あれからしばらくが経ったある日
相変わらず佐久間からの連絡を待っていた深澤は、古株の昼パパの紹介で異業種交流会に参加していた。
名刺を持って笑顔で挨拶する自分に、少し違和感を覚えながらも、パパの指示通り“個人事業主”として振る舞う。
中央には立食用の軽食が並び、参加者たちは名刺を交換したり、談笑したりしている。
個人事業主としての深澤辰哉は、芸能界のコネも、新しいパパ候補も、ましてや佐久間との繋がりも、全くと言っていいほど収穫がなく、諦めてお酒と食事を楽しんでいた。
そんな中、ふと視線を感じる。
あたりを見回すと、スーツ姿の若い男性と目が合った。
瞬間、深澤は思わず動きを止める。
彼も深澤に気づいた様子で、少し驚いた表情の後、微笑む。
(……あの人、俺のこと見てる?)
心の中でざわつきが広がる。
彼の視線は鋭く、でも表情は柔らかい。
深澤は、なぜか緊張する胸の高鳴りを感じていた。
それからまたさらにしばらく経過し、佐久間とのことは、ある種ワンナイト的な遊びだったと割り切れるようになった時、深澤は困っていた。
先日の誕生日に今まで羽振りの良かった夜パパが1人切れたのだ。
決して怒らせたとかでは無いが、金の切れ目が縁の切れ目。単純に俺を飼えるだけの余裕がなくなったのだろう。
その日は東京湾をひと周りするナイトクルーズで貸し切りパーティーをしてくれた。
男同士のパパ活。多少の顔なじみや共通の知り合いはお互い口にしないだけの常識。
10人程の見知った顔が俺の誕生日を祝ってくれた。
前もってそれで最後だと言われていたから、そこに悔いも焦りも、ましてや悲しみもない。
豪華な食事に高級シャンパン、誕生日プレゼントには時計とバッグ。(ここだけの話、バッグは現金を仕込むのにも丁度いい)
とても幸せな時間だった。
その中に一人だけ、若いスーツ姿の男がいた。見知った顔じゃない。
豪快に笑うパパ達の輪には加わらず、グラスを片手に静かに俺を見ている。
(誰?)
見知ったパパ達とは違う雰囲気。
どこかで会ったことがあるような、ないような……妙に引っかかる顔だった。
そして、そいつが今目の前にいる。