死んだ後の意識は無くなり、死後の世界なんて存在しない。
勿論、魂という概念も人が想像したお伽噺に過ぎない。
私……紙塔來雨は死後についてずっとそう思っていた。
否、そうであって欲しいと思っていたの方が正しい。
何らかの動物に転生してまた生き続けなければいけないのは嫌だし、天国と地獄という存在があれば私は地獄行きだろう。
意識や精神が完全に消滅すれば、もう何も考える必要がない。
だから死後は天国に行くより無になる方が幸せかもしれない。
生前に私は地球上の全生命体を無にすることを強制した。
幸福な感情を犠牲にしてでも、生物のこれからの苦しみを消したかったから。
その過程で、自宅の床を壊したり不法侵入や窃盗をしたり銃を造ったり……さらには2人殺害したこともあった。
魔法のような特殊な物質の力を使って、地球に月をぶつけて破壊する目的。
そんな計画を完遂できぬまま、私は死亡した。
13年の生涯を思い返して、つまらない人生だったなとため息をつく。
(……何故私はため息をつけられているのか?)
そもそも、私は死亡したというのに何故思考できているのだろう。
真っ暗だった視界が明るくなってゆく。
全身に冷たい液体が絶え間なくかかっている感覚がする。
「もがっ!?」
気がつけば私は水中で溺れていた。
激しい濁流が私の身体を押して、一方通行にどこかへ移動させている。
慌ててなんとか水面から顔を出せば、対岸が見えた。
(嗚呼、私は三途の川にいるのか?)
三途の川というものは、死神が漕ぐ小さい船もしくは橋で渡るようなものではないのか。
段々、石でできた対岸がはっきり見えてくる。
激しすぎる波のおかげでわざわざ泳がなくとも、対岸に着けそうだ。
「いてっ」
そのとき脚に鋭い痛みが走った。
まだ痛みの続く脚の方を触れてみると、魚が右脚に噛み付いていた。
魚を脚から引き剥がそうとするが、魚の噛む力が強くて全然取れない。
そして左脚にも別の魚が噛み付く。
(コイツら……後で焼いて食ってやる!)
2匹の魚と小規模の格闘を繰り広げていると、対岸に到着した。
魚が噛み付いたままの脚を対岸に踏み入れたと思ったら、地面は奈落に変わって私は真っ逆さまに落ちた。
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