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………いや、本当に何だこれは。
クレーターの深さは、浅い部分ですら私の身体がすべて入ってしまうほどで、最も深いところでは私の身長の3倍ほどの深さがある。
広さは、浅いところで両手を広げたほどで、最も深く広い場所はその7倍ほどの広さがある。
まったく、ただのクシャミで何でこんなことになってしまうんだ。
あぁ、せっかく集めて一ヶ所にまとめておいた細枝と樹葉が土砂の山に埋もれてしまっている。
だが、考えようによっては好都合かもしれない。深く、広くえぐれたこのクレーターは、寝床にするにはちょうどいい形状をしている。
吹き飛んで山盛りになっている土砂も、形を整えて固めれば寝床の土台にするには良いかもしれない。
とは言え、今から作業を始めたらかなり時間が掛かってしまうだろう。
この際、集めた細枝と樹葉は諦めて新しいものをもう一度採取して当初の予定通り簡易的な寝床を作るとしよう。それほど時間はかからない筈だ。
今度はクシャミをしないように、鼻に細枝を当てないよう両脇にそれぞれ束ねた細枝を抱えることにした。
さらに、尻尾で浅い盃上のとぐろを巻き、そこにも細枝をのせる。これで運搬効率はずっと良くなるだろう。
結果、前回よりも半分にも満たない時間で必要な量の細枝と葉を回収し終えることができた。
集めた細枝を、私が両手足を広げられる広さに置いていき、膝ほどの高さまで積み上げる。
試しに手で押してみれば、それなりの弾力が感じられる。
本格的な寝床を作るのは、自分の能力の検証が終わってからにして、今はこの寝床で我慢しよう。
横向きに身体を寝かせ、尻尾を頬に当たるように添えて目を閉じる。
思えば、目覚めてからというもの、私は自分の検証しかしていないのではないだろうか。
いや、決してそんなことは無かった。
移動中に樹木に実った果実を好き放題に食べていたな。
費やした時間でいえば一番長かった筈だが、検証結果の衝撃が強すぎるせいで、すっかり忘れ掛けていた。
それにしても、何を基準にしているかは分からないが、私は、自分の能力が我ながら馬鹿げた性能をしていると判断している。
そもそも、記憶がまるでないにも関わらず、こうして思いにふけるぐらいには知能も知識もある。大体、この知識はどこから来ているものなのだろう。
駄目だ。考えれば考えるほどに泥沼にはまっているような気がする。
考えても答えが見つかりそうにないことよりも、もっと建設的なことに思いをはせるとしよう。
まず、私の願望は何だろうか。それが私の行動方針を決定づけることになる。
私の願望。まだ見ぬ可愛らしい、モフモフした動物達と戯れたい。
何故かは分からないが、鳴き声を聞いた時から、その鳴き声の主が可愛らしい動物だと私の知識が訴えているのだ。
しかし、私の身体能力で動物達を撫でたり抱きしめようとすれば、間違いなくその生命を脅かすことになってしまうだろう。
よって、能力の検証が終わり次第、やるべきことは力の制御である。
これは最優先事項だろう。十分に制御が出来るようになったら、今度は生活環境を整えてみるのも良いかもしれない。
怪我の功名とは言え、せっかく寝床にするにあたってちょうどいい空間が出来たのだ。利用できるものなら利用しよう。
それが済んだら森を散策してみよう。動物もだが、水の流れる音が聞こえたのならば川があると考えていいだろう。
水分の補給は果実があるからいいとして、身体についた汚れを落とすのに水が欲しい。それに、土を固めるのにも水は必要だろう。
この場所から川が遠かった場合は地面を抉ってここまで水を運んでくればいい。私の身体能力ならば時間はそれなりに掛かるかもしれないが、肉体労働的には造作もないことだろう。
散策している際に、可愛らしい動物達に出会えたのなら、言うことは無い。
彼等はどのような姿形をしているのだろう?想像を膨らませている内に、意識がまどろんでくる。
