テラーノベル
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映画館を出ると、すでに空が茜色に染まっていた。
僕はこの夕焼け空が大好きだ。
まるで今日が終わろうとしていることを教えてくれているように感じるし、視界いっぱいに入るそれはとても美しいし。
でも、不思議だ。今日はいつもよりもずっと美しく、ずっと美麗に感じる。僕の心がすっかり魅了されてしまう程に。
小出さんと一緒だからかな。
「じゃあ小出さん。そろそろ夕飯でも食べに行こうか」
「そうですね。私もお腹空いてきちゃいました」
そう言って、小出さんはお腹の辺りを手で押さえている。あ、これ、よっぽどお腹が空いちゃってるのかな? さて、じゃあどこに行こうかな。
とか心の中で言ってみた僕だけど、本当は一切迷っていないんだよね。
徒歩で約一分足らずの所に大型のショッピングモールがあるから。ほとんどのシネマコンプレックスって、大体大きな商業施設の中に入ってたり、隣接してたりするもので。
で、僕達がさっきまでいた映画館も例にもれず。と、言った感じ。
「じゃあさ。そこのショッピングモールに行こうと思うんだけど、小出さんはそれでも大丈夫かな?」
「うん、大丈夫だよ。あそこって色んなお店があるもんね」
ちなみに。僕はさっき『夕飯』と言ったけど、少しだけ違うんだよね。
夕飯じゃなくて、僕的にはクリスマスディナーなんだ。せっかくのクリスマスなわけだし、いつもの様に適当に、みたいなことはできるだけ避けたいんだよね。
かといって、小出さんを超が付くほどの高級店に連れていってあげられるだけの財力は僕は持ち合わせていなくて。当たり前だけど。だってまだ高校生だし。お小遣い少ないし。アルバイトもしてないし。
でも、こういう時にショッピングモールって便利なんだよね。安いお店ももちろんあるけど、ちょっとだけ気持ちお高いレストランコーナーもあるから。
それに、お高いとは言っても僕のお小遣いでなんとかなるレベルだし。
うん。ショッピングモール最高。
* * *
「うわあ、人がいっぱいだね」
僕達はショッピングモールに着いたわけだけど、まあ人の多いこと多いこと。
映画館が混んでたのはなんとなく分かるんだけど、ここにも多くの人達がいるとは思わなかったよ。
すごいね、クリスマス効果って。
「そ、そうですね。なんか、き、緊張してきちゃいました」
「え? もしかして、この人の多さで? でも、さっきまでいた映画館も混んでたけど全然平気そうじゃなかった?」
「そ、そうなんですけど……あ、あれは『異世界に飛ばされたオッサンは防具をつけないで常に裸で戦います。だけど葉っぱ一枚じゃただの変態だよ!』が観たかったし、ぐ、グッズも欲しかったので緊張しなかっただけで……。ほ、本当は私、ひ、人混みが苦手なんです……」
あー、なるほど。小出さんらしいや。
一緒に秋葉原まで行った時も、映画館でも全く緊張してなかったのは、好きなこと――小説とか漫画とかアニメとかが目的だったからなんだ。
確かに、ネットカフェの受け付けの時は見事なまでにコミュ症発動しちゃってたもんね。
もしかして僕、チョイスを間違えっちゃったかな?
「気付いてあげられなくてごめ――あれ? こ、小出さん?」
さっきまで隣にいたはずの小出さん、行方不明に。え!? も、もしかして耐えきれずに帰っちゃった?
ぐわあーー!! だとしたら、やっぱりチョイスを間違えちゃった!! うう、どうしよ……。
と、思ったんだけど、全然違った。
ぐるりを見渡すと、すいーっと何かに引き寄せられるようにしてお店の中に入ろうとする小出さんを発見。
よ、良かった……。
「ビックリしたよ。小出さん、急にいなくなっちゃうんだもん。……って、どうしたの?」
「ここ! 園川くん! ここにしよ!」
え? こ、ここって、いわゆるフードコートだよね? 庶民の味方のようにリーズナブルな店舗がたくさん入ってるけど……。
でも、小出さんの目がキラキラ輝いてる。
そして、じーっと見つめるその先には――
「か、カンタッキーフライドチキン、だよね?」
「うん! 私、チキン大好きなの! だからここがいいの!」
あー、そうだったんだ。だからあんなにも目を輝かせてたんだ。
確かに、クリスマスといえばやっぱりフライドチキンだったりするわけだけど、くクリスマスディナーとしてはどうなんだろう……。
「ほ、本当に? 本当にここでいいの?」
「うん! ここがいい! 早く食べたい!」
……あれ?
「ねえ、小出さん? ついさっきまで緊張してたはずじゃ……」
「あ、そういえば……。今は全然緊張してない、かな。なんでだろ?」
僕のよく知るいつも通りの小出さんをぽかーんと見つめる僕である。
小出さん、人混みに対する緊張よりもチキンの魅力が勝っちゃったんだね。
小出さんの新しい一面を見ることができて、なんだか嬉しいな。
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