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#SnowMan
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目が覚めると、そこは真っ白な空間だった。
冷たい床の感触と、ぼんやりとしていた視界がクリアになったことでハッとして、阿部は体を起こした。
目の前に広がるのは、巨大な白い箱。
動こうとして、手の違和感に気付いて自分の手を見つめる。両手首につけられている黒いバンド。それは両手首を繋ぐように同じ素材のものが取り付けられ、少したるんでいる。両手を離すように左右に引っ張ると、少し伸びたのでゴム製のものだと思われる。
足を見ると、同様に足首に黒いバンドが付けられ、その間をベルト状に黒いゴムが伸びている。立ち上がり、数歩だけ歩いてみる。歩く分には問題ない長さだが、走ることはできなさそうだ。
足を止め、辺りを見回す。
学校の体育館ほどの広さがあるだろうか。阿部一人がいるには、巨大すぎる空間だ。
天井を見上げ、視界に映った天井付近にあるガラスに視線を移す。意識を失う前には見えていた廊下が、今は見えなくなっている。恐らく、マジックミラーのようになっていて切り替えができるのだろう。
そのガラスがある方の壁に向かって歩き、壁を向きながらぴたりと手を添える。この角度だと、こちらの姿は見えない筈だ。逆側の壁にはガラスなど見当たらないから、監視するとしたら一ヵ所しかない。
ふぅっと息をついてから、壁に沿って歩き始めた。壁を触りながら、ゆっくりと歩いて行く。今のところ、特に仕掛けはなさそうだ。
そうして部屋の半分ほどまで来た時、グン、と体が引っ張られた。そこで改めて自分の体を見てみると、腰にも同じような太いバンドが巻かれていて、その先は奥の壁に繋がっている。
壁に固定されている紐部分を掴んで引っ張ってみる。ゴムが伸びる。もう一度、全力で引っ張ってみる。
💚「わぁっ」
勢いよく戻ってしまった為に、後ろに引っ張られて尻もちをつくように床に倒れた。
💚「そうだよね、ゴムだもんね……」
紐や鎖なら違ったかもしれないが、ゴムだから引っ張った分だけ戻る力が働いてしまう。無理に取ろうとすると、ケガをするのは阿部の方。
動き回るのは自由。でも、半分以上先には進めない。部屋の中には、簡素なベッドが一台置かれているだけで、その他には何もない。
💚「なんか、飼われてる感が強い……実験動物程度にしか、考えられてないんだろうな」
ぽつりと呟いた阿部。
その姿を、ガラスの反対側の壁に設置された小さなカメラが捉え、ガラスのある部屋のモニターに大きく映し出される。それはマジックミラーになっているガラスに重なるように映し出されていて、ガラスから50センチほど離れたところに、柊は立っている。
その手には大き目の、ブルーグレーのタブレットとスタイラスペン。
阿部の行動を見ながらチェックリストに印をつけていく。
「ふむ。未知の液体を注射されたというのに、動揺は見られませんね。拘束されている時点で、命の危険はないと判断したのでしょうか。それとも、体に異常がないから平気だと考えているのかもしれませんね。そして手の拘束の確認。同時に素材も確かめていたように思います。足の拘束に気が付き、歩行で確かめる。そしてここのガラスに気が付いてすぐに死角に入り込む……なかなか面白いですね。焦りがない分、動きに全く無駄がありません。それでいて、一つずつ確かめながら推測と一致しているかを試し、自らの安全範囲を確定している。実に論理的だ」
ずらりと並んだチェック項目には、次々と印が付けられていく。
「しかし、これだけチェックが進むのも珍しい。ここまではしないだろうと思われる項目まで入れているのですがね。このままだと、1時間もかからずに全ての項目が埋まりそうです……それはそれで、良きデータにはなりますが……なんだか腑に落ちませんね」
持っていたペンで頭を掻く。
それでも阿部の行動は止まることを知らず、結局、全ての項目が埋まるのに47分しかかからなかった。
タブレットを見つめる柊。
「……何がいけなかったのでしょうか。足りていない? 想定が違う? いいえ、想定は間違っていません。項目が埋まっていることが証明しています。では、想定の範囲が狭すぎた? ですが、もたらされた情報を最大限に考慮し、想定外のものも入れたはずです。それなのに、行動が速い……いえ、速すぎる。可能性を潰す時間が、圧倒的に短い。だから、速い。処理能力? それとも、考えずに動いている? いえ、思考を巡らせている時間は見て取れます。数秒の沈黙がありますから。では、判断が早いということでしょうか。その可能性は十二分にありますね。では、項目を追加するなら……」
ぶつぶつと独り言を口にしながら、柊はタブレットにペンを走らせ続けた。
ふうっと、ベッドに腰かけて阿部が息をつく。
💚「声は届いてないようだし、喋っても平気かな。監視カメラって、いいようで良くないよね。付けるなら、声が拾えるものの方が圧倒的にいい。それに、そんなにタブレットばっかり見てたら、せっかくの情報、拾えないよ?」
そう呟いて、ふふっと笑う。
あの時、ガラスを見上げた後に死角に入るように壁の方に向かった。そこで阿部は、電子の異能を使っている。
電脳空間に入り込んで監視カメラ映像を覗き、自分がどの位置にいるのかを見てカメラ位置を把握。その上で、ガラスの向こうのモニターに干渉して柊が持っているタブレットを発見し、その中身も見ている。
だからこそ、柊が何を目的に阿部を監視しているのか知る事ができた。
