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「例えば、美佳さんが史子さんを問い詰めて、史子さんが美佳さんの旦那さんとの不倫を認めても、美佳さんは『あんただって不倫してるくせに』みたいなことを言われたら、それ以上は何も言えないよね」
確かに、そうだ。
「でも、友達関係も夫婦関係も、きっと破綻する。美佳さんは旦那さんに対して言えない怒りをもつだろうし、同時に史子さんが旦那さんに自分の不倫をバラしたらどうしようかと不安にもなる」
「キツイね」
「うん。だから、俺は詩乃が美佳さ「でも、知っていて言わないのは――」
「――どうして言えなかったの?」
「――――っ」
言えない。
言えなかった理由を、言えない。
『せっかく子供がいないのだから』と言われたなんて。
私以上に、祥平が悲しむ。
「言わなかったんじゃない。言えなかったんなら、それは詩乃のせいじゃない」
夫の片足が、私の足の間に差し込まれる。
必然的に身体がより密着し、私は祥平の鼓動の速さに驚いた。
「愛してるよ、詩乃」
聞いている私の方が胸が痛くなりそうなほどの鼓動が、更に力強く跳ねる。
「私も、愛してる」
久しぶりに口にした感情に、私の鼓動も激しく加速する。
「触っても、いい?」
「え?」
足の間に差し込まれた彼の足が曲げられ、私の足の付け根を刺激する。
腰を抱いていた手は、お尻におりていく。
「最後まではできないかも――」
「――私も触っていい?」
返事を待たなかった。
私は彼のパジャマのボタンを外し、素肌の胸にキスをした。
祥平が、私に触れることで胸を高鳴らせてくれることが嬉しい。
セックスを『身体を重ねる』と表現するのなら、こうして抱き合って身体を触れ合うのもセックスじゃないだろうか。
そう思いたい。
お互いが愛おしくて、触れずにはいられなくて、もっと誰よりも近づきたいと、他の誰も触れない場所に触れ合うのは、もうセックスと変わりない。
他の人とは違っても、私たち夫婦のセックスの形。
愛のないセックスを、愛だと言う史子や美佳とは違う――――。
挿入こそできなかったけれど、その夜、私たちは確かに愛し合った。
*****
私は幸せだ。
だからもう、史子と美佳の不倫には関わらないことにした。
史子が美佳の旦那さんと不倫していることを、知らなかったことにする。
そう決めた。
それなのに、史子からメッセージが届いた。
〈美佳に言ってないのね〉
私は端的に返信した。
〈関わりたくないから〉
すぐに既読になり、返信が入る。
〈詩乃は昔からそうね〉
意味がわからなかった。が、聞かなかった。
史子が私にも美佳にも何か思うことを抱えているのは、わかる。
何か、はわからないし、わかれば何かが変わるのかもしれないけれど、聞きたくないのが本音だ。
私だって、二人に思うことはある。
みんなそんなものだろう。
私だけが、私たちだけが歪なわけじゃない。
美佳とのランチからひと月ほどして、美佳から飲み会の予定を聞かれたけれど、断った。
美佳からは〈残念。また誘うね!〉と返信がきた。
不倫は順調そうだ。
私と夫の性生活も順調だ。
あの夜以降、互いの素肌に触れ合うようになった。
挿入はできなくても、抱き合って触れ合ってキスをして、互いにそれなりの快感と安心感、幸福感は得られている。
人の幸せは人それぞれだ。
私と夫は、これでいい。