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haru
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ラムネ@夏目様教者
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泰輝は立ち上がり、兄ちゃんの前まで歩いていき、立ち止まる。
「俺もう、嫌なんです。陽雅さんの事傷つけるの」
「俺の事裏切ったって事?」
「ごめんなさい。でも、限界だったんです」
その場に沈黙が走る。
俺は黙り込んでいる兄ちゃんに言う。
「兄ちゃん。俺の事、いつから騙してたの?」
その問いで兄ちゃんは俺の方に体を向ける。
「…ずっとだよ。陽雅がちっちゃい時からずっと」
「ちっちゃい時から…?」
「父さんと母さんの事も、陽雅の異常な独占欲も、優真くんの事も、恭也くんの事も、全部俺が仕組んだの」
淡々とそう言う兄ちゃんを見て、俺は頭が真っ白になる。
「…なんで? なんでそんな事したの?」
「陽雅が悪いんでしょ? 俺から幸せを奪ったから」
「ちょっと待ってよ。俺、何もしてないよ」
「そうだね。陽雅は何もしてない。でも、何もしてなくても、俺から幸せを奪ってた」
「どういう事? 意味分かんないよ」
「陽雅が生まれてきたから」
「え?」
「独占欲なんて全然ない、可愛い陽雅が生まれたからだよ」
(独占欲が全然無い…?)
「…昔の俺は、独占欲が無かったの?」
「うん。そうだよ。でも、俺が陽雅の独占欲を強くしたの。ドルの力使って」
「だって、そんな事したらしばらく目覚まさないでしょ? 兄ちゃんがそんな長い間寝てた事なんて無いじゃん」
「陽雅が優真くんの事紹介してくれた日あったでしょ?」
「優真…」
俺はあの日の事を思い出す。
あの日は確か、優真を兄ちゃんに紹介して、その後優真と家で遊んで、優真が帰った後に兄ちゃんと話をした。
何を話したかは覚えてないけど。
でもその日から兄ちゃんは、二ヶ月眠っていた。
でもそれは、ドルの副作用じゃなくて、過労のせいのはず。
「あの日に、陽雅の独占欲を強くしたの」
「違う。だって、お医者さんが過労だって…」
「そんなの、後から陽雅の記憶改ざんしたに決まってるでしょ」
「そんな…」
「陽雅が先に裏切ったんでしょ?」
「え?」
「陽雅は俺と一緒に居てくれるって、俺だけを愛してくれるって思ってたのに…なんで恋人なんて作ったの?」
兄ちゃんは悲しそうな目でそう言う。
俺は兄ちゃんを裏切ったつもりなんて無かった。
兄ちゃんとも優真とも一緒に居たいと思ってたから。
「別に俺は兄ちゃんの事好きじゃなくなった訳じゃないよ。二人とも大好きだったよ?」
「でもいつかきっと、俺なんてどうでもよくなる。父さんも母さんもそうだった。俺なんてどうでもよくて、陽雅の事だけを沢山愛してた。だからもう要らなくなったの」
(要らなくなった…?)
兄ちゃんは父さんと母さんにも危害を加えていた。
じゃあ、あの二人があんな事になったのは、全部兄ちゃんのせいって事…?
理解が追い付かない。もう何も分からない。
俺が今まで見てきた兄ちゃんは、偽物だったんだ。
俺の目に涙が滲む。
嫌だ。受け入れたくない。兄ちゃんがそんな人間だったなんて、絶対に受け入れられない。
俺の目からは涙が止まらないくらい出ていた。
「…知らない。そんなの俺の兄ちゃんじゃない。俺の兄ちゃんは優しくていつも俺の事見てくれてて、俺を正しい道に…」
違う。
兄ちゃんが優しかったのは、俺を騙すため。
兄ちゃんがいつも俺の事を見ててくれたのは、俺を監視するため。
そして、兄ちゃんは俺を正しい道に導いてくれてたんじゃなくて、兄ちゃんの都合のいい様に俺を操っていただけ。
「…さすが陽雅。俺の事よく分かってるね。俺、そんな陽雅が大好きだよ。陽雅も俺の事、大好きだよね?」
兄ちゃんは不安そうな顔で俺を見る。
俺が黙ったままでいると、兄ちゃんは突如表情を変え、嬉しそうに言う。
「ねぇ陽雅。また昔みたいに二人で暮らそう。俺、昔は幸せだったんだよ。俺は陽雅が大好きで、陽雅も俺が大好きで。二人だけで楽しくて、幸せだった」
そう言った後、兄ちゃんは不機嫌そうな顔に変わる。
「でも、陽雅が友達なんて作るから。ほら、涼也くんだよ。あの子と仲良くなってから、陽雅涼也くんばっかりになったでしょ。別に友達くらいならいっかって思ってたら今度は恋人なんて作っちゃってさ」