まどろみに身をゆだねて、意識を手放すとしよう。
…体に温もりを感じ、閉じた瞼越しに明かりを感じる。どうやら日が昇ってきたらしい。
瞼を開けて身体を起こす。
寝床から立ち上がり、伸びをして、軽く身体を動かし自分の体調を確認する。
身体に違和感は無い。体調は至って良好なようだ。軽く跳躍し、クレーターの外に出る。
さて、それでは尻尾、及び鰭剣《きけん》の性能の検証を行うとしよう。
私の尻尾の先端から生えているこの鰭剣。現状、唯一私の身体に傷と痛みを与えることが出来たことから(おそらく私の牙もやろうと思えば私の身体を傷つけることは出来るだろうが)、私の身体の中で最も凶悪な部位ではないかと思っている。
尻尾の筋肉量は私の腕や足よりもずっと多い。しかも手足以上に精密かつ自在に操れるとなれば、拳による突きや足による蹴りよりも、大きな破壊を生み出すのは間違いないだろう。
胸の高さから真っ直ぐ壁に向けて軽く鰭剣を突き立ててみる。
全く抵抗を感じることなく壁に鰭剣が全て突き刺さってしまう。
そのまま尻尾を地面に下ろせば、これも抵抗を感じることなく動かせてしまう。鰭剣を壁から抜く。
拳による突きや蹴りも抵抗を感じることなく壁に穴を開けたりは出来たが、それは全力を出した上で破壊を行った部位が、壁を瞬く間に溶かしてしまうほどの高熱を帯びていたからだ。
対して鰭剣は、常温のまま抵抗を感じることなく壁を切り裂いている。特に力を込めることも無く、だ。切れ味が良いどころの騒ぎではないな。
私が全力で尻尾を攻撃に用いた場合、どれほどの威力になるのか分かる範囲でいいから確かめなくてはならない。
それでは、尻尾をどこまで速く動かせるか試してみよう。
尻尾を操り鰭剣を再び壁に突き入れ、壁から私の全身相当の大きさに一塊の岩としてくり抜く。
くり抜いた岩を手にして持ち上げてみると、見た目通りの重量を認識することはできたが、容易に片手で持ち上げることができた。
重量を認識することと、重さを感じることは、別問題らしい。
私は手にした岩を私の頭の高さまで軽く放り投げると、可能な限りの速さで尻尾を操り、鰭剣によって空中の岩を連続で切り裂く。
私の全身相当の大きさがあった岩は、私の目の高さに降下するまでの間に、昨日食べた果実大ほどの大きさの石に等分割された。
そのうちの一番低い位置にあった石を胸の高さに降下するまでの間に果実とそっくりな形状に加工することが出来た。このまま続けて、他の等分割された岩も加工してみよう。
結果、石が地面に落ちるまでに全部で六つの果実の形をした石のオブジェクトが完成した。
せっかくなので、加工できなかった石も全て加工してしまおう。
私の尻尾は私の想像を遥かに超えて精密に、そして機敏に動かすことが出来るようだ。
鰭剣は岩を容易に切り裂き突き刺すことが出来るが、尻尾の方はどうだろうか。
私は再び先程と同じ大きさの岩をくり抜き手に持って頭上に放り投げると、落下に合わせて全力で尻尾を岩に突き刺した。
信じられないことが起きた。正直、自分のことながら気持ち悪い。
岩は私の尻尾に貫かれて空中に固定されて微動だにしない。
その際に聞き慣れた例の破裂音も当然のように発生しているし、例によって突き刺さった部分は赤熱し湯気が立っている。
問題は、岩を貫いた尻尾の方だ。
とんでもないことに、四十歩近く先まで尻尾が伸びているのだ。
しかもそこまで伸びているというのに、尻尾全体に感覚があり、自在に操ることが出来るという確信が私にはある。
現に、岩を突き抜けた二十歩ほど先にある尻尾を動かしてみると、尻尾が伸びる前と同じ要領で思い通りに操ることが出来たのだ。
ちなみに、それよりもこちら側にある尻尾の位置はしっかりと固定されていて、岩を含めて先程から微動だにしていない。
「何じゃこりゃあ…」
無意識の内に声が漏れる。
仕方がないだろう。
自分の尻尾が伸びるなどとは、夢にも思わなかったのだから。