「そ、それで脅しているつもりですか。偽物様」
「偽物呼ばわりしないで下さい。今すぐにでも、その首を跳ねられたいようですね」
「と、とんでもない」
グランツが、チクリと、ラアル・ギフトの喉元に剣を当てるものだから、私は、そこまでしなくていいとグランツに命令を下す。グランツは、納得いかないと言った感じだったが、剣を鞘にしまって、私の後ろへと戻り、ラアル・ギフトを睨み付けた。
ラアル・ギフトは、目の前の凶器から解放されたのか、また少し態度が大きくなっていた。矢っ張り、グランツについて貰っていた方が良かったかな、なんて思ってしまうほどに。
(ほんと、此の男、嫌い)
自分が一度、攻撃された相手だからっていうことで、警戒心とか、そういうの、諸々含めていやだって思っているっていうのもあったけど、生理的に受け付けないなあと思った。この男は、今にでも袋だたきにしたい。けど、やることはやらないといけないし、ちゃんと情報は聞き出さなきゃと、私は心を落ち着かせる。
後ろで、ラヴァインが笑っていたのを、耳で感じながら、ラアル・ギフトに脅すようにして、訪ねる。
「アンタ達の組織は何をしようとしてるの。ヘウンデウン教……災厄はもう過ぎ去って、混沌も眠りについたのに、これ以上活動する理由はあるの?」
「何も答えられませんね」
「……死ぬとしても?」
「はい。わたしは、口が堅い方なので」
と、にこりと笑うラアル・ギフト。その胡散臭い笑みがはらたって、矢っ張り殴りたくなってきた。暴力に訴えちゃダメって分かっていても、手が出そうになる。
グランツも、指示があればいつでも、といった感じに後ろにいてくれるし、安心なんだけど。
(拷問とか……した方が良いのかなあ……)
いやいや、何でそんな思考になるの自分、怖い。なんて思いながら、でも話さないなら、その手段を執るしかないと思った。リース暗殺にも関与しているだろうし、まず連れて帰ってはかせたところで死刑だろう。だから、どうせ殺されるなら、話さないって言う手段を執っているのかも知れない。まあ、組織の幹部としては、正しい行動なのかもだけど、あまりに厄介で、顔の割に、全然口を開いてくれない。
ニコニコと私達を見下すように滑稽とでもいうように見つめるから、気味が悪くなってくる。だって、もう、攻撃の手段はないはず……
(ない、よね……?)
考えると怖くなってきた。でも拘束しているんだし、大丈夫だよねって自分に言い聞かせて、ラアル・ギフトを見る。綺麗な人ではあるんだけど、それ故の恐怖感というか。綺麗だからこそ、何処かに毒があるようなそんな感じの人だなとは思う。実際、毒を扱う人だしそう思っちゃうのかも知れないけど。
「アンタは、自分の命がそんなに軽いものだって思ってるの」
「軽い?そうですね。軽いんじゃないでしょうか」
私の質問に対して、ラアル・ギフトはまたにこりと答えた。
ああ、もう話が通じないかも知れないと、私は、首を横に振る。
死の恐怖がない人間。じゃあさっきのはフリ? 殺さないでって言ってたじゃない。でも、こうやって拘束されたら、死んでも良いみたいな、どっちが本物のラアル・ギフトか分からなかったけど、私だってむやみに人の命を奪おうなんて思わないし、そもそも、人が死ぬのだっていやなのに。
意味が分からない。
「本当に――」
「エトワール、此奴に何いっても聞かないよ」
「ラヴィ……」
と、ラヴァインが私の肩をポンと叩いた。確かに何を言っても無駄かも知れないけれど、でも、せっかくとらえたんだし、どうにか活用しないと、っていうのは思った。
ラヴァインは首を横に振って、もういい、見たいな顔をする。
そうして、私に変わって、ラアル・ギフトの所へ行くと、ストンと、その場でしゃがみ込み、ラアル・ギフトの顔を覗き込んだ。
「ああ、裏切り者がここにもいましたね。貴方は、何故、我々を裏切って、そちら側についたのですか」
「俺の質問だけに答えてよ。てか、俺アンタのこと嫌いだし、好かれてるとでも思ったの?」
「貴方が嫌がるような事した覚えはありませんが」
一方通行、会話になっていないなあ、何て思いながら、私は二人の行く末を見守った。ラヴァインならどうにかしてくれるんじゃないかってそんな期待が、何処かにあって、私は、グランツの側によって、彼らの会話に聞き耳を立てる。
「エトワール様」
「何?グランツ」
「いいんですか、生かして」
「生かしてって……いうか、情報が欲しいの本当だし。彼奴から、情報が得られたらなっては思ってるけど」
「得られるでしょうか」
「否定的!何で!」
いやあ、口堅いと入ったけどラヴァインが本気で拷問し始めたら分からないよ!? なんて思いながら、私はグランツを見た。でも、グランツは諭すように私を見た後もう一度だけ「無理だと思います」と口にした。
「ラアル・ギフトは多分何も知らないと思います」
「え、え、え、じゃあ、何でヘウンデウン教なんかに」
「それは、彼しか分かりません。自分の快楽のためか、他の理由があってか。でも、彼は、凄い信仰心の強い人でしたから」
「……それは、一時期ヘウンデウン教にいて、思った事?」
「……兎に角、捉えたところで、戦力をそぐことしか出来ないと思います」
「無視した!?ねえ、今無視した!?」
都合の悪いことになったら、無視する癖。それに対して、私が怒らないって知っているからこそ、グランツはそんな態度を取ったんだろう。憎たらしい。黙秘権というのは存在するわけだし、別に怒らないけど。
(じゃあ、ラアル・ギフトは今、エトワール・ヴィアラッテアを信仰しているってこと?)
