでしょ? それと同じ。痕跡の強さっていうのは、密度の高さっていうことね。弱ければ、痕跡はスッカスカ。強ければぎゅっとしてるって感じ」
🖤「……ほう?」
🤍「めめ、無理に理解しなくてもいいよ。聞かれたから答えただけで、別に知らなくても問題はないからねー。密度が異能の強さ、濃淡が時間経過っていうのだけ分かってればいいし。で、話を戻すけど、この異能、かなり厄介だよ」
💜「厄介?」
🤍「そう。確かに痕跡は残ってる。でもそこに、魔術式も組み込まれてる」
ラウールの言葉に、目黒も深澤も顔を見合わせてしまった。最早、疑問を声に出すことすら出来ない。
🤍「うーん。専門的な話は置いとくよ。これ以上は二人のキャパオーバーになりそうだし。異能の痕跡に重なるように魔術式が入ってるから、読み取りづらいの。完全に重なって見えるから、これを解読して辿るのは無理だね」
🖤「……ラウールが無理って言うの、初めて聞いた気がする」
🤍「そりゃ、僕にだって出来ないことはあるよ。言ったでしょ、僕は構造とかを全部把握しないとクリエイトできないの。分からないものには対応できないんだよ」
💜「つまり、ここから先に進むのは難しい」
🤍「そ。魔法陣を解析して追えた、美上の時とは違うね」
あの時は、宮舘が魔法陣を冷気で可視化してからラウールが解析し、同じもので座標を少し変えたものを新たに描いて使用していた。しかし、今回はそれができない。
だからこそ、別の方法を探さなければならないのだが。
🤍「これ以上の情報はないんだよね。ここで現れて、ここで消えた。ってことは、めめの木に頼っても新しい情報は出ないし、阿部ちゃんの電波が遮断されてるから位置情報も拾えない。あとは、ファントムの調査をしてる岩本くん達の方で何か進展があればいいんだけど」
事務所に残った渡辺と宮舘の二人は、並んでソファに座ったまま動いていなかった。
💙「くそっ。なんでまた、阿部ちゃんなんだよ」
❤️「……闇オークションの時のは、阿部は巻き込まれた側だよ」
💙「そうだよ。俺が巻き込んだ」
❤️「そういう意味じゃなくて」
どこまでも平行線になりそうな渡辺に、宮舘はハァッとため息をついた。
もちろん、渡辺の気持ちは分かる。宮舘とて、どうして阿部がと思っているし、今回のことにも内心では相当、怒っているのは事実。けれど、感情的になっていては見落とすこともある。捜索するなら渡辺の異能も必要になってくるのだから。
それを、怒りだけで何も見えなくなるのが一番、阿部の救出から遠のいてしまう。
❤️「確かに阿部はそういうの多いよ。ここは調査局だから危険な依頼も多いし、誰かが捕まってしまう事もある。でも今回は、今までとは別の感じがするから、余計なんだよね?」
💙「……」
❤️「照が言ってた、明確に阿部を狙ってるってところが引っかかってるんでしょ? 興味本位だった水族館の時ともSixTONESの時とも、たまたま阿部が標的になった夕星の時とも違う。だから、怖いんだよね」
一つ一つ、渡辺の反応を見ながら言葉を紡いでいる。
今の渡辺の感情や、考えていることを言語化していくように。
💙「……そうだよ。怒って誤魔化してるだけで、すっげー怖い。オークションの時、俺のせいでって思った時に、震えた。俺の行動一つで阿部ちゃんの命が消えるのかと思って、怖くなった……まだその時の感覚が、消えねえんだよ……」
微かに震えている渡辺の手。
闇オークションの時、もちろん、最初は自分が狙われているなんて思いもしなかった。阿部と二人で調査をしているから邪魔しにきた、ただそれだけだと思っていた。それなのに、阿部が捕まり、その時に初めて標的は自分で、阿部を巻き込んで、その巻き込んだ阿部にだけ危険が及ぶのを知った。
渡辺自身には危険はなかった。それはあの、LOTのリーダーの男も言っていた。だから抵抗もした。とはいっても、たった一度、数秒動かなかっただけ。強い反抗ではなかった。それでも阿部は傷つけられた。
一瞬、自分の気持ちを優先しただけで。
いつも、感情的になりすぎて注意される。窘められる。けれど自分は自分だから、感情の赴くままに行動していいと思っていた。けれど、そうではないのだと突き付けられた気がした。
だから今も、感情のままに動くのが怖い。
自分のせいで、また阿部がもっと危険な目に遭ったらと思うと、動けない。
❤️「……俺はその感覚、なくさなくていいと思うよ」
その言葉に、弾かれるように宮舘を見る。
💙「……は?」
❤️「怖くて何が悪いの? 大切な人が、自分のせいでいなくなるかもしれないって、そんなの、怖いに決まってる。それを、翔太は今、自覚したんだよね。だったら、その感情と向き合えばいい。その感覚を忘れずに、じゃあ、どうしたらいいのかを考えればいい……翔太はそれ、できるでしょ」
そっと、宮舘の手が重ねられた。いつものひんやりとした手だ。
生まれてすぐの時から知っている、宮舘だけの体温。不思議と、手の震えは止まっていた。
💙「……考えるの、苦手だけど」
❤️「そこは俺がフォローするよ。翔太の考えてることくらい、分かるから」
💙「なんか、言い方ムカつく」
❤️「それでいいよ。俺はそれでも平気」
💙「……俺、どうしたらいい?」
❤️「翔太はどうしたい?」
ずっと、宮舘は静かに答えてくれる。この距離感が、この包み込むような温かさが、渡辺の心を落ち着かせてくれる。
すぅっと大きく息を吸った。
💙「阿部ちゃんを捜す。俺の使えるもん全部使って、捜し出す」
❤️「そうだね。じゃあ、俺たちも動こうか」
💙「おう」
重ねていた手を離し、横並びのまま拳と拳をぶつける。
もう、渡辺に迷いはなかった。
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