再び黙ったままでいると、兄ちゃんは言葉を続ける。
「まぁ、もうみんな居なくなったしいいけど。あっ。陽雅。早く恭也くんと別れてよね。俺と二人で暮らそう? ね?」
そう言って兄ちゃんはニコッと笑う。
「…嫌だよ。だって、俺の知ってる兄ちゃんじゃないから。俺の兄ちゃんは…」
「優しくて、いつも陽雅を見てて、間違ったら正しい道に導く。昔の俺だね」
「そうだよ。だから、今の兄ちゃんは好きじゃない」
俺の言葉を聞いて、兄ちゃんは慌てた様子で言う。
「そんな事言わないで陽雅。俺、昔のお兄ちゃんに戻るからさ。陽雅の理想のお兄ちゃんになるよ。後、陽雅の独占欲も元に戻してあげる。俺だけ愛してくれるなら、もう必要無いし」
「俺の理想の兄ちゃんはもう居ない。偽物の兄ちゃんなんて要らない」
「要らないって、もしかして俺の事言ってるの?」
「そうだよ。兄ちゃんなんて大っ嫌い」
俺の言葉を聞いて、兄ちゃんがこっちへ近づく。
俺は後ずさりしたが、両肩をバッと掴まれた。
「なんでそんな事言うの? 陽雅、俺の事好きでしょ?」
「離してよ。好きじゃないって」
「違うでしょ? 陽雅はいい子だから、俺の言う事聞けるよね?」
その言葉を聞いた瞬間、俺の抵抗する気力が失われる。
そっか。これも兄ちゃんのドルの力のせいなんだ。
俺はいい子だから兄ちゃんの言う事を聞いてた訳じゃない。
ドルの力で言う事を聞くように仕向けられてただけ。
嫌だ。もう、いい子になんてなりたくない。
「…聞きたくない。兄ちゃんの言う事なんて」
「だったら、無理にでも聞かせてあげる」
そう言って兄ちゃんは俺の手に自分の手を近づける。
避けたいけど、俺の手は動いてくれない。
その時、兄ちゃんの手を、泰輝が掴んだ。
「陽煌さん。やめてください」
そう言う泰輝を、兄ちゃんは見る。
「泰輝。邪魔しないでよ。今は俺と陽雅の時間なの」
「すみません。でも、陽雅さんに無理やり言う事聞かせるのはやめてください」
「なんで。別にいいでしょ。陽雅と俺で幸せになるだけだよ」
「俺じゃダメですか? 俺は陽煌さんと一緒に居たいです」
泰輝は寂しそうな声でそう言う。
「そっか。そうだよね。俺も陽雅も居なくなったら、泰輝は血貰う人誰も居なくなっちゃうもんね」
「そうじゃなくて、俺は陽煌さんと居たいんです」
「へぇ〜。そんなに俺の血、気に入ってくれたんだ。泰輝は俺と居たいんじゃなくて、俺の血が欲しいだけでしょ?」
疑うような目でそう言う兄ちゃんに泰輝は真剣な目で言う。
「違います。俺、陽煌さんが好きなんです」
「嘘だ。俺の事、血を貰う相手としか思ってないくせに」
「何言ってるんですか。俺は本当に陽煌さんの事…」
「だったら、なんでいつも泰輝から好きって言ってくれないの?」
兄ちゃんは震えた声でそう言う。
「えっ?」
「俺に手出した事もないじゃん。俺の事、抱く気無いんでしょ。好きじゃないから」
泣きながらそう言う兄ちゃんに泰輝は慌てた様子で言う。
「違います。俺は陽煌さんが好きです」
「じゃあなんで俺の事抱いてくれないの?」
「それは…」
泰輝はそこで言葉を止め、俯く。
俺はただ、二人の様子を眺めていた。
兄ちゃんは、俺達の様子を見て、呟く。
「…もういいよ。俺の事愛してくれないなら、みんな要らない」
何かされると思い、兄ちゃんから離れると、兄ちゃんは扉に向かって走り出した。
「陽煌さん…!」
そう言う泰輝に目も向けず、兄ちゃんはリビングを出ていった。
少しして、玄関の扉が閉まる音が聞こえる。
俺たちはただ、立ち尽くしていた。
コメント
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読み終えました……第51話、一気に核心に迫る回でしたね。 陽煌さんが「ずっと仕組んでいた」と告白するシーン、背筋が冷たくなりました。特に「陽雅が生まれてきたから」という台詞が、彼の歪んだ愛情の根っこを突いていて、胸が苦しかったです。これまで優しい兄として描かれてきた姿が、全部偽物だったとは……伏線として「過労で寝込んだ」エピソードが実は記憶改ざんの場面だったと分かる構成も、巧みだなと感じました。 泰輝が「陽煌さんが好きです」と告げる場面も、切なかったですね。でも陽煌さんは「俺を抱く気がないんでしょ」と泣き叫び、最後は「みんな要らない」と去ってしまう。支配者でありながら、誰よりも愛に飢えている孤独が伝わってきて、単純に憎めないキャラクターだなと思いました。 続きがすごく気になります。灯依さんの構成力、本当に引き込まれます。