盲信者って感じもするし、あながち間違っていないかもするけど……
けど、こうしてとらえられたのに、意味がないっていうのは少し悲しい気もする。こっちは命を張って大サソリを倒して、グランツは、危険な魔道士と戦ったっていうのに。
もし、戦力をそぐことが、狙いだったら……
あり得ない話じゃないのが怖い。でも、あっちにも、かなり戦力を残してきているし、トワイライトや、リースが危険な状態になるということはないだろう。少なくとも、トワイライトは単体でも強いし……
(聖女が強いって言うのは、何かアレなんだけど……)
本来戦うというより、浄化とか、治癒とかに特化している存在なんだけど、イメージで何処までもいける魔法を持っているからこそ、魔力のある聖女が戦闘特化って言うのは、納得がいく話で。
(ああ、待って、話がそれたかも)
「けど、戦力を落とせたのは良いんじゃないかな。ほら、もう一人のエトワール・ヴィアラッテアも、強いっていっても、まわりにヘウンデウン教の仲間がいたら、アレだと思わない?」
「そう、ですが……俺は」
「グランツ?」
「だっめだよ。あれ、全然口わらないんだもん」
「あ、ああえっと、お疲れ、ラヴィ。矢っ張り、ダメそう?」
つかれた、という感じに戻ってきたラヴァインは、肩をすくめ、もう、面倒くさくなったといわんばかりに、私を見た。一応、ラヴィンもグランツもラアル・ギフトと面識あるからか、彼の面倒くささを知っているのだろう。
まあ、口を滑らせてさえくれないなら、もう仕方がない。
何処かに縛り付けて、真実の聖杯を持ってとっとと、帰った方が良いだろうな、と私は二人に指示を出してこの場を後にしようとしたとき、嫌な、魔力が足下を這いずり回った。
「……っ、何これ、嫌な魔力。グランツ?ラヴィ?」
「ああ、そういうこと。面倒くさいなあ」
「エトワール様、ラアル・ギフトの首を切り落とす許可を下さい」
ずるずると、だんだん溢れていく魔力に驚いて、私はその場から動けなかった。二人はいち早くにそれ気づいて臨戦態勢を取っているのに、説明なしでは、私には、どうしようもなかった。早く、と、二人に責められるが、私は、訳が分からなくてふとラアル・ギフトを見る。すすと、彼の足下に、禍々しい黒色の魔方陣が浮かび上がった。
(何、これ……)
今までで一番嫌な魔力。
光でも、闇でもない魔法。
「フハハハっ!ここで、負けると思ったんですか。この身を犠牲にしようとも、エトワール・ヴィアラッテア様の願いは叶えますよ!」
「この、盲信者……ッ!」
グランツに、送れて指示を出し、ラヴァインも風魔法で、応戦しようとしたが、一足遅かった。足下に広がった魔方陣は私達を包み込むようにして、神殿をも飲み込んだ。
ガッと足下が崩れ、その下にあいた大きな穴に、私達は真っ逆さまに落ちていく。何が起ったのか、未だに理解できていない。
(ちょっと、まって、おちる――!?)
何かに捕まろうにも、捕まるものなんてなくて、魔法で引っかけようにも、混乱しすぎて、魔法が定まらない。下は、見るだけ、奈落のようで、そこが見えない。
「あーもう、エトワール!捕まれ!」
「……ヴィ、ラヴィッ!」
風魔法で、自身を浮かせ、手を伸ばし私に向かってくるラヴィ。自分もそうすれば良いのだろうが、魔法が使えなくて、彼の手を取るしかなかった。私は必死に手を伸ばし、パシンッと乾いた音を立てて、彼の手を握ることが出来た。その瞬間、ふわりと、身体が浮き、彼の魔力圏内に入ったんだなって一瞬で分かった。身体が軽い。
「ら、ラヴィ……ありがとう」
「お礼は良いよ。いや……生きて帰れてから、聞こうかな?」
「え……」
そういうと、ラヴァインはその顔からストンと感情を落とし、崩れゆく石を踏みながら、地上へと戻った。一体何が起ったのだというのだろうか。
(でも、すっごくヤバいっていうのだけ分かる)
未だに、身体に伝わってくるあり得ないほど強力な魔力のようなもの。おぞましい何か。
もしかしたら、これがグランツのいっていた禁忌の魔法なのではないかと、何だかそんな予感がした。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!