💚「電子機器の中にゴムが使われてることもあるから、電子の方ってゴムに干渉されないんだよね。でも多分、電子の異能は警戒されてないんだろうな。攻撃手段でもないし。俺が普段、どうやって使ってるのかまでは知らないんだね。だったら、やりようもある」
言いながら阿部は、見えていないであろう柊がいるガラスに向かって、ピースサインを送った。
特務調査局での阿部の捜索は、難航していた。
圧倒的に足りない情報。ファントムの痕跡のなさ。手がかりはあるのに解読できない魔術式。完全に手詰まり状態だった。
❤️「調べても調べても、何も出てこない……」
💜「まあ、ファントムって名乗ってるくらいだから本名じゃないんだろうけど」
🤍「あっちはどう? ルミナシアパークのオーナー」
🩷「ぜんっぜんダメ。アポなしは無理って話も聞いてくんない」
🤍「そっち側から切り崩せたら、ちょっと進展すると思ったんだけどな……」
💛「翔太の方は?」
💙「エドヒガンの妖精に会って来た。阿部ちゃんが大変だから行方を追ってほしいって頼んだら、喜んで引き受けてくれた。他の妖精にもコンタクト取ってくれるらしい」
🩷「え、めっちゃ頼もしいじゃん」
🧡「こっちも、あのフェネックに会わせてもらったけど、星詠みは万能やないから、特定の未来は見えへんって。阿部ちゃんに直接会わなあかんから、こういう時には使えんらしい」
💜「そうだよね……」
🤍「SixTONESも調査してくれてるんだけど、やっぱり情報はないよ。異能力グループをまとめてるから、かなりの人数に聞いてくれたんだけどね、ファントムらしき人物の噂を聞いた人もいなかったみたい」
なりふり構っていられないので、使える縁は全て使っている。
それでもまだ、何も掴めていないのが現状だ。
💜「めめは?」
💛「一人でずっと探し回ってる。あちこちの木の記憶を、片っ端から見てってるっぽい。やめろって言っても、今は無理だろうな」
🩷「阿部ちゃんのことになったら、ね」
タブレットを見つめながら、柊は少しだけ目を細めた。
「……終わりましたね……」
全てのチェック項目が埋まっているのは、目に見えている。あの部屋で想定できる行動は全て書き入れた。それがもう、終わってしまった。
途中、疲れたのか阿部が眠ってしまったので中断することはあったけれど、それでもやはり、柊の想定の3分の1の時間しか掛かっていない。
「……何故でしょう……」
その呟きは誰にも届かない。
それは柊自身にも、だ。
だから柊はタブレットから視線を上げて、ガラスのすぐ傍まで来ると下を覗き見る。そこには、ベッドの淵に座りながら、足をパタパタと動かしている阿部の姿がある。膝の上に両手を置いて、少し左右に揺れている。
「……彼は一体、何をしているのでしょうか……」
タブレットとペンを持ったまま、柊は廊下を歩き始めた。
エレベーターに乗って目的の階数に辿り着き、スライドドアの横に設置された認証機に手を翳すとドアが開く。
入ってすぐに聞こえてきたのは、やわらかな歌声だった。
何故、歌が聞こえるのか。一歩を踏み出し、カツ、と靴音が鳴り響くと、その歌は途切れて阿部がこちらを向く。
そして阿部は目が合うなり、小さく会釈をしてきた。
「……」
柊の思考が一瞬、止まる。今、彼は何をしたのだろうか。
けれどすぐに切り替えて阿部の方に向かい、1メートルほど手前で止まった。
「……気分はいかがです?」
💚「……いいように見えます?」
「こちらの質問に答えて下さい」
💚「おかげさまで、睡眠以外にやることがないから元気です」
「……何か必要なものでも?」
💚「本とかあればいいなとは思いますよ。ずっと時間を過ごせる。え、訊くってことは、言ったら通る可能性はあるんですか?」
「訊いただけです」
💚「ですよねー。まあ、いいですけど」
「……出してくれとも、帰してくれとも言わないのですね」
💚「言ったらどうにかしてくれます?」
「いいえ」
💚「でしょ。分かってることは、わざわざ言いません。それこそ、無駄でしょう?」
「そうですね。合理的ではありません」
💚「俺も同じです。あれ、話、合いますね」
どうも話が噛み合わない。柊の質問と阿部の返答が、柊の中で全く合わない。それはパズルのピースを無理やりはめ込んだような違和感。
だから柊はまた、思考を止めてしまった。
💚「あれ? 俺に何か用事があって来たんじゃないんですか?」
「……はて?」
💚「……えっ?」
今度は阿部が首を傾げる番だった。
💚「いやいやいやいや……ん? そもそも、俺のこと攫ってきたのって、理由があってですよね? じゃなきゃあんなに手の込んだことしないでしょうし。いやむしろ、理由なしであれは怖すぎますって」
「理由は当然ありますが。今は観察の方を先に済ませているところです。なかなかに興味深いデータが取れましたよ」
💚「へぇ、どんな?」
「目覚めてからの行動パターンや、導線、何に気付き、何に気付かないのか」
💚「それ、俺ってクリアしてました?」
「ええ。全て埋まりましたよ。細かなところまで」
💚「……そのデータって、見れたりします?」
「……興味がおありで?」
💚「もちろん。俺の行動を客観的に見る事ってないし。それ、観察用なら特に機密情報のようなものってないですよね? あ、あったらその部分は省いてもいいですけど」
「……本当に見たいのですね。使っていないタブレットがあるので、そちらに問題ないデータだけ移しますよ」
💚「え、いいんですか!? やった」
「では、準備してきます」
そう言って、柊は踵を返すと阿部のいる部屋から出て、エレベーター前まで来るとそこで足を止める。
「……今、一体、何をしていたのでしょう……?」
疑問は解消されるどころか、増えていくばかりだ。
コメント
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柊を翻弄している💚さんが可愛すぎます🤣