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あの日、
異業種交流会のざわめきの中、阿部の視線は自然とひとりの男に止まった。
深澤辰哉。
どうやら「個人事業主」のようだ。
けれど、その笑みは俺にとって見覚えのあるものだった。
“生き残るための顔”
大学時代、自分も同じ顔をしていた。
金をくれる相手の機嫌を読み、上手に立ち回る。時に誇りを捨て、媚びるように笑う。
あの頃は必死で、それでも未来を掴むための仮面だった。
(まだ、あの歳で続けてるのか)
そう思った瞬間、胸の奥でざらついた感情が騒ぎ出す。共感とも、哀れみとも、違う。
もっと単純に、目を離せなくなった。
そこから、ツテを頼りに深澤を探した。
誕生日クルーズに顔を出したのは、単なる偶然で気まぐれだ。
けれど、視線が交わったときに浮かんだ深澤の反応に、俄然興味が湧いた。
interesting……そう心の中でつぶやき、グラスを傾ける。
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ド派手なバースデークルーズの翌日
企画したパパから最後の連絡が届いた。
そこには、今までの感謝が綴られていた。
ただ、最後に『昨日の参加者で特に辰哉を気に入ったという人の名刺を預かってるよ。最後に顔を立てると思って連絡してあげて。』と書かれていた。
プレゼントと一緒に入っていた名刺
これの事か、と昨日のクルーズの光景を思い返した。
俺の勘が正しければ相手は十中八九あの若いスーツの男だろう。
「……仕方ないか」
小さく呟き、スマホに指を滑らせる。
しばらく躊躇したけれど、結局は画面をタップしてしまった。
『こんにちは。昨日のクルーズで名刺をいただいた辰哉です』
送信ボタンを押すと、すぐに既読がつき、数秒後、返信が返ってきた。
『早速連絡ありがとう』
短い文面なのに、あの余裕のある微笑みが蘇る。
『こちらこそ、ありがとうございます』
『良かった、安心したよ。じゃあ、明後日の金曜日19時に□□ホテルに来て。そこで話そう』
有無を言わさないこの感じ。
数ヶ月前の佐久間との事を思い出させるには十分